鈴木くんと鈴木さん

作:早川ふう / 所要時間 25分 / 比率 2:0

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2012.10.20.


【登場人物紹介】

タケシ
  26歳。社会人4年目。勤務先が変わったのを機に一人暮らしを始めることに。
  実家では何も手伝いなどしたことはなく、家事は一切出来ない。
  なんとかなる、と家を出てきたポジティブ馬鹿。

ツヨシ
  23歳。大学院生。大学入学を機に一人暮らしを始めている。
  家事はそこらの主婦にひけをとらない。几帳面。
  笑顔の裏にネガティブな自分を隠しているが、実は積極的なタイプ。


【配役表】

タケシ・・・
ツヨシ・・・



  (夜。アパートの一室。タケシが母親と電話で話をしている。)


タケシ   「お袋? なんだよ。……あー、うん。大体片付いた。
       大丈夫だって。手伝いになんて来なくても平気だから。
       ……ああ。わかってるよ……隣の部屋には挨拶いくって!
       ……手ぬぐい? んなもん使わねーだろ、蕎麦買ったよ!
       ……ああ、わかってっから! ……じゃあな!
      (電話を切る)
       はあ……ったく、過保護すぎるっつーの。
       あっ、結構いい時間だし、隣に挨拶いくか……」

(隣に行き、チャイムを鳴らす)

ツヨシ   『はい?』

タケシ   「隣に越してきたモンですけど、ご挨拶に伺いましたー」

ツヨシ   『わざわざどうも、いまあけます』

タケシ   「……蕎麦でよかったかなあ……」

(ドアが開く)

ツヨシ   「こんばんは」

タケシ   「あ、ども。えっと、今日、隣に越してきた鈴木です」

ツヨシ   「えっ」

タケシ   「"えっ"?」

ツヨシ   「ぁ、僕も、鈴木です。鈴木剛(ツヨシ)。ほら、上の、表札に……」

タケシ   「え、あっ(表札を見て)……えぇぇええ!?! 俺ッ、これ名刺なんだけど!」

ツヨシ   「……っ、同姓同名!?」

タケシ   「いや、俺は読み方タケシなんだけどね」

ツヨシ   「あぁ、そうなんですか。……でも、びっくりですね」

タケシ   「こんなことってあるんだなあ」

ツヨシ   「これも何かのご縁ってやつですかね?
       よろしくお願いします」

タケシ   「こちらこそ。
       あ、これ! つまらないものだけど」

ツヨシ   「ご丁寧にありがとうございます。
       何かわからないことがあったら訊いて下さい」

タケシ   「あー助かります! 都内って初めてでわかんないこと多くて!」

ツヨシ   「僕は院生なんですけど、大学入ったときに越してきてるから、もう5年になるかな。
       ここらのことはそこそこわかりますんで、いつでもどうぞ」

タケシ   「あ、ありがとう!」



ツヨシ    このときの僕は、まだ仮面をかぶって人と接していた。
       笑顔を貼り付けて、心の距離を置いて。
     
タケシ    このときの俺は、まだ一人暮らしを舐めていた。
       甘かったよなぁ。
       まさか、こんなにも……仕事と家事の両立が難しいだなんて!



(ある夜。ツヨシの部屋。)

ツヨシ   「…ん? ……いま、表でどさって物音がしたような……?
      (ドアをあけて)うわ!!!!」

タケシ   「ぅ……」

ツヨシ   「す、鈴木さん!? どうしたんですか!?」

タケシ   「いや、わかんねぇ……ちょっとふらついて……」

ツヨシ   「顔色悪いですよ!? 風邪でもひいてるんですか!?」

タケシ   「そんなことは……丈夫なだけが、取柄で……」

ツヨシ   「そんなカオして言われても説得力皆無です!
      (抱え起こして)歩けますか!? 行きますよ?
       あ、鍵これですね……家あけますよ、いいですか?」

タケシ   「ぁ、あぁ……」

ツヨシ   「(部屋に入って)……ええええええええええええええ!?!?!?」

タケシ   「ど、どうした……?」

ツヨシ   「ここ、僕の隣の部屋ですよね?」

タケシ   「ああ、俺の部屋だから、そういうことになるけど……」

ツヨシ   「なんっでこんなに汚いんですか!?」

タケシ   「え……?」

ツヨシ   「ゴミだってたまってるし、あっ、缶とペットボトル一緒にしちゃだめですよ!
       うわっ、お弁当の残りも生ゴミとわけてないですね!?
       あーあー洗濯物だってぐっちゃぐちゃ……
       こんな中で生活してたら誰だって体調崩しますよ!!!」

タケシ   「……ここんとこ、ろくなもん、食ってなくて」

ツヨシ   「え!?」

タケシ   「弁当とか惣菜ばっか食ってたら、金なくなっちゃって、
       給料日まであと少しだから……月曜だからさ……この土日しのげば大丈夫だし……」

ツヨシ   「もしかしてコレ……栄養失調!?」

タケシ   「そんなまさか……ちょっと食わなかったくらいで」

ツヨシ   「と、とりあえず、鈴木さん、僕の部屋で休んでください!
       この部屋じゃ健康に悪すぎます!」



タケシ    その日の記憶は、実はほとんどないんだけど。
       俺は鈴木くんの作った雑炊を鍋一杯たいらげたあと、一日眠り込んでいたらしい。

ツヨシ    人が栄養失調で倒れている現場に遭遇したら、さすがにほっとけない。
       そして、あんな部屋を見てしまったら尚更だ……。


(夕方。ツヨシの部屋。寝ていたタケシが目を覚ます)


タケシ   「ふぁ〜ぁ(欠伸)……あれっ、ここ……??」

ツヨシ   「……あ。おはようございます」

タケシ   「うぇ?! あ、す、鈴木くん!? え!? なに!? ああっ、もう夕方!?!?」

ツヨシ   「ずっと寝てるからやっぱり具合でも悪いのかと思いましたけど、
       熱もなかったようなので、そのまま寝かせておきました。
       もしかしてなにか予定でもありましたか?」

タケシ   「今日……? えっと今日は……いつ?」

ツヨシ   「今は、土曜の夕方ですよ」

タケシ   「俺、すっげー寝たな……! あっ、ごめん!
       俺もしかしてベッド占領してたよなっ!」

ツヨシ   「一日くらいどうってことないですよ。
       それより身体は大丈夫ですか?」

タケシ   「ああ、なんかすっげぇすっきりしてる!
       久々にゆっくり眠ったからかな〜」

ツヨシ   「それはよかった」

タケシ   「あ、俺が今着てるシャツって、もしかして鈴木くんの?」

ツヨシ   「ええ。僕には少し大きかったんで着てなかったやつなんですよ。
       寝間着にいいかなって」

タケシ   「ああっ、俺のスーツとかばんは!?」

ツヨシ   「かばんはそこに。中身とか見てませんからご心配なく。
       スーツは鈴木さんの部屋にかけておきましたが」

タケシ   「あ、携帯スーツのポケットか……!
       週末になると、親からメールか電話が必ず来るんだよ。
       返事しないとすごい剣幕だからさ。
       ちょっと、失礼するわ。
       ほんとごめんな、迷惑かけて」

ツヨシ   「いえ、困ったときはお互い様ですから」

タケシ   「お礼は改めて! このシャツとスウェットも洗って返すから!
       じゃあ、ありがとう!!」

ツヨシ   「あ、鈴木さん、これ、鈴木さんの家の鍵!」

タケシ   「おう! ほんとありがとな!!! じゃなっ!!!!!!!(部屋を出ていく)」

ツヨシ   「……嵐のような人だな、……ま、いーけど」

(直後、慌ただしい足音がして、扉が勢いよく開く)

タケシ   「なあ!!!!」

ツヨシ   「ど、どうしました!?」

タケシ   「な、なんであんなに部屋が綺麗になってんの!?」

ツヨシ   「え??」

タケシ   「靴屋の小人みたく妖精が掃除してくれたとか!?
       それともドッキリ!? いや、リフォームの匠!?!??!」

ツヨシ   「あの、落ち着いてください……」

タケシ   「俺の部屋なのに、俺の部屋じゃないんだよおおおおおおおおおお!!!!

ツヨシ   「ぷっ………あははははははは!!!」

タケシ   「なんで笑うんだぁ!?」

ツヨシ   「だって、よく靴屋の妖精だの匠だの思い浮かびますね?
       鈴木さんって面白い……!
       すいません、ふふ、お節介かとは思いましたが、
       今日鈴木さんの部屋を掃除させてもらいました」

タケシ   「えっ、……じゃああれ全部鈴木くんが!?」

ツヨシ   「はい。
       あんな中で暮らすなんて不衛生すぎますから。
       変な虫でも涌いて僕の部屋にまでこられても困りますし」

タケシ   「う……それは、確かに……(眩暈でふらつく) わっ……」

ツヨシ   「あっ鈴木さん!? 大丈夫ですかッ」

タケシ   「ぁー、……腹、へった……」

ツヨシ   「……あははははははははははははは!!!」

タケシ   「そ、そんな大笑いすることないだろーが……」

ツヨシ   「腹へったって、そりゃ一日寝てればお腹もすきますよ!」

タケシ   「だよな! ……ん? 今俺普通のこと言ったんだよな?
       なんで笑うんだよー」

ツヨシ   「だってあんまり情けないカオするから……」

タケシ   「そ、そっか」

ツヨシ   「気を悪くさせたらすみません」

タケシ   「いや、……鈴木くんさ、そんな風に笑ったりするんだな?」

ツヨシ   「え?」

タケシ   「笑うと少し幼く見える」

ツヨシ   「そ、そうですか?」

タケシ   「でも、そうやって笑ってるほうがいいよ。
       なんつーか……いつも、感情我慢してるみたいに見えるからさ」

ツヨシ   「え……」

タケシ   「俺、営業だからさ、これでも人を見る目はあるんだ!」

ツヨシ   「自信満々ですね」

タケシ   「そりゃそうさ。こないだもひとつ仕事取ってこれたし!
       人を見る目と笑顔は俺の武器だ!!」

ツヨシ   「鈴木さん、裏表なさそうだし、無駄に前向きだし、
       そういうところが信頼されるのかもしれないですね」

タケシ   「そういう鈴木くんこそ、ほんとは結構毒吐いたりするタイプ?
       我慢してると爆発するよー?」

ツヨシ   「そんなに子供じゃありませんから、コントロールくらいはできます!
       鈴木さんに言われるまでもなく!!」

タケシ   「……なんか、鈴木くんー鈴木さんーって、ほんと紛らわしい会話してるよな俺たち」

ツヨシ   「……ですね」

タケシ   「でも同じ苗字だからしょうがないんだよなぁ。
       ……あ、だったら名前で呼ぶか!!」

ツヨシ   「えっ?!」

タケシ   「タケシって呼べば解決するだろ!?
       俺もツヨシって呼ぶからさ!」

ツヨシ   「え、ちょっとそれは……」

タケシ   「ダメ!?」

ツヨシ   「だって、その、お隣さんとはいえ、友達でもない年上の方をそう気安くは……」

タケシ   「なんだよ、もう友達だろ!? こんなによくしてくれたもんな!」

ツヨシ   「……それは……なんていうか……」

タケシ   「大体こんなによくしてもらっておいて、友達とも思わないっつったら
       それこそ俺どんだけヒドイ奴なんだ、って思わねぇ?」

ツヨシ   「そうですか……?」

タケシ   「むしろ、最初の挨拶からほとんど交流できてなかったのに、
       こうやって面倒みてもらったんだぞ?
       感謝したってしたりないじゃんか!
       それなのに明日からハイまた他人ってのはどう考えてもおかしいって」

ツヨシ   「別にそんなに大げさに考えてもらいたくてやったわけでも、
       感謝されたくてやったわけでもないので……」

タケシ   「っつーか、普通赤の他人の為にあんだけしないだろ!
       俺を泊めるのはまだしも、わざわざ家掃除して、ゴミ出して、洗濯したりはしないだろ!?」

ツヨシ   「あんな状態の部屋見ちゃったら、さすがにほっとけないですよ」

タケシ   「おひとよしだよな〜ツヨシって」

ツヨシ   「えっ、ちょ、名前!」

タケシ   「まぁまぁ、こまかいとこは気にすんなって!」

ツヨシ   「でも鈴木さんっっ」

タケシ   「タケシ」

ツヨシ   「無茶言わないで下さいよ、鈴木さん」

タケシ   「ターケーシー」

ツヨシ   「……鈴木さ」

タケシ   「ターケーシー!!」

ツヨシ   「…………タケシ、さん……」

タケシ   「ははっ! よっし、それでいい!!!!」

ツヨシ   「そんな満面の笑みで……、ほんっと強引っていうか単純っていうか……」

タケシ   「あーそれより、ごめん!」

ツヨシ   「はい?」

タケシ   「……腹へりすぎて死にそう。悪いけど、なんか恵んで?」

ツヨシ   「……あっはははは!!
       いいですよ、有り合わせの簡単なものでよければ」

タケシ   「助かる〜! 給料入ったら飲みにでも行こうぜ奢るから!」

ツヨシ   「それでまた給料日前に倒れたらどうするんです?
       ちゃんと生活リズムから見直して、家計のことも考えないとだめですよ」

タケシ   「んーーー苦手なんだよな〜そーゆーの」

ツヨシ   「やってくれる彼女とかいないんですか?
       あ。いたらこうなってないですよね……」

タケシ   「お、少し毒吐いた!?」

ツヨシ   「いや、そんなつもりじゃ」

タケシ   「だからそれでいーんだって! 友達なんだからさ!
       無理すんなってこと!!!」

ツヨシ   「はあ……」

タケシ   「ツヨシはツヨシのままでいいんだって! なっ!?」



ツヨシ    それからなんとなくタケシさんとの【ご近所付き合い】が始まった。
       家事を教えて掃除と洗濯はなんとかできるようになってくれたけど
       料理だけは、きっと根っから向いていないんだろう。
       だから、仕方なしに面倒をみるようになった、と言った方が正しいかもしれない。

タケシ    家事をひととおり教えてもらったが、料理だけは俺には無理だった。
       ツヨシは諦めたのか、朝晩のメシの面倒をみてくれるようになった。
       おかげで俺は、ツヨシに帰宅時間をメールしたり食費を渡したり、と
       まるで嫁さんができたような生活になっていた。



ツヨシ   「おかえりなさい」

タケシ   「ただいま〜」

ツヨシ   「僕もさっき帰ってきたところで……ご飯もうちょっとかかりそうです」

タケシ   「じゃあ先家戻ってシャワー浴びてくるわ」

ツヨシ   「はーい」



タケシ    繰り返される、ちょっと不思議な会話。

ツヨシ    こんなふうに誰かと一緒にいられるときがくるなんて。

タケシ    居心地がよすぎて、なんか変だ。

ツヨシ    でも僕は、だめなんだ……。

タケシ    おかしいかな……

ツヨシ    このままだと……僕は……

タケシ    ずっと一緒にいたいと思ってしまう……

ツヨシ    離れられなくなってしまう……



タケシ   「ふー、ご馳走様! 今日も美味かったぁ!」

ツヨシ   「うん……」

タケシ   「どうした? 元気ねぇな、なんかあったか?」

ツヨシ   「別に何も」

タケシ   「体調悪いのか?」

ツヨシ   「大丈夫」

タケシ   「大丈夫なわけないだろう! 顔色悪いぞ?」

ツヨシ   「大丈夫だってば!!!!」

タケシ   「っ……」

ツヨシ   「……片付けるね」(片付け始める)

タケシ   「おい、お前、ほとんど食ってねーじゃん」

ツヨシ   「朝、食べるから」

タケシ   「どうしたんだよ」

ツヨシ   「こないで」

タケシ   「おいツヨシ」

ツヨシ   「邪魔しないでください!」

タケシ   「おま、そんな言い方はないだろ?!」

ツヨシ   「……っ、……」

タケシ   「……ツヨシ……? 泣いてる、のか?」

ツヨシ   「泣いて、ない……っ」

タケシ   「どうしたんだよ……」

ツヨシ   「どうも、しない……」

タケシ   「洗い物はあとで俺がやるよ。とりあえずこっち来いって」

ツヨシ   「やだ」

タケシ   「ツヨシ……」

ツヨシ   「……っく……っ」(ぽろぽろ泣くかんじで)

タケシ   「……泣くなよ……頼むから。
       どうしていいか、わからなくなる」

ツヨシ   「ごめんなさ……」

タケシ   「謝るなって。
       お前が泣いてんのに、何も出来ない自分が嫌なだけだからよ」

ツヨシ   「そんなふうに、思わないでください……」

タケシ   「でも……」

ツヨシ   「全部、僕が悪いんですから」

タケシ   「何の話だかわかんねーけど、悩みがあるなら相談乗るぞ?」

ツヨシ   「悩みなんかじゃ、ないです」

タケシ   「じゃあ何だよ?」

ツヨシ   「言いません」

タケシ   「はぁ!?」

ツヨシ   「言ったら、全部なくなっちゃうから」

タケシ   「なくなっちゃうってなんだよ……」

ツヨシ   「言っても無駄なことは言わないんです」

タケシ   「無駄かどうか、言ってみなきゃわかんねぇだろうが」

ツヨシ   「わかりますよ」

タケシ   「なんで」

ツヨシ   「タケシさんは、普通の人だから」

タケシ   「普通って、なんだよ? どーゆー意味だ?」

ツヨシ   「あなたは普通で、僕は普通じゃないからです」

タケシ   「意味わかんねぇ」

ツヨシ   「……前、タケシさん僕に言いましたよね。
       感情を我慢しているように見えるって」

タケシ   「ああ、言ったな」

ツヨシ   「あれ大正解です。僕はいつも我慢してます。
       だって、感情を抑えて、他人と距離をとらないと、
       僕は、生きていけない」

タケシ   「何でそこまで思いつめるんだ?
       大体、俺と普通に話してたし、普通に生活してただろ?」

ツヨシ   「そうですけど……もう限界です」

タケシ   「限界って……」

ツヨシ   「……あなたが好きなんです」

タケシ   「……え?」

ツヨシ   「タケシさんが、好きなんです」

タケシ   「……何、言って……」

ツヨシ   「僕は、我慢なんてできない。
       誰かを好きになったら、その人が欲しくなる!
       でも僕は普通じゃないから……!
       そう思っちゃいけないんです!!
       だから普通の人とは距離を置かないといけないんです!!」

タケシ   「なんだよそれ」

ツヨシ   「だって、キモチワルイ、でしょ?」

タケシ   「……」

ツヨシ   「男に好きだって言われて、困らない男はいないでしょ。
       タケシさんは、普通の人だ。
       今まで女性と恋をしてきたんでしょう?」

タケシ   「まぁ、そうだけど……」

ツヨシ   「だから、これでオシマイです。
       安心してください。
       早々に引っ越して、あなたの前から消えますから」

タケシ   「おい、どうしてそうなる!?」

ツヨシ   「失恋した相手の近くで、気持ち悪がられながら暮らせるほど
       僕は図太くないんです」

タケシ   「誰が気持ち悪がってんだよ!!」

ツヨシ   「……え」

タケシ   「驚いたけど……いや、うん、驚いた。
       けど、別に、好かれて嫌だとは思わねぇよし、気持ち悪いだなんて失礼だろうが」

ツヨシ   「僕があなたに尽くしてきたからですか?
       僕にいなくなられると困るからそんな優しいこと言ってくれてるんですよねきっと」

タケシ   「……おいどうしてそうなる!」

ツヨシ   「あなたが彼女を作るなり、結婚するなりすれば、僕は必要なくなります!!
       あなたにとって僕なんて、所詮それだけの価値しかない男です……」

タケシ   「………………違ぇな」

ツヨシ   「え……」

タケシ   「……確かに、俺は、男同士の恋愛とか、正直わかんねえ。
       普通のヤツは、同性に告白されりゃビックリもするだろうし、嫌がるやつもいるのかもしれねえ。
       お前の理屈、わかるよ。
       意味も、離れようとする理由も、わかった。わかったけどさ。
       でも。……嫌なんだよ。お前といられなくなるのは」

ツヨシ   「……タケシさん」

タケシ   「……人の価値は性別で決まるのか? 違うだろ?
       俺が倒れたとき、助けてくれたのは誰だよ。
       家事教えてくれたり、メシ作ってくれたのは誰だよ。
       一緒にメシ食って、一緒に過ごして……
       俺がほっとできる空間を作ってくれたのは、他でもない、お前じゃねぇか」

ツヨシ   「…………」

タケシ   「それをなんだよ。それだけの価値とか、言いきりやがって。
       ……ひとりにすんなよ。頼むから……」

ツヨシ   「……案外、かわいいんですね」

タケシ   「なんだよぉっ!」

ツヨシ   「……いいんですか、僕がそばにいて」

タケシ   「……いてくれっつってんのは、こっちだぞ」

ツヨシ   「タケシさんのことを好きでも、いいんですか?」

タケシ   「だめだって言ったら、いなくなるんだろ」

ツヨシ   「じゃあ、恋人になってくれるんですか?」

タケシ   「……」

ツヨシ   「……なんてね。調子に乗っちゃいますよ僕」

タケシ   「……いいんじゃねえの」

ツヨシ   「え……」

タケシ   「今までしてきた恋愛と何が違うか、ない頭しぼって考えてみたけど、
       別に違わないなって思ったから」

ツヨシ   「それって……」

タケシ   「男同士の知識はまったくねえけど、それでもよければ。
       俺に断る理由は、ない、かな……」

ツヨシ   「……じゃあ、一緒に、いてくれるんですか?」

タケシ   「だから、俺が、いてほしいんだよ」

ツヨシ   「嬉しい、夢みたいだ……」

タケシ   「あっ、また泣いてる!」

ツヨシ   「絶対に、あなたを傷つけるようなことはしませんから。
       ゆっくりでいいですから、恋人になってくださいね……」

タケシ   「お、おう……」

ツヨシ   「ほんとはキスしたいところですけど」

タケシ   「キス!?」

ツヨシ   「今日は、手をつなぐだけでいいです」

タケシ   「それもなんか照れるな……、これでいいか?」

ツヨシ   「……あったかい」

タケシ   「お前もな」

ツヨシ   「大好きです、タケシさん」

タケシ   「……お、おう、俺も、…………あーーー!!
       こっ恥ずかしい!!!!!!!!!」

ツヨシ   「だめですよぉ、手離しちゃ」

タケシ   「だ、だ、だ、だだだだだって!!!!」

ツヨシ   「やっぱり可愛いひとだなあ」

タケシ   「可愛くねぇよ!!!」

ツヨシ   「ゆっくり、歩いていきましょうね。ずっと一緒に」

タケシ   「そ、そうだな。ずっと、一緒に、な……」







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