「いいお店を見つけたんで、今度一緒に行きませんか」
こんにちはのスタンプを厳選し、
いつもと同じ誘いの一文を送信するまでに、
だいぶ勇気と精神力を消耗した。
よし、今日はアイスを食べてもいい日にしよう。
そう甘い自分ルールを満喫していたら、返信が来た。
来週の土曜日の予定が埋まった。
今日からとっておきのパックを使っちゃうんだ。
あ、再来週行く予定だった美容院、早めに行けたら行こう。
せっかく会えるんだもんね。
デートの約束を取り付けた相手には、ここ半年ほど片思いをしている。
合コンで知り合って、連絡先を交換した、ベタな出会いだ。
でも、その後まさかの高校の先輩後輩だったと判明するという
ベタのバーゲンセールを運命的と思うほど、私はロマンチストじゃない。
先輩を誘って向かうのは、おしゃれなバーやレストランではない。
ずばりラーメン屋だ。
先輩は、ラーメンが大好きで、よく食べるそうなのだが、
お店の新規開拓は苦手らしい。
そこで、私の出番というわけだ。
女一人じゃ入りにくいし、という理由で私からも気軽に誘えるし、
先輩にとっても新規開拓の利がある。
そこで話が弾めば、他の遊びの誘いにも繋がりやすい。
恋愛に興味がなさそうな先輩相手には、
こうやって少しずつ攻めていくしかないのだ。
ロマンだけじゃ先輩との距離は縮まらない。
打算、計算、めざせ奥さん！
すみません勢いで言いました。
まずは彼女を目指します。
先輩と初めて一緒にラーメンを食べに行った時、
すごく盛り上がった話題、というか、議題が、
『ラーメンのトッピングに海苔は必要かどうか』。
私は、一応デートの時は避けたいと言ったの。
万が一にでも海苔が歯に付いて、それに気付かなかったら悲惨だもん。
でも、個人的には海苔は大好きなので、要らないとは言えないんだよね。
先輩は、ごはんを食べるなら海苔が絶対必要だと力説。
麺を食べて、残ったスープをごはんに入れて、
海苔と一緒に食べるのが好きなんだって。
いっぱい食べる先輩らしいよ、うん。
ただ、ごはんを食べない時は海苔は要らないみたいなの。
その理由は、海苔と麺を一緒にすすると、
喉に海苔が張り付いて、ごふってなっちゃうから。
何それ可愛い。
と、口に出さなかった私は偉いと思う。
ごふって何だ、ごふって。
可愛すぎるよね。ね。
え、これは惚れた弱みなのかな？
私以外は可愛いとは思わない？
海苔をすすって、ごふってなっちゃうって。
可愛いと思うんだけどなあ。
親友にこのことを話したら、
「惚気乙」
たったそれだけしか返してくれなかった。
ひどいよ。もうちょっと真面目に聞いてくれたっていいじゃない。
ねえ、先輩。
私は可愛いと思ってますよ。
ごふってなっちゃってもいいと思うんですよ。
そんな先輩が、好きなんですよ。
……だからいつか。
私と一緒にいないことを、寂しいと思ってくれませんか。
いつも私と一緒に、ラーメンを食べたいと思ってくれませんか。
ラーメン以外でも、私と一緒に食べたいと思ってくれませんか。
近い将来、もう少しだけ、仲良くなったら。
この気持ちは伝えられるでしょうか。
今はまだ、勇気は出ないけど……ねえ、先輩。