イッツショータイム

作:早川ふう / 所要時間40分 / 2:0

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少しでも楽しんでいただければ幸いです。2023.05.09(2020.05.17)


【登場人物紹介】

城ケ崎
 風俗コンサルタントである程度の稼ぎがある男性。
 女衒(ぜげん)としての評判はよく、裏の世界にも精通しており、
 そこそこの修羅場をくぐってきた経験をもつ。
 頻度は隔週程度ではあるものの、1年以上カテリーヌを指名し、
 大金を落としながら通い続けている。

カテリーヌ潤子
 ニューハーフのショーパブのナンバーワンホステス。
 容姿はそこそこだが、話術と面倒見のよさ、
 そしてキレのあるダンスでナンバーワンにまでのぼりつめた。


【配役表】

城ケ崎・・・
カテリーヌ・・・



(ニューハーフのショーパブのVIP席にて話している二人)

カテリーヌ 「やだアナタ、そんなお仕事やってる人なの!?」

城ケ崎   「まぁな。意外か?」

カテリーヌ 「そぉね。知らなかったわーーー女の敵ッ」

城ケ崎   「人聞き悪いこと言うんじゃねえ!
       恨まれるようなことはしてねぇぞ!」

カテリーヌ 「どうだか。何人の女の子を泣かせてきたのよ?」

城ケ崎   「あのなぁ、俺は女が泣かねえようにする仕事だっての!!
       それぞれの事情と希望に合わせて、職場を紹介してやってんだッ」

カテリーヌ 「ま、このご時世じゃ、まっとうにやってないとすぐ逮捕されちゃうわよね」

城ケ崎   「ったりめーだ。俺は豚箱行きはごめんだよ。
       普通に働いて普通に暮らしたいだけだ」

カテリーヌ 「ふぅん。……でもぉ、結構大変なお仕事なんじゃない?
       城ケ崎さんのお仕事、いわゆる女衒(ぜげん)ってやつでしょぉ?」

城ケ崎   「一昔前はそう呼ばれてたらしいな。
       けど今はこれも立派なコンサルタント。
       風俗コンサルの需要は高いんだぜ?」

カテリーヌ 「ネット社会とはいえ、情報の取捨選択は大変ですものねぇ」

城ケ崎   「風俗なんてのは、女が一番守られなきゃいけねぇ職場だ。
       だからこその風俗コンサル。俺の出番ってなわけよ」

カテリーヌ 「なるほどねぇ、だから羽振りがいいってことかぁ」

城ケ崎   「あ?」

カテリーヌ 「普通に働いてると言ってる割に、うちの店にもだいぶお金落としてくれてるし。
       つまりはそれだけ繁盛なさってるんだなーと思って」

城ケ崎   「それなりに、だと思うがなぁ」

カテリーヌ 「謙遜しちゃって。今アタシの客で一番の上客はアナタなのよ?」

城ケ崎   「それ、お前の客が大したことないってオチだろ?」

カテリーヌ 「ああんつれないのねっ。
       この店のナンバーワンであるアタシの一番だって言ってるのに~」

城ケ崎   「お前ナンバーワンだったのか! 初めて知ったぜ」

カテリーヌ 「んまぁひどいっ、ほんっとアタシに興味もってくれないんだからあっ!」

城ケ崎   「嘘だよ、ナンバーワンになったって連絡もらって、すぐ花届けただろうが」

カテリーヌ 「覚えてたんじゃないのぉ、ほんと意地の悪い男。
       アタシの気持ち弄ぶのうまいんだから」

城ケ崎   「おいおい、弄ばれてるのはこっちだろ?」

カテリーヌ 「あら、どうして?」

城ケ崎   「一回も俺とアフター付き合わねえくせに」

カテリーヌ 「同伴はしてるじゃない」

城ケ崎   「アフターしねえってことは、客とホステスの関係だけってことだろ?
       俺に脈はねぇんだなーって」

カテリーヌ 「ねぇ、ちょっといいかしら」

城ケ崎   「なんだ?」

カテリーヌ 「アタシ……一応、上は工事してるけど、下は工事してないの。
       それに戸籍上だってまだ男だし、本名だってそうよ」

城ケ崎   「そんなん知ってるが、何か問題があるのか?」

カテリーヌ 「えっと、あの……。
       間違ってたら恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけど。
       それってアタシを口説いてるように聞こえるのよ」

城ケ崎   「間違ってねぇ。口説いてる」

カテリーヌ 「えっ……なんでアタシを!?」

城ケ崎   「好みドンピシャだからだ」

カテリーヌ 「アタシ、ニューハーフよ!?」

城ケ崎   「……今更なーに当たり前のこと言ってんだ」

カテリーヌ 「え……」

城ケ崎   「ここはニューハーフのショーパブで、
       お前は俺の惚れた、この店ナンバーワンの可愛いニューハーフだろう」

カテリーヌ 「そりゃぁそうなんだけど……。
       えっと、その……惚れたって……ど、どういう意味なのよ」

城ケ崎   「おいおい辞書を持ってこないとわからねぇとか言わねえよな?
       惚れたって言葉の意味くらいは知っててくれよ。
       俺は同伴も指名もずっとお前一筋なんだ」

カテリーヌ 「だって城ケ崎さん、ストレートじゃないの……?」

城ケ崎   「言ったことなかったか? 俺は博愛主義者なんだよ」

カテリーヌ 「博愛主義、って?」

城ケ崎   「人類皆愛の対象」

カテリーヌ 「つまり、両方イケるってこと?」

城ケ崎   「どんなマイノリティだろうが、魅力あるヤツを俺は好きになる」

カテリーヌ 「……そ、そうなんだ……。アタシ、魅力ある……?」

城ケ崎   「そう言ってるつもりだがな」

カテリーヌ 「……アタシ、よくここに来るキャバ嬢とかホステスにはさ、
       男に騙されちゃだめよとか、今までいっぱいアドバイスしてきたの。
       でもそれって、アタシには関係のない世界だったから容赦なく言えてた部分もあったのよね。
       ……今自分がどうしていいか本気でわからないもの、情けないわ」

城ケ崎   「それ、脈アリととるぞ? いいのか?」

カテリーヌ 「だめね。一番お金を使ってくれるお客様だから断れない、とか
       そういう計算がまったくできなくなってるのよ、今のアタシの心。
       ほんっと不覚だわ。
       『間違ってねぇ、口説いてる』って言われた瞬間、
       ビビっときちゃうなんて……っ」

城ケ崎   「俺に惚れたか」

カテリーヌ 「うぬぼれないでよっ」

城ケ崎   「違うのか」

カテリーヌ 「……意地悪ッ」

城ケ崎   「くくっ、やっぱ惚れたんじゃねぇか」

カテリーヌ 「んもうっ、女心くらい少しは考えなさいよデリカシーないわねぇ!」

城ケ崎   「お前いつから女になったんだ」

カテリーヌ 「心は女よ!!」

城ケ崎   「ああそうだったな、悪い悪い」

カテリーヌ 「ほんっと底意地悪いわ!」

城ケ崎   「そう言うなって。
       俺はカテリーヌっつー人間が好きだからよ、
       男とか女とか、関係ねぇんだよな正直」

カテリーヌ 「んもう……そう言えば許すと思ってるんでしょうっ」

城ケ崎   「そこまで傲慢じゃねぇよ。悪かったって。
       ……そろそろ次のステージの準備する時間じゃねぇか?」

カテリーヌ 「そうね。城ケ崎さんはそろそろチェックかしら?」

城ケ崎   「……なあ」

カテリーヌ 「ん、なぁに?」

城ケ崎   「お前が今晩アフター付き合うなら、帰らねえで次回のショーも観ていく」

カテリーヌ 「え……」

城ケ崎   「って言ったら、お前どうする?」

カテリーヌ 「……それって……」

城ケ崎   「お前と、今夜……」

カテリーヌ 「や、やだぁ、アタシ本気にしちゃうわよぉ?」

城ケ崎   「……」

カテリーヌ 「城ケ崎さん……」

城ケ崎   「ふっ、無理ならここでおとなしく帰るよ。だいぶ飲んだしな」

カテリーヌ 「えっ……」(悲しそうに)

城ケ崎   「寂しそうな声出しやがって」

カテリーヌ 「うっ……」

城ケ崎   「別にここでお前が断ったとしても、
       俺はまた来てお前を指名するし、
       お前を口説き続けるから安心しろ。
       今日の答えはお前次第でいいんだ」

カテリーヌ 「それ、押して駄目なら引いてみろってよく言うあれよね?
       わかっていても、ここぞってとこでやられると抗えないのね、すごい効力だわ。
       自分がこうも簡単に引っかかっちゃうなんて」

城ケ崎   「なんだ、そうわかってて引っかかってくれるのか?」

カテリーヌ 「うるさい」

城ケ崎   「素直じゃねぇなあ。まぁそこが可愛いんだが」

カテリーヌ 「んもうっ、馬鹿!
       あのねぇ、アタシも一応売れっ子なの。ナンバーワンですからね。
       ショーが終わったら他のテーブルにも顔を出さなきゃいけないし、
       城ケ崎さんとずっと話していられるわけじゃないのよ、わかってる!?」

城ケ崎   「そうだな、ナンバーワンを独り占めにはできねぇな」

カテリーヌ 「でも……ショーの感想は一番最初に聞きに来るわ。
       次のショー、上手に踊れたらご褒美をちょうだい」

城ケ崎   「ご希望は?」

カテリーヌ 「ドンペリゴールド」

城ケ崎   「大きく出たな」

カテリーヌ 「……ロゼ、でもいいけど」

城ケ崎   「いいよ、ゴールドで」

カテリーヌ 「ほんと?」

城ケ崎   「ああ。……ショーが終わったら、ドンペリゴールドでお前と乾杯だ。
       あとはおとなしくペリエ飲んでお前を待ってる。それでいいか?」

カテリーヌ 「ええ、いいわ」

城ケ崎   「アフター、行きたいところ、考えとけよ」

カテリーヌ 「ええ勿論。
       アタシがアフターに行くなんて、
       ほんとこんな奇跡ないんだからね、感謝しなさいよ」

城ケ崎   「おう」

カテリーヌ 「どうしようか悩むけど、うんと楽しんでやるんだからっ。
       アタシがわがままな女だってこと、わからせてあげる!」

城ケ崎   「うんと楽しませてやるから安心しろ。
       浮かれてステージですっ転ぶなよ。
       そしたらドンペリはナシだからな」

カテリーヌ 「わかってますよーーーーっだ」



(間)
(ショーが終わって、城ケ崎のテーブルに戻ってくるカテリーヌ)

カテリーヌ 「ど、どうだった?」

城ケ崎   「セクシーだったよ」

カテリーヌ 「ほ、ほんと?」

城ケ崎   「思わずステージに飛び込んで攫って押し倒したくなるくらいに、熱くなったぜ」

カテリーヌ 「や、やだ……」

城ケ崎   「冗談なんかじゃねぇぞ。だから、ドンペリ入れて待ってたよ」

カテリーヌ 「やーーーーんっ久しぶりのドンペリよおおおおおんっ!
       テンションあがるわーーーーーっ」

城ケ崎   「二人の夜に乾杯」

(城ケ崎、グラスをあわせるとそのまま飲み干す)

カテリーヌ 「か、乾杯……」

(カテリーヌ、照れながら遅れて乾杯してグラスに口をつけ一口飲む)

城ケ崎   「どうかしたか?」

カテリーヌ 「なんか、ドンペリってこんな味だったかしらと思って」

城ケ崎   「え?」

カテリーヌ 「今までで一番美味しく感じるの」

城ケ崎   「はっはっは、可愛いこと言いやがって」

カテリーヌ 「だって、そう思ったんだもん」

城ケ崎   「さっき、ステージでさ」

カテリーヌ 「なぁに?」

城ケ崎   「わざと俺を見ないようにして踊ってたろ」

カテリーヌ 「えっ……そ、そんなことないわよ?」

城ケ崎   「一回も目が合わなかったぞ」

カテリーヌ 「そうだったかしらぁ~」

城ケ崎   「照れてたんだろ?」

カテリーヌ 「……失敗したらドンペリ入れないって言ったから集中してただけだもんっ」

城ケ崎   「それだけじゃないよな?」

カテリーヌ 「それだけだもん」

城ケ崎   「さっきは素直だっただろうがっ」

カテリーヌ 「ふーんだ。……あとは、アフターで、話しましょ」

城ケ崎   「おう。……楽しみにしてる」

カテリーヌ 「他のお客さん睨んだりしないでよ?」

城ケ崎   「嫉妬はするが、顔には出さねぇよ」

カテリーヌ 「……バカ」



(間)
(お店が終わった後、城ケ崎の車に乗り込んだカテリーヌ)

城ケ崎   「今日もお疲れ、カテリーヌ」

カテリーヌ 「ありがと。でも、お店の外でカテリーヌって呼ばれると
       何か馬鹿にされてる感じがするわね」

城ケ崎   「なんだそりゃ。カテリーヌ潤子だろうがお前」

カテリーヌ 「そ、そうだけど」

城ケ崎   「改名でもするか?」

カテリーヌ 「今更できないわよう」

城ケ崎   「カテリーヌ潤子……まぁ苗字どこ行ったってツッコミが来そうな名前だが、
       ニューハーフの名前なんてとんでもねぇのばっかりだからな」

カテリーヌ 「印象が第一ですもの」

城ケ崎   「潤子って呼べばいいのか?」

カテリーヌ 「潤ちゃんって呼んで?」

城ケ崎   「ちゃんって歳かよ」

カテリーヌ 「まぁそれどういう意味ーーー!?」

城ケ崎   「お前のことじゃねぇ、俺の話だ!
       女をちゃん付けで呼ぶ歳じゃねぇぞって」

カテリーヌ 「でも、潤子って呼ばれたら……照れるじゃない」

城ケ崎   「照れるんだったら潤子って呼ぶよ」

カテリーヌ 「ほら! こうなると思ったの! バーカ!」

城ケ崎   「ははは、潤子は可愛いな」

カテリーヌ 「それで? 今日はどこへ連れて行ってくれるの?」

城ケ崎   「行きたいところ考えとけって言っただろう」

カテリーヌ 「おまかせにしようと思ったの!」

城ケ崎   「このままホテルに直行するかもしれねぇぞ?」

カテリーヌ 「あら、望むところよ、って言うかもしれないわよ?」

城ケ崎   「……言うじゃねぇか」

カテリーヌ 「いつまでも負けてばっかりじゃありませんー。
       それで、どこに連れて行ってくれるのよ~う」

城ケ崎   「腹は減ってるのか?」

カテリーヌ 「正直そこまですいてないわね。この時間食べると太っちゃうし」

城ケ崎   「そうか。……じゃあ、少し、……俺に付き合ってくれ。
       いいところに連れて行ってやる」

カテリーヌ 「まぁ、楽しみ」



(間)
(夜景の綺麗な港で車を降りる二人)

城ケ崎   「着いたぞ。ここだ」

カテリーヌ 「わぁ綺麗……」

城ケ崎   「お前とアフターできるなら、ここに連れてきたいと思ってた」

カテリーヌ 「夜景の綺麗な港に? デートの王道ね」

城ケ崎   「だろ?」

カテリーヌ 「この時間でも夜景が綺麗なのは、あそこらへんがネオン街だからよね。
       やだやだ、悲しい光だこと」

城ケ崎   「おい現実に戻るの早すぎねえか。
       もう少しロマンティックにできねえもんかね」

カテリーヌ 「アタシそこそこ現実主義だもーん」

城ケ崎   「そうか、覚えとくよ」

カテリーヌ 「ねぇ、どうしてここに連れてきてくれたの?」

城ケ崎   「実は、ここ、俺の地元なんだよ」

カテリーヌ 「あらそうなの!?」

城ケ崎   「ガキのときから、ここにはよく来てたんだよ。
       つらいことがあると、ここで海を見ながら泣いてた」

カテリーヌ 「んまぁ可愛い少年時代」

城ケ崎   「大人になっても、何かあっちゃここに来てる。考え事するにはいい場所なんだよ」

カテリーヌ 「なるほどね」

城ケ崎   「俺と言う人間を知ってもらうには、ここに来るのが一番だからな、
       ……それで、連れてきた」

カテリーヌ 「そう正攻法で口説いてくるとは思わなかったわ」

城ケ崎   「……俺が商売してる街じゃ誰であっても手は出せねぇ。
       信用なくしちまうからな」

カテリーヌ 「だから、仕事場とは遠い地元近くで遊んでたってことね」

城ケ崎   「そうだ。それで、お前と出会えた」

カテリーヌ 「ふふ。遊んでたらまんまとアタシに惚れちゃったわけね?」

城ケ崎   「そうだな。お前に初めて会った時は、奇跡だと思ったよ」

カテリーヌ 「やだ、知ってる? アタシも、……そう思ったよ」

城ケ崎   「そうなのか? そいつは嬉しいな」

(カテリーヌ、がらっと雰囲気が変わり、口調も男らしくなって)

カテリーヌ 「やっとお前を見つけたって、すげー嬉しかったからな」

城ケ崎   「えっ……?」

カテリーヌ 「残念だったな。
       お前が惚れたカテリーヌなんてニューハーフはどこにもいねぇんだよ」

城ケ崎   「……どういう、ことだ」

カテリーヌ 「会いたかったぜぇ。この瞬間を何度夢に見たことか。
       やっと、やっと恨みを晴らせるんだ……」

城ケ崎   「何かの余興のつもりかな? ずいぶん凝った演出だ」

カテリーヌ 「俺の殺意が芝居に見えるなら、そう思っておけばいい。
       怖がらずに死ねるだろうさ」

城ケ崎   「おい待て。お前に恨まれる覚えはないぞ」

カテリーヌ 「そりゃそうだろうよ。俺が誰だかもわかってないんだろ?」

城ケ崎   「……わからねぇな。冥土の土産に教えてくれよハニー」

カテリーヌ 「気味の悪いことを言うな!」

城ケ崎   「つれねぇなぁ、さっきまで散々いちゃついてたじゃねぇか」

カテリーヌ 「吐き気をこらえて話を合わせていただけだ、俺の演技力に感謝しやがれ」

城ケ崎   「……とりあえず、お前は俺に恨みがあって、
       復讐するために俺に近づいた、ってことなんだな?」

カテリーヌ 「ふん、その足りないおつむで、ようやく理解したか」

城ケ崎   「……さすがに理解せざるをえない。悲しいことだがな」

カテリーヌ 「白々しい」

城ケ崎   「これが何かの間違いであればと思ってはいたんだ。
       お前のことはそれなりに気に入っていたんだぜ、だから口説いてたんだ」

カテリーヌ 「あぁ? キメぇんだよクソが」

城ケ崎   「おあつらえむきに、人っ子一人いやしねぇ。
       殺気ビンビンで正体を明かしたってことは、俺をヤる気なんだな?」

カテリーヌ 「当たり前だ」

城ケ崎   「車はどうする。運転手から足がつく、日本の警察は優秀だぞ」

カテリーヌ 「俺の心配なんざ必要ねぇんだよ。お前は黙って俺に殺されればいい」

城ケ崎   「そうまでして俺を殺したい、と。……どうしてそこまで俺を恨むんだ」

カテリーヌ 「心当たりがありすぎるか?」

城ケ崎   「ねぇよ。ねぇから訊いてるんだろうが」

カテリーヌ 「……三橋汐里」

城ケ崎   「みつはし、しおり?」

カテリーヌ 「……源氏名は、ユーリ」

城ケ崎   「ユーリ……」

カテリーヌ 「ここまで言ってもわからないなら救えねえよお前」

城ケ崎   「二年前に死んだ商品が、そんな名前だった気もするな」

カテリーヌ 「商品ッ!?」

城ケ崎   「なんだ、言い方が不満か? 俺にとっちゃあ大事な大事な商品だ。
       女として一世一代の勝負をしてる心意気を、無駄にしねぇように商売してんだよ。
       ……死なせちまった悔いはあるさ」

カテリーヌ 「お前に死なせた自覚はあるんだな?」

城ケ崎   「変な客に引っかかったばっかりに、あんな死に方をしたんじゃな……
       さすがに同情はする」

カテリーヌ 「お前が変な店を紹介したからだろうがッ!!」

城ケ崎   「あの店自体は真っ当な店だ!」

カテリーヌ 「嘘だ!!」

城ケ崎   「そう思いたいのはわかる。
       大事な女を亡くしたんなら誰かを恨みたくもなるだろう。
       けど、夜の世界は決して安全な社会じゃねえ。
       それはお前にも……仮にもナンバーワンにまでなったお前になら、わかるはずだ」

カテリーヌ 「……」

城ケ崎   「俺への復讐の為だけにニューハーフになったのか」

カテリーヌ 「……っ」

城ケ崎   「ナンバーワンになってまで、俺を殺す日を待っていたのか」

カテリーヌ 「……俺には、あいつしかいなかった。
       あいつがいなくなった今、もう俺の人生はどうなったっていいんだ」

城ケ崎   「ユーリがそれを望んでいるとでも?」

カテリーヌ 「黙れ!! 説教なんかされたくねえんだよ!!
       お前を殺す、その為だけに俺は生きてきたんだ!!」

城ケ崎   「……だったら殺せばいい。やれるもんならやってみろ」

カテリーヌ 「言われなくても、やってやるさ」

(カテリーヌ、ナイフを取り出して構える)

城ケ崎   「……ナイフか。そんなちゃちな代物じゃあ急所までは届かねえぞ」

カテリーヌ 「誰が一撃で殺すと言ったよ。
       そんな楽な死に方はさせねえ。
       苦しませて苦しませて、頼むから殺してくれって言わせなきゃ気が済まねえんだ!」

城ケ崎   「俺も夜の世界に生きる男だ。
       修羅場のひとつやふたつ、くぐってきてる。
       ……その俺を、殺そうってんなら、返り討ちにされる覚悟もあるんだろうな?」

(カテリーヌ、薄く笑ってニューハーフ口調に戻して)

カテリーヌ 「あら、アタシを殺せるの?」

城ケ崎   「いい根性してやがる。
       お前の獲物を落としたら、車に連れ込んで無理やり抱くか。
       一晩で俺から離れられなくさせてやる」

カテリーヌ 「まぁ、甘い男ね。アタシを殺そうとは思わないわけ?」

城ケ崎   「お前が本気で俺を殺そうとするなら、正当防衛くらいはするつもりさ」

(カテリーヌ、男口調に戻って)

カテリーヌ 「なら遠慮はいらねえな」

城ケ崎   「遠慮するつもりなんざなかったろう?」

カテリーヌ 「わかってんじゃねえか。死ね城ケ崎ッ!!」

(ナイフを構え、城ケ崎を刺そうと飛び掛かるカテリーヌ。城ケ崎は抵抗せず刺される)

カテリーヌ 「えっ!?」

城ケ崎   「ぐっ……う……ッ……」

カテリーヌ 「……なんで、避けなかったんだよ」

城ケ崎   「……へへ……、
       惚れたやつからのプレゼントくらい、受け取ってやりてぇじゃねぇか」

カテリーヌ 「なにふざけたこと言って……」

城ケ崎   「言ったろ。……俺は、お前に、惚れてんだ」

カテリーヌ 「くっ……だったらさっさと死ねってんだッ」

(カテリーヌ、もう一度ナイフで城ケ崎を刺す)

城ケ崎   「グッ、あ……」

カテリーヌ 「……俺の大事な妹に、あの世で詫びやがれ」

城ケ崎   「……なんだ……恋人じゃ、なかったのか。
       じゃあ、お前を俺のものにしても、いいよな……」

カテリーヌ 「お前のものになんかならねー……よ……、……ぐっ?!」

(息苦しさを感じて、座り込むカテリーヌ 動悸が激しくなり眩暈がしてくる)

城ケ崎   「効いてきたか」

カテリーヌ 「なに、を、した……」

城ケ崎   「遅効性の毒を、ちょいとドンペリに入れてやっただけさ」

カテリーヌ 「……なん、で……」

城ケ崎   「お前の目論見があまりにも見え見えすぎてな。可愛いから乗ってやったんだよ」

カテリーヌ 「俺の正体に、気づ、いて、たのか」

城ケ崎   「お前が何もしなきゃ解毒剤を飲ましてやったんだけどな」

(城ケ崎、平気な顔で立ち上がる)

カテリーヌ 「なん、で、動ける、んだ、お前……」

城ケ崎   「言ったろ。こんなナイフじゃ、人なんか殺せねーんだよ」

カテリーヌ 「そ、んな……汐里……ッ」

(カテリーヌ、そのまま息絶える。そしてその横に寄り添うように、倒れこむ城ケ崎)

城ケ崎   「大丈夫だ、俺もすぐ逝く。
       お前と同じドンペリを、俺だって飲んでたんだぜ、ハニー。
       ……お前だけを返り討ちにしてやることだってできた。
       むしろ今までの俺なら間違いなくそうしただろう。
       そうしなかったのは、俺が本当にお前にハマっちまってたからなんだが……
       まぁ、そう言ったところで、お前は信じちゃくれねえか……。
       ……そうか、せめてお前の復讐は叶ったってことにしてやりゃあ、
       お前ももう少しいい顔で死ねたのかな……。
       ……妹の仇だと、俺を憎んだ男でも俺にとっちゃあ……、
       馬鹿だな俺も……こんな惚れちまうなんてなあ……。
       俺の人生、最期まで報われねえ。
       だから、これで終わるのが、一番、いいんだ……」

(このまま死ぬ、という雰囲気で目を閉じるが、くつくつと笑いながら目を開く)

城ケ崎   「……なあんて言ってさ、一緒に死ねたらよかったんだけどなァ。
       ……っつ、いってえなぁ……
       内臓まではやられてねぇし、全治一ヶ月ってとこか。
       ったく、仕事つまってねぇ時期で助かったぜ」

(ゆっくりと起き上がって煙草を吸い始める城ケ崎)

城ケ崎   「ユーリも、お前も、さすが兄妹、まっすぐすぎらぁ。
       俺はどっぷり闇に浸かってる人間だからな……。
       お前らみたいなのは眩しくていけねぇよ。……悪いな」

(隣で息絶えているカテリーヌの開いたままになっている瞼を閉じさせる城ケ崎)

城ケ崎   「……ったく、海に来ると……ろくなことがねぇよ」





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