ストロベリー・バックヤード

作:早川ふう / 所要時間 25分 / 比率 2:2

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2013.02.18.


【登場人物紹介】

松本颯太(まつもと そうた)
レストランのマネージャー。正社員。(正社員は店長と松本の二人体制。)勤続2年。24歳。
仕事はそこそこできて、主婦のベテランパートさん達に可愛がられる草食系(に見えるだけ)。

高橋大智(たかはし だいち)
レストランのバイト。ランクはトレーナー。勤続5年。20歳。
厨房ではベテラン。親しみやすい。愛すべき馬鹿。

小林彩夏(こばやし あやか)
レストランのバイト。ランクはマネージャー。勤続5年。20歳。
社員業務も任されている。基本はホール。裏表のないさばさばした姐御肌。

内田優衣(うちだ ゆい)
レストランのバイト。ランクはA。勤続2年。19歳。
ホールの仕事は一通りできる。計算で甘えるTHE・後輩。


【配役表】

松本颯太・・・
高橋大智・・・
小林彩夏・・・
内田優衣・・・



(レストランの従業員控え室。昼過ぎ。
 OPENから働いていた優衣は休憩中。
 これから仕事の彩夏は着替え終わって待機中。
 そこに、社員業務をやりに颯太がやってくる)


松本   「お疲れ様〜」

内田   「あ、マネージャー、お疲れ様でーす」

小林   「今日どうでした? ランチは予算いきました?」

松本   「なんとかな」

小林   「じゃあ夜も頑張らないとですね〜」

松本   「頼むよ、ボーナスの査定かかってんだから。
      まぁ店長ほどシビアじゃないだろうけど」

内田   「ボーナス入ったら皆に何かおごってくださいよ!」

松本   「しっかりやってくれればな」

内田   「やったぁ! じゃあ頑張りますー!」

小林   「優衣ちゃんたら相変わらず調子いいんだから。
      おごられなくても頑張りなさいよ」

内田   「あは、はーい」

松本   「さすが安心と信頼の小林クオリティだな」

小林   「なんですかそれ、茶化さないでくださいよ」

内田   「でも小林さんって高校の時からもう5年近く店にいるんでしょう?
      さすがですよねー」

松本   「社員の俺より仕事歴長いもんなぁ。頼りにしてるよホント」

小林   「社員業務まで任せてもらえるようになって、大変だけどやり甲斐ありますもん。
      それに、やっぱこの仕事好きなんですよね」

高橋   「おはよーございまーっす」

内田   「おはようございまぁす」

松本   「おはよう高橋」

小林   「早く着替えちゃいなさいよ」

高橋   「おう。で、何の話してたんすか?」

小林   「この仕事やっぱり好きだって話」

高橋   「好きじゃなきゃ続けられねーだろー。
      不人気もいいとこだぞ、この職種」

内田   「ですよねー。仕事もきついし時給も安いのによく働くね、とか言ってくる友達いますもん」

松本   「あ、同期でおんなじようなこと言って、社員研修中に辞めたヤツいたな」

小林   「うっわ、最低」

高橋   「最初っから応募すんなって話っすよね〜」

松本   「まぁ使えないヤツが残ってもしょうがないだろ、仲間内じゃ笑い話だよ」

内田   「でもきついとは思うんですよー。立ち仕事だし」

小林   「そうよねぇ、シフト終わると足痛いわ」

高橋   「夏の厨房は地獄だよ、外より熱いし、まさに体力勝負」

松本   「注文受けて作って運んで片付けるだけってわけでもないしな。
      お客があっての仕事だから、色々難しいよ」

内田   「あたしこの間、子供にぶつかられて料理ひっくり返しちゃってー。
      店長キレるし、待たせたお客さんも怒るし、
      ぶつかった子供の親もわめくし、散々でした」

小林   「小さい子連れてくるのは構わないし、息抜きしてもらえたら嬉しいけど、
      だからといって、子供から目を離していいってわけじゃぁないのよねぇ。
      他のお客様だっているんだし、子供走り回らせて平気でいるのはちょっとなぁ……」

高橋   「かといって注意できないのがつらいよなぁ?
      皿とかコップ割られるならまだしも、
      せっかく作った料理をだめにされるのは、結構がっくりくるし……」

松本   「だから小さい子には塗り絵を渡したりして
      なんとかテーブルで落ち着いてもらおうって店側も努力してはいるけど、
      塗り絵なんかしない年になってくると厳しいんだよな」

内田   「そうなんですよねぇ」

小林   「困った話繋がりだけど、
      この間、いい大人がビールをこぼして床びちゃびちゃにしてってさ〜」

高橋   「ああ、あれ!!
      ほんっと掃除大変だったんだ! ふざけんなよなぁ!!
      食い物飲み物粗末にする奴は店来んなっつーの!!」

松本   「おいおい、言いすぎだぞ。……ま、確かに困るけどな」

内田   「どんなお客さんだったんですか?」

小林   「50代くらいのサラリーマン。酔った感じでもなかったから油断してた」

高橋   「とりあえず、ブラックリスト入り決定!」

松本   「ああ、そういや昨日また来たぞ、クレーマーのおばちゃん」

高橋   「また来たのか!!」

内田   「すーちゃんが注文受けに行ったら、名札が曲がってる、から始まって、
      読めないから名札の意味がないでしょ、ってすーちゃんの苗字にまでダメ出ししたんですよ」

高橋   「うわ〜……」

内田   「で、髪のまとめ方とか化粧の濃さまで言ってきてて。見ててかわいそうでかわいそうで!」

小林   「あのおばさん、時間とお金はあるけど友達いないから店でクレームつけて遊んでる気がするのよね」

松本   「出禁(できん)にしたいのはやまやまなんだけど、
      黙ってうなずいてりゃそれで済むレベルだから、クレーマーとしては弱い方だし、
      店長も強くは出たくないみたいなんだよ。
      一応今は週イチで通ってくれてる常連だし」

小林   「つらいところですよねぇ」

高橋   「こういうの聞くと、俺ホール担当じゃなくてよかったって思うわ……」

松本   「ホールのシフト組んでやってもいいぞー」

高橋   「絶対無理っす!!!!」

小林   「大智は接客業が好きってわけじゃないもんね」

高橋   「まぁ、居心地がいいからってのが一番かな」

内田   「その発言完全に小林さんに負けてるじゃないですかぁ」

高橋   「馬ッ鹿! そりゃランクは確かに小林のが上だけど仕事の情熱は負けねーぞ!?」

松本   「居心地がいいからって言ったヤツに情熱って言われても……」

小林   「もっと考えて喋りなさいよ、アホに見えるわよ?」

高橋   「だから俺は接客じゃなくて、調理が好きなんだっつーの!
      この店結構バイト同士の雰囲気も社員との関係もいい感じだし、働きやすいし、
      その中で好きなことができるから働いてんじゃねーか!」

内田   「……63点もう一声!」

高橋   「ええっ?」

小林   「優衣ちゃんナイス!」

高橋   「んーと……あ、自分の作ったモンを美味いっていっぱい食ってくれるのは嬉しいよなっ。
      もっと頑張ろうって気になるし」

小林   「そりゃこっちも一緒よ。
      お客さんが喜んでくれる顔が一番のご褒美だもん」

内田   「ああ、そうですよね〜。
      ちっちゃい子とかから『おねーちゃんおいしかったよ』とか言われたら
      子供って可愛いなぁって思っちゃうー!」

松本   「でも、どの世代の人でも、結構言ってくれるよな。
      地域性かもしれないけど、そういうあったかさってホントこっちも励まされるし」

小林   「言われた『ありがとう』の何倍も返していこうって気になりますよね」

内田   「そうですねー」

高橋   「……これで休みがちゃんととれりゃあ完璧なんだけどなぁ」

松本   「サービス業の宿命だ」

小林   「土日祝日、みんなが休みの日が稼ぎ時だもんね……」

内田   「だから遊ぶ時休み合わせるの大変ですー……」

高橋   「だよなぁ……なんとかしてくださいよマネージャー」

松本   「休みが均等にいくようにはシフト作ってるつもりだぞ。
      大体俺だってめったに土日に休みとれないんだから」

内田   「社員は大変そうですよね〜」

小林   「店長よく愚痴ってるよね、彼女とデートできないーとか」

松本   「ああ、言ってる言ってる」

高橋   「そういや小林は彼氏と付き合って長かったよな? 最近どうなん?」

小林   「言うな!!」

内田   「え、どうかしたんですか?」

小林   「別れた……」

高橋   「ええええええええええええええ!!!!」

松本   「そのうち結婚するんじゃないかって思ってたけど」

小林   「……いーんだよ、別に!
      もっと理解のあるいい男みっけてやるからああああ!!!!」

内田   「が、がんばってください……」

小林   「誰かいい人いたら紹介してねっ」

高橋   「ダメージでかそうだな」

小林   「うっさい!」

内田   「彼氏と長く続くコツをきこうと思ってたのにショックですよぅ」

松本   「あれ、内田彼氏できたのか?」

高橋   「っつーか……その、な……」

小林   「えっ。……その反応、まさか……!」

内田   「付き合い始めたんですー最近ですけどー」

小林   「職場恋愛かよおおおおおおおおおおお」

松本   「まぁ、うちは特に禁止してないしな。いいんじゃないか、仕事に支障でなければ」

高橋   「出しませんよ!」

小林   「そんなこと言って、別れて気まずいからって二人揃って店辞めたりしたら一生祟るからね」

高橋   「怖えよ!!!!」

内田   「まぁそれはナイですよ」

高橋   「大体付き合い始めたばっかなんだからな、別れる前提で話すなよ」

松本   「まぁ人生何があるかわからないからなぁ」

内田   「マネージャーまでひどいー!」

松本   「はは、ごめんごめん」

内田   「でも、別れて店辞めるくらい器が小さいなら最初から好きになりませんからー」

小林   「おっ、ハードルあがった」

松本   「あがったな、明らかに」

内田   「え? なんですか?」

小林   「あんたほんとしっかりしないとすぐフラれるわよ?」

高橋   「余計なお世話だ!」

松本   「男の器ねぇ……ガンバレよ高橋」

高橋   「うっす!」

小林   「で、何で付き合うことになったの?」

内田   「あ、あたしがバレンタインに告白して……」

松本   「なんだ、内田から告白したのか? 男なら自分からいけよ」

高橋   「えーっ、いや、だって……」

小林   「でもまぁ、バレンタインに告白されて付き合うって、
      ありそうでないパターンだったりもするよね」

高橋   「俺、初めて!」

松本   「そんで浮かれたわけだ?」

高橋   「はいそうです!!」

小林   「はいはいご馳走様!」

松本   「っつーことはだ。内田は高橋にチョコをあげたわけだな?」

内田   「作りましたよー、ブラウニー!」

高橋   「めっちゃ美味かった!」

小林   「この幸せ者〜!」

高橋   「へっへっへ〜」

松本   「うわ、嫌味な笑顔だな」

小林   「ほんっといらつくー」

高橋   「だってよ〜、店ではキットカットとかチロルチョコとかチョコバーとか、
      女子バイトからです、食べてくださいっつって袋がどーんと置いてあるわけじゃん?
      こう……風情がないよ、うん」

松本   「風情をバレンタインに求めるなよ、製菓会社の策略イベントだぞ?」

小林   「大体そう文句言いながら3つも4つも食べてるじゃないの」

内田   「GODIVAの箱が一人一つずつあったりしたら、ホワイトデー大変になると思うけどいいのかなー」

高橋   「あれ、なんでだ? 総攻撃くらってるぞ俺」

内田   「バイト同士なんだからそれくらい気楽でいいんですよ」

小林   「そうよねー、一人100円の集金で間に合うくらいでちょうどいいよ」

高橋   「まぁあまり高いものもらっても困るっちゃ困る、うん」

小林   「でしょ? 男の方が人数少ないんだから、単純計算したって300円くらい毎年かかるでしょう」

松本   「小林正解」

高橋   「ま、仕事のチョコと、本命チョコは違うってことで」

小林   「お前が風情どうこう言い出したのにまとめるなっ!」

高橋   「ハハ!」

松本   「んでもまぁ高橋は本命チョコをもらったわけだし、
      一ヵ月後のお返しはちゃんとしないとだよなあ?」

高橋   「わかってますよ、そのためにもバイト頑張ってるんで!!!」

小林   「思いっきり高いものねだっちゃいなよ優衣ちゃん」

内田   「はーい!」

高橋   「おい! 勘弁してくれよ……」

松本   「ははは」

内田   「ふふふ」

松本   「でも全然気付かなかったなあ、二人が付き合いだしたなんて」

小林   「うんうん、仕事に影響出ないのは偉い、ま、アタリマエだけど」

高橋   「小林だって、失恋しても仕事に影響出てないのは偉いよな」

内田   「小林さんはもうプロですもん」

小林   「持ち上げないでよ。別れたの昨日だから、今日ボロボロかもしれないし」

内田   「ええっ!? 昨日!?」

高橋   「マジか……」

内田   「あの……バレンタインは……?」

小林   「お互い仕事だったから会えなくてさ……
      昨日やっと会えると思って頑張ってガトーショコラ作ったのに、無駄になっちゃった!
      ……結構へこんでんのよ、これでも」

高橋   「悲惨、だな」

松本   「まぁ小林なら、一度店に入ればすぐ切り替わるだろ」

内田   「そーですよ、いつものステキな笑顔でステキな出会いを引き寄せてください!」

高橋   「ミスしたら蹴飛ばしてやんよ」

小林   「ハイハイ、頑張りますって」

松本   「ま、無理しない程度にな」

小林   「はーい。
      でもそっかぁ、二人が付き合ってるんだったら、少ない休みはデートしたいよねぇ?」

高橋   「ん? どうかしたか?」

小林   「みんなでスイーツバイキングでも行こうって誘いたかったんだけど遠慮するわ」

内田   「えっ行きましょうよーー! 行きたいーーー!!」

松本   「じゃあ、市場リサーチ兼ねて行くか!」

高橋   「リサーチって、競合店でもなんでもないじゃないですかっ」

松本   「いーんだよ、理由なんてあとづけで」

高橋   「うわ、店長にいいつけよーっと」

松本   「あー、高橋の今度の査定はマイナスつけとくかなー」

高橋   「ああああひでええええ横暴だあああああああああ」

小林   「まぁそのうちぱーっとどっか行こうよ。
      フリーになったから時間は融通きくし」

内田   「休みとか、仕事終わり調整して遊びに行きたいですね」

高橋   「花見とかでもいいよな、もうすぐだし」

松本   「でも花見兼飲み会は毎年店でもやってるしなぁ」

内田   「じゃあカラオケとか!」

小林   「とにかく何でもいいからさ、ちょっとぱーっと騒ぐの付き合ってよ」

高橋   「おう、失恋してかわいそーな小林をなぐさめてやるからな〜」

小林   「そういう言い方すんじゃねーっつーのッ!!」(蹴る)

高橋   「いてっ!!!! 蹴るなよ凶暴だなあ!」

松本   「今のは高橋が悪い」

内田   「そう思いま〜す」

小林   「ほらね、口の聞き方に気をつけなさーい!」

高橋   「わーったよ!」

内田   「あ、賄いもうできてるかな、もらってこよーっと」

高橋   「そっか、休憩中か」

内田   「うん、一時間休憩」

高橋   「俺も飲み物もらってくるから一緒にいくよ」

小林   「あらあらおアツイですこと」

松本   「店でいちゃつくなよー」

高橋   「しませんって! ……行こう?」

内田   「うんっ」

小林   「……ちょっとからかいすぎたかな」

松本   「大丈夫だろ。あれくらい言うやつはいっぱいるしな」

小林   「そうですね。
      はぁ……いいなぁ、幸せそうで。
      今の私には見てるだけできーつーいー」

松本   「まぁ、出会いがあれば別れもある、別れがあったら次の出会いもあるだろ」

小林   「……そーですね、気長に待ちます」

松本   「気長に?」

小林   「しばらくは仕事ひとすじで頑張りますよ。
      次の恋する元気が出るまではね〜」

松本   「ハハ、なるほどな」

(間)

内田   「ねぇ大智くん」

高橋   「ん? どした?」

内田   「……ほんとにあたしでよかったの?」

高橋   「え? どういう意味?」

内田   「あたしはずっと大智くんが好きだったから、告白、したけど……」

高橋   「おう。……嬉しいっつったじゃんか」

内田   「本当に?」

高橋   「どうした? ……何が言いたいんだ?」

内田   「大智くん……。
      その……他に好きな人がいたんじゃない……?」

高橋   「はっ!? なんでそうなった??」

内田   「あたし、……大智くんて小林さんのこと好きなんじゃないかなってずっと思ってたの」

高橋   「俺が小林を!?」

内田   「だって、バイト5年も一緒にやってて、ずっと仲いいんでしょ?」

高橋   「まぁ仲はいいっちゃいいけども……。小林だぞ!?」

内田   「綺麗で仕事できてかっこいいじゃない」

高橋   「き、綺麗ねぇ……、女からはそう見えるのか……」

内田   「小林さんだったら勝てる気しないし……。
      付き合って長い彼氏さんがいたから少しはあたしに望みがあるかなって勇気を出したけど、
      あんな話聞いたら不安になっちゃった」

高橋   「俺にとって小林は、仕事仲間で、ライバルだ。
      たとえるなら戦友ってかんじ!」

内田   「えー……」

高橋   「小林には悪いけど、あいつを女としてみることは一度もなかったよ」

内田   「本当に?」

高橋   「本当に」

内田   「でも小林さんは……大智くんのこと名前で呼ぶじゃない」

高橋   「あー……。あれは別にどうってことねーよ。
      昔な、キッチンのバイトに高橋が3人いた時期があってさ」

内田   「え。3人も?」

高橋   「向こうが名前で呼んでくるのは、その時の名残!
      ……ほんと、男とか女とかそういうのじゃないから」

内田   「本当に?」

高橋   「本当に。だから心配すんなよ。
      大体俺、何とも思ってない子と付き合ったりしねーから」

内田   「じゃあ、じゃあ……ホワイトデー、期待しててもいい?」

高橋   「勿論期待してていいよ。なんなら、さっき言ってたスイーツバイキング、二人で行こうか?」

内田   「えっ、それはさすがに小林さんに悪いんじゃ……」

高橋   「優衣がいいなら皆で行ってもいいよ。でも優衣の分は、俺がおごる」

内田   「……うん!
      ありがとう、大智くん」

高橋   「おう」

(間)

松本   「……なあ小林」

小林   「はい?」

松本   「彼氏にあげるはずだったガトーショコラってどうしたんだ?」

小林   「あー……家の冷蔵庫に眠ってますよ。今夜やけ食いでもします」

松本   「やけ食いって……今日ラストまでだろ?
      夜中にそんなに食ったら、肌荒れるんじゃないか?」

小林   「だって早めに食べないと腐っちゃうし。……捨てるのももったいないし」

松本   「まあ、そうか……」

小林   「はい。……考えただけで落ち込むなあ。
      ……綺麗にラッピングまでしたんですよ。
      それを自分でほどいて食べなきゃいけないとか……拷問すぎる」

松本   「よしよし」

小林   「なんか今日のマネージャー、……優しいですねぇ」

松本   「そうか?」

小林   「そうですよ」

松本   「……じゃあもういっこ優しいこと言ってやろうか?」

小林   「なんですかー?」

松本   「ガトーショコラ、俺のとこ持って来いよ」

小林   「……え?」

松本   「今日じゃなくていいから、明日でもさ」

小林   「……で、でも。それはさすがに……。悪いっていうか……その……」

松本   「小林からチョコがほしいんだよ。……だめかな?」

小林   「な、何言ってるんですか、そんな……」

松本   「社員はバイトと恋愛禁止なんだけどな。
      ま、小林は半分社員ってことで見逃してもらおう」

小林   「えっ……ちょ、マネージャー。じょ、冗談じゃなくて?」

松本   「冗談でこんなこと言うわけないだろ」

小林   「だって、いきなり……。……えっと、その……」

松本   「次の恋する元気が出るまで、一ヶ月もありゃじゅうぶんだろ?
      ホワイトデーに三倍返ししてやっから、返事はそんときで。な?」

小林   「……あ、じ、時間なんでホール出ます!」

松本   「おう、今日もよろしくー」

小林   「…………、マネージャー」

松本   「んー?」

小林   「……明日。……持ってきますから」

松本   「……おう。……楽しみにしてるよ」





Index