【登場人物紹介】
ナオ
店で一番人気の男娼。親に売られてきた過去をもつ。儚げな雰囲気の美青年。
嗣郎(しろう)
恋人を亡くし、絶望していた会社社長。真面目で温厚。
秋仁(あきひと)
風俗ビルを経営するオーナー。裏では非合法の高級男娼館を経営している。
【配役表】
ナオ・・・
嗣郎・・・
秋仁&タクマ&アキラ・・・
嗣郎 「やあ。この店でもクリスマスを祝うんだね」
秋仁 「ええ、世間から隔離された空間であっても、これだけは別ということで」
嗣郎 「まぁそうだね。イベントがあってもいいと思うよ。
私も今日、プレゼントを持参したんだ」
秋仁 「それはそれは。ナオも幸せ者ですね」
嗣郎 「ナオは部屋に?」
秋仁 「ええ、部屋に……おりますが……
ご予約いただいていたのに申し訳ございません。
本日ナオは体調が悪く、お相手は難しいかと」
嗣郎 「……珍しいね。
インフルエンザ……? ノロやロタではないだろうね」
秋仁 「ええ、幸い感染るようなものではございません」
嗣郎 「ならよかった」
秋仁 「ですので、本日、別の者がお相手では……」
嗣郎 「心遣いは有り難いが、ナオ以外と会うつもりはないよ」
秋仁 「それでは別の日にご予約を……」
嗣郎 「感染る病気でないのなら、見舞いくらいいいだろう」
秋仁 「……しかし」
嗣郎 「時間分の金は払う。案内を」
秋仁 「かしこまりました……」
秋仁 「ナオ、お客様だ」
ナオ 「今日は誰にも会いたくない!!!」
秋仁 「お見舞いにきてくださったんだぞ」
ナオ 「帰ってもらって」
秋仁 「わがままを言うな!!」
嗣郎 「ナオ。僕が無理を言って見舞いにきたんだ。
……怒鳴る元気があるならよかったよ」
ナオ 「……」
秋仁 「大変申し訳ございません。実は毎年の恒例行事のようなものでして……」
嗣郎 「なるほど」
秋仁 「あとできつく叱っておきます。
なにかありましたらお呼びください。
……それでは私はこれで」
嗣郎 「……さて、邪魔者もいなくなったところで……」
ナオ 「…………」
嗣郎 「……単刀直入にきくが。
……僕に会いたくない、つまりは、嫌いになった、ということは……」
ナオ 「ちが……そういうことじゃ、ない、です……」
嗣郎 「よかった。
では、なぜ会いたくないと?」
ナオ 「……」
嗣郎 「何かあったのかな。
僕でよければ……話を聞くが」
ナオ 「……何も、ない」
嗣郎 「とてもそうは見えない。
……しかし話したくないのなら、無理に聞くこともやめておこう。
それにしても……一人でこんなに酒を飲んだのかい?
僕も一緒に飲んでも構わないかな?
それと、早速君へのプレゼントが役に立ちそうだ」
ナオ 「え……」
嗣郎 「これは出張のお土産、チーズなんだ。今食べてしまおう。
えーと、プレゼントはこっち。君の生まれ年のワイン。
あと、グラスも特注で作ってもらったんだよ。
君が生まれてくれたこと、君に出会えたこと、
君が、僕と共にいてくれるこの時間に感謝と愛をこめて。
少し早いクリスマスプレゼントだよ」
ナオ 「……っ」(泣く)
嗣郎 「……どうして、」
ナオ 「……俺……、俺が、生まれて……よかったの……?」
嗣郎 「なぜそんな悲しいことを……」
ナオ 「……だって、俺は……」
嗣郎 「すまない。今のは失言だったね。
君の事情は知っていたのに……申し訳ない」
ナオ 「嗣郎さんが謝ることじゃないです……」
嗣郎 「……君が生まれてきてくれて、よかった」
ナオ 「……わがまま、言ってもいい?」
嗣郎 「なんだね?」
ナオ 「おめでとう、って、……言ってほしい」
嗣郎 「……おめでとう?
……まさかナオ……」
ナオ 「あ……。っ……抱いてよ!」
嗣郎 「ナオ!?」
ナオ 「ねえ、抱いてよ!!」(押し倒す)
嗣郎 「っっ!!」
ナオ 「忘れたいんだっ。もう……忘れたいんだよ!!
あんなの、もう忘れたいんだ!!」
嗣郎 「ナオっ、落ち着いて」
ナオ 「っく……っ……。
日曜日だった。みんなで、出かけたんだ。
パパもママも、笑ってた。遊園地行って、一緒にごはん食べて、ケーキも食べて!!
はしゃぎつかれて帰りの車の中で寝ちゃって……
起きたら、……ここに……。
……もう……いやだ……。
こんな日なんて、だいっきらいだッッ!!
今日の記憶、全部消したいんだ!!
抱いてよ!!! 壊してよ!! いっそ殺してよ!!!!!」
嗣郎 「……ナオにとって、今日はとても、つらい日なんだね……。
僕がそんな君に何をしてあげられるだろうか。
……このまま抱けば、少しは気がまぎれるのかい?」
ナオ 「うるさい!!!
そんなこと言う前にさっさと抱けばいい!!! んっ……」(口づけられる)
嗣郎 「…っ……」(はげしく口づける)
ナオ 「んぅ……んっ……ん……」
嗣郎 「……全部忘れて、……僕のことだけを覚えていればいい。
君が生まれた意味は、僕だと。
君が生きる意味は、僕だと。
この世の誰よりも、僕がナオを愛するから。
君の全部を上書きして、君の中が僕だけになればいい!」(荒々しく口づけたり愛撫しながら)
ナオ 「っ……あ、あ、ああああああああっ……」(号泣)(拒否)
嗣郎 「……。
……泣いていいんだよ」
ナオ 「ごめんなさ…… うっうっ……」
嗣郎 「つらいときに、無理をしてはいけないよナオ。
今日僕は、客としてここにきたわけじゃない。
愛しい人の見舞いにきただけなんだから、気にしなくていいんだ」
ナオ 「うああああああああっ」
嗣郎 「……こうしているから、安心して泣きなさい。
寄り添って、……ずっと撫でていてあげるから」
ナオ 「ううっ……ううううっっ」
嗣郎 「よしよし」
ナオ 「……ぎゅうってして。……もっと、強く……」
嗣郎 「ああ。」
ナオ 「……嗣郎さん……」
嗣郎 「…………いつでも、甘えていいんだよ」
ナオ 「……俺は、俺は……。
アリガト…………ごめんなさい…………」