【登場人物紹介】
芳川 惇(よしかわ あつし)
レストランのバイト。ランクはトレーナー。大学生。勤続3年。21歳。
無口で愛想がないクールキャラ。
佐野一彰(さの かずあき)
レストランのバイト。ランクはA。勤続2年。21歳。
毒舌キャラ。ただし、自分でも口の悪さを気にしている。
椙山理恵(すぎやま りえ)
レストランのバイト。ランクはA。勤続2年。20歳。
ノリと勢いで生きているような直球娘。
内田優衣(うちだ ゆい)
レストランのバイト。ランクはA。勤続2年。19歳。
計算で甘えるタイプ。ただし今は彼氏一筋。
【配役表】
芳川 惇・・・
佐野一彰・・・
椙山理恵・・・
内田優衣・・・
(レストランのキッチン。
仕事をしている芳川・佐野。
芳川が倉庫へ行くのといれかわりにホール担当の椙山がキッチンを覗く。
それに気付く佐野)
佐野 「おい、サボってんじゃねーよ」
椙山 「は!? 誰がサボってんのよ!」
佐野 「お前だお前」
椙山 「うっるさいなぁ。くだんないこと言ってないで仕事したら?」
佐野 「こっちの台詞だっつーの」
椙山 「こっちはひと段落ついたとこだもん。
ピークも過ぎたし、注文も出てるし、
まだ帰りそうなお客さんもいないから、
新規や追加がない限り、ここにいても大丈夫なんだから!」
佐野 「……という建前があるから堂々とキッチンに入ってきてるわけか、用もないのに」
椙山 「うっ。よ、用くらいあるし!」
佐野 「ほう。じゃあ言ってみろよ、その用とやらを」
内田 「ちょっとー、それくらいにしといたらー?
ホールまで声聞こえちゃうよー?」
椙山 「優衣ー、佐野ったらひどいんだよー!?」
内田 「佐野くーん、なんでそんなにすーちゃんに絡むのー?」
佐野 「絡まれやすい位置にいるこいつが悪い」
椙山 「何よそれー!」
内田 「佐野くんさー、もう少し口調やわらかくしたらー?
そうすればちょっとは喧嘩も少なくなると思うよー」
椙山 「絡むくらいなら話しかけないでほしい!」
佐野 「好きで絡んでるわけじゃねーよ、注意してやってんだろ?」
内田 「ああほら言ってるそばからこれなんだからー。
まぁ喧嘩するほど仲がいいって言うけどさー」
佐野 「その言葉は間違いだな。俺たちが証明しただろ、うん」
椙山 「佐野なんかと仲がいいって思われるのだけは勘弁! ほんっと迷惑!」
内田 「すーちゃん……そういう言い方するからまた喧嘩になるんだよ〜」
佐野 「ほーーう、迷惑か」
椙山 「め・い・わ・く!」
佐野 「へー……ふ〜〜〜〜〜ん?」
椙山 「……何よ?」
佐野 「つまり、俺と仲がいいと誤解されたくないヤツがいるわけだな?」
椙山 「なっ!!!!! いや、それはっ……」
内田 「あーあ。佐野くんったらなんでそうデリカシーがないかなあ」
佐野 「おっ、内田までそう言うってことは確定だな!」
内田 「あっ! ……ごめんすーちゃん」
椙山 「……い、いいよ。誰かは、まだバレてないんだしっ……」
佐野 「俺を甘くみるなよ?
お前は今さっき、用もないのにキッチンにきた!
つまりはキッチンにその好きなヤツがいるってことだ、違うか!?」
椙山 「ううっ!!!」
内田 「佐野くん、それ以上はやめてあげてよぉ……」
佐野 「マネージャーは暇さえあれば彼女のノロケ話を聞かせてくるし、
そんなやつに片思いっつーのは考えられないだろ。
第一マネージャーは今面接中だ。
で、俺と仲がいいと思われたくはないということは、相手は俺でもない。
残った答えは、ひとつだ!!」
椙山 「……佐野にだけはバレたくなかったのにーー……」
芳川 「おい、佐野」
佐野 「うわあっ!? よ、芳川!」
椙山 「芳川くん!」(ほぼ上の佐野と同時に)
内田 「すごいタイミング……あっぶなーい……」
芳川 「仕込み終わって、冷蔵庫と冷凍庫のチェックもしておいた。
ゴミもある程度まとめておいた」
佐野 「お、サンキュ!」
芳川 「で、佐野は何しゃべってたんだよ。
洗い物残ってるだろ。サボんなよ」
内田 「なーんだ。サボってたの佐野くんの方なんじゃん」
佐野 「うっせ。悪いな、今やるから!」
芳川 「またコップ割るなよ」
佐野 「わかってるよ!」
椙山 「……芳川くん! えっと、その、ありがとう」
芳川 「え、……何が?」
椙山 「佐野って、私のこと気に入らないみたいで。
ああやって、絡まれてばっかりだから……助かったっていうか、……」
芳川 「別に佐野は椙山のこと嫌ってないと思うよ。
気に入らなかったら普通話しかけもしないだろ」
椙山 「そうかな」
芳川 「じゅうぶん仲良いと思うから、大丈夫だよ」
椙山 「えっ……」
芳川 「じゃ、俺、油を運ばないといけないから」
内田 「それくらい佐野くんにやらせちゃえばいいのに」
芳川 「やれるやつがやれるときにやらないと、仕事終わらないだろ」
内田 「まーね……」
芳川 「じゃ」
内田 「…………うーん。やっぱクールだね、芳川くんて」
椙山 「……そだね」
内田 「……すーちゃん?」
椙山 「別に、仲が良く見えるって言われただけだけどさ……」
内田 「付き合ってるって誤解されたわけじゃないよ……?」
椙山 「それでもやっぱショック」
内田 「誤解したとしてもさ、所詮は誤解だし、ちゃんと話せばわかるし!
……ていうかまず、告白しないと始まらないじゃん?」
椙山 「わかってる。でも、なかなかチャンスがなくて……」
内田 「芳川くん、彼女も好きな人もいないって言ってたけど、
ぐずぐずしてると誰かにとられちゃうよー!?」
椙山 「その情報は感謝してるよぅ。
バレンタインのときにそれとなーく訊いてくれたんだもんね」
内田 「まぁ訊いたのはあたしじゃないけどー」
椙山 「あーはいはい。残念だねー今日は彼氏とシフト一緒じゃなくてー」
内田 「もー、あたしの話はいーの!
それより、すーちゃんこそ芳川くんとラストまで一緒でしょ?
チャンスは待つものじゃなくて、作るものなんだからね!?」
椙山 「なんか言葉の重みが違うわ。さすが人気者のカレシをゲットしただけあるね」
内田 「なんか表現がオバサンぽい。枯れてないでがんばんなよー!?」
椙山 「わかってる……」
内田 「あっ、新規きた!」
椙山 「いらっしゃいませー!
三名様ですね、お席にご案内致します」
(間)
芳川 「あれ、新規きたのか」
佐野 「ああ。三名な」
芳川 「オーダーは?」
佐野 「デザートセットだけだったから。ドリンクバーで粘る系だろあれは」
芳川 「そうか」
佐野 「とりあえずキッチンもひと段落ついたな」
芳川 「じゃ、週課清掃やるかな」
佐野 「……よく働くな。今社員奥にいるんだから少し休んどきゃいいのに」
芳川 「そういうのは性に合わない」
佐野 「へー」
芳川 「……と、いうのを、な」
佐野 「ん? なんだ?」
芳川 「いや、えっと。
俺は、口下手だし、面白くないし、
何を考えてるかよくわからないと思われてるのもわかってる。
……人とうまく、付き合うことができない。
こういう自分をイヤだと思うから……変えたいと、思うんだ」
佐野 「と話しつつ、ちゃんと掃除してるのが芳川らしいよな」
芳川 「今は仕事中だから」
佐野 「ほんっとくそ真面目」
芳川 「わかってる……」
佐野 「でも、……別にいいんじゃねーの? 無理して変えなくてもさ」
芳川 「え」
佐野 「そのままのお前をいいって言うやつだっているだろ」
芳川 「……けど普通、女の子は佐野みたいによくしゃべったりする明るいやつの方が好きだろう?」
佐野 「俺は明るくないぞ?
しゃべってるかもしれないけど口が悪いから、嫌われることも多いし」
芳川 「え……。そう、なのか?」
佐野 「そーだよ。好きなやつには特に嫌われやすいんだ」
芳川 「どうして?」
佐野 「優しくできないから」
芳川 「……優しくすればいいんじゃないのか?」
佐野 「お前だって明るくしゃべろっつってもすぐにはできねーだろ? それと同じなの!」
芳川 「ああ、そうか……」
佐野 「お前って実は天然?」
芳川 「天然なんて初めて言われたけど……」
佐野 「あと、わかりにくくねーって。わかりやすいよお前」
芳川 「え?」
佐野 「自分を変えてまで、自分を好きになってもらいたいオンナと出会ったわけだ?」
芳川 「うぇ!?」
佐野 「なんて声出してんだよ……」
芳川 「佐野ってすごいな……何でわかったんだ?」
佐野 「会話の端々からなんとなく?」
芳川 「刑事にでもなれるんじゃないか」
佐野 「柄じゃねーしなりたくもねーし。……てか、それってまさか誉め言葉か?」
芳川 「え、勿論」
佐野 「ふっ、ははっ、……やっぱお前、面白いやつ」
(間)
内田 「お疲れ様ー! 今日も終わったねー!」
佐野 「お疲れ。内田も23時あがりだっけ?」
内田 「ほんとは22時だったけど、1時間伸びたの。
昼のパートさん一人休んだから、マネージャーの休憩とれなくて、そのかわりに」
佐野 「えらいじゃん」
内田 「深夜手当ておいしいもんねー!」
佐野 「確かにな。……そっか、今日は椙山と芳川がラストまでか」
内田 「女の子をラストまでのシフトに入れるって結構きついよねー。
仕方ないかもしれないけどさー」
佐野 「いいんじゃねーの。芳川が一緒だし」
内田 「だーよねっ」
佐野 「ああ……」
内田 「……あっれ〜、暗いカオ」
佐野 「別に」
内田 「あのさぁ、余計なお世話かもしれないけど……恋愛って素直になったモン勝ちなんだよ」
佐野 「はぁ? なんだいきなり」
内田 「佐野くんみたいに自分の気持ちを閉じ込めてたって、
得なことなーんにもないんだよ」
佐野 「……なんか、勘違いしてないか?」
内田 「勘違い、にしたいならそれでもいいけど。
ごめんねー、ほんと余計なお世話だったよね〜」
佐野 「……お前はさ、素直になって得なことってあったのか?」
内田 「勿論あったよ」
佐野 「なに?」
内田 「ゼッタイ無理だって思ってたんだけど、
でも勇気を出して告白して、彼女になれた!」
佐野 「絶対無理って思ってて、なんで勇気なんか出せたんだよ」
内田 「だって行動しなきゃ絶対無理のまんまだもーん。
奇跡がおきてくれるかもしれないし!」
佐野 「奇跡、ねぇ」
内田 「たとえ断られてもさ、そこで一区切りつくじゃん。
片思いって楽しいけど、やっぱり苦しいし。
区切りがつけば、先に進むこともできるからね」
佐野 「で、結果奇跡が起きて、能天気バカな彼氏ができた、と」
内田 「あーっ、ひっどーーーい!」
佐野 「つーかな、俺はどうしたって無理だろ」
内田 「どうしてそう思うの?」
佐野 「あいつらは誰がどう見たって時間の問題だからな」
内田 「……そーだね」
佐野 「遅すぎたんだ。俺は。
大体、素直になることだけが全てじゃない。タイミングだってあるだろう。
今素直になって波風をたてるくらいなら、俺は自分で区切りをつける」
内田 「かーっこいいー」
佐野 「お前ほんっと俺のことバカにしてるよな」
内田 「ほんと、そう思うって」
佐野 「……自己嫌悪してんだ、これでも」
内田 「へー、そうなの?」
佐野 「俺ら四人ってさ、シフト一緒に入ること結構多いだろ」
内田 「そうだね」
佐野 「でも、絡み的な意味では俺の方が深かったはずなんだ。
そりゃ、口喧嘩みたいなもんだけどさ。
芳川って……そんなに喋らねーし、飲みに行ったり遊んだりもしない。
……チャンスは俺の方が多かったはずなんだ」
内田 「……うん」
佐野 「でも……あいつが選んだのは、俺じゃなかった。
芳川にあって、俺にないものって何なんだって考えたけど……そんなのわかりきってるから」
内田 「邪魔しちゃえばいいのに。
まだくっついてないんだから、挽回しようと思えばできるよ?」
佐野 「そこまで図々しくはなれねーよ」
内田 「あはは、そっか」
佐野 「……そうできない時点で、俺は負けてんだ」
内田 「……早く、次の恋ができるといーね」
佐野 「……そーだな」
内田 「彼氏がいなかったらなぐさめてあげたんだけどねぇ」
佐野 「いらねーよ」
内田 「即答傷つくー! 冗談だってばー!」
佐野 「冗談でもごめんだっつーの」
内田 「意外と真面目なんだ〜」
佐野 「悪いか」
内田 「ふふふ、長所だと思うよ。ある意味ギャップ萌えでさ!」
佐野 「……そうかよ」
(間)
芳川 「あ」
椙山 「あっ……お、お疲れ様」
芳川 「お疲れ」
椙山 「……遅かったね、なんかあった?」
芳川 「マネージャーのノロケ話聞かされてたんだ」
椙山 「あは、そうなんだ」
芳川 「うん」
椙山 「………」
芳川 「………」
椙山 (うう……どうしよう。会話が続かないー!!!)
芳川 「……あのさ」
椙山 「えっ……なに?」
芳川 「ラストまでシフト入ってると遅くなるだろ。
椙山の家の人は何も言わない?」
椙山 「全然! うち放任だから。
それに遅くなっても鍵持ってるし、大丈夫」
芳川 「家って近く? 自転車だっけ?」
椙山 「歩きだよ。駅の向こう側の団地なの。
自転車だと逆に遠回りになっちゃうから」
芳川 「……送ろうか」
椙山 「ええっ!?!?」
芳川 「危ないだろ、こんな時間だし」
椙山 「で、でも、芳川くんだって疲れてるんだし、……悪いよ」
芳川 「俺明日夜のシフトだけで予定ないから平気」
椙山 「うー、……」
芳川 「あ、彼氏に怒られる、とか?」
椙山 「いっいないいない彼氏なんて!」
芳川 「まぁ、その、迷惑なら、いいんだけど」
椙山 「迷惑なんかじゃ……ただ、ちょっと、その、驚いただけで」
芳川 「そっか」
椙山 「じゃあ、えっと、駅まで……オネガイシマス……」
(間)
芳川 「……あー、あの、さ」
椙山 「え、なぁに?」
芳川 「椙山って……佐野のこと、好きなの?」
椙山 「なっ!? なん、で……?」
芳川 「……佐野と、仲、いいなと思って……」
椙山 「仲良くないって!!! あれほんっと違うから!!!!!
ほんっと迷惑してんの!!!!!!!!」
芳川 「そうなのか?」
椙山 「だからその……誤解しないでほしい、デス」
芳川 「あぁ、ごめん」
椙山 「……何でいきなりそんなこと?」
芳川 「女の子って、佐野みたいなタイプが好きなんだろうなって思って……」
椙山 「えーーー佐野ぉぉぉぉ!?」(思いっきり嫌そうに)
芳川 「っ、ふっ、ははは……!」
椙山 「わ、笑わなくても……」
芳川 「ごめん、だってすごく嫌そうに言うから」
椙山 「だって佐野だよ!? アリエナイ!!!!」
芳川 「じゃあ椙山はどんな人が好きなの?」
椙山 「……、意外。芳川くんも、こういう話するんだ」
芳川 「ちょっと、自分改造計画中で」
椙山 「あはっなにそれー」
芳川 「……俺ってあまり他人から好かれるタイプじゃないからさ」
椙山 「え? そんなことないって!」
芳川 「自分でわかってるから」
椙山 「私は好きだよ。芳川くんみたいな人」
芳川 「えっ……」
椙山 「えっ……あっ、えっと!! タイプの話!!」
芳川 「あっ、うん、そっか……」
椙山 「……よっ、芳川くんは!? ど、どんな女の子が好きなの?」
芳川 「俺、は……」
椙山 「優衣みたいな可愛いタイプかな!?」
芳川 「内田? ……いや、俺は、……椙山かな」
椙山 「え!?!?!」
芳川 「椙山、みたいな子」
椙山 「……そ、それって……」
芳川 「たっ、タイプの話っ、……だよな?」
椙山 「そ、そうだね!」
芳川 「顔真っ赤だ……」
椙山 「へ!? 嘘、恥ずかしい!」
芳川 「いや、俺が」
椙山 「えっ……あっ、そっか、うん……」
芳川 「なんか、バカみたい、だな俺」
椙山 「そんなこと……私ほどじゃないんじゃないかな……」
芳川 「……はは」
椙山 「へへっ……」
芳川 「……駅、ついたけど……」
椙山 「うん。……あの、ありがと」
芳川 「やっぱり、家まで送るよ」
椙山 「えっ!?」
芳川 「もう少し、話したい」
椙山 「……私も話したい、けど……」
芳川 「じゃあ、送らせて」
椙山 「……うん」
芳川 「自分改造計画成功」
椙山 「……え、今何か言った?」
芳川 「いや、なんでもないよ。……行こうか」
椙山 「うん!」