バスケをやっていてよかったと思うことは、そんなにない。
練習はきついし、休みもないし、上下関係も厳しいし。
でも、パスがうまく回ったり、シュートが決まれば嬉しいし、
試合に勝った時は、幸せを感じるし、チームメイトとの深い絆は宝だと思う。
負けたら悔しいけれど、もっと頑張ろうと思えるから不思議なものだ。
あと、体育でバスケをやる時に、ヒーロー気分を味わえるのも、少しだけ快感。
一週間前、幼馴染から声をかけられた。
球技大会でバスケのチームになったから、練習に付き合ってほしいらしい。
運動が苦手なイメージはなかったけれど、球技だけ、不得意だそうだ。
努力なくして成功なし。
一週間地道に続けてきた練習のおかげで、
レイアップの成功率はだいぶあがってきた。
といっても、スタミナがないから実践でどうなるかは疑問が残るけれど。
問題はロングシュートだ。
フォームが安定しないから、それこそ、左手は添えるだけ、と
口を酸っぱくして何度も言ったし、正直漫画を貸そうかとも思った。
ボールが、弧(こ)を描いて空を舞い、
ひっかかることなく、スパっとリングをくぐって、
床に落ちる音が響くと同時に、脳髄に電流が走るんだ。
わかるかな、この感覚。
君にもぜひ共有してほしいと思うから、
だから、練習も付き合ったし、応援していたんだよ。
「……入った!」
綺麗な3ポイントシュート、初成功。
君と同じくらい、むしろそれ以上にテンションが上がってしまって、
思わず君に抱きついていた。
決して深い意味のあるハグではなかった。
幼馴染だし、今でも一緒にゲームする時なんかは、こういうやりとりもあった。
もちろん、この練習中、シュートが決まればハイタッチしたり、
つまり何が言いたいかというと、
このやりとりは、幼馴染という関係ではあるけれど、
こと自分たちに関していえば、普通、だったはず。
でも、こうも固まられると、逆に戸惑ってしまうのだ。
見ると、頬がほんのり赤く、視線はあさっての方向へあった。
もしかして、照れてる……?
そんな、まさか。
数秒のち、目を逸らしていたはずの幼馴染は、
真剣な表情でこちらを見た。
その視線で、金縛りにあったみたいに動けなくなってしまい、焦る。
縮まる距離。
そんな、まさか。
心臓の音がスピーカーで流れてるんじゃないかというくらい、うるさい。
そんな、まさか。
もしかして、なんて、これは期待だ。
目の前に、幼馴染の顔が近づいてくる。
そんな、まさか。
一瞬。
触れただけ。
感触なんて、わからないくらいの短い時間。
でも確かに触れ合った唇はものすごく熱かった。
思わず一歩あとずさって、目を閉じて深呼吸。
ああ、少し落ち着いた。
でも。
目を開けると、またさっきより長く口付けられて。
もう何も考えられなくなった。