ボクは、ねこ。
しましまの、ねこ。
名前は、にゃんた。
ここは、ボクの家。
でも、ねこは、ボク一匹だけ。
「あら。おはよう、にゃんた」
かあちゃんだ。おはよう。
一番最初にボクに気付いてくれるのは、いつもかあちゃんだ。
くんくん。
かつおぶしと煮干しのいい匂いがする。
今日のお味噌汁の具はなんだろう?
かあちゃんは家族みんなの朝ごはんを作っていて、とても忙しそうだ。
ボク水が飲みたいんだけどなあ。
「今、お水とゴハンあげるからね」
伝わった。
さすがかあちゃんだね。
「ねこちゃん、そろそろ来る頃だと思っていたわ」
「用意しといたぞ」
じいちゃんと、ばあちゃん。
二人はいつも、ボクのことをねこちゃんと呼ぶ。
ボクの名前は、にゃんたなのに。
でも、ねこちゃんと呼ばれるのも、まぁ、悪くない。
この部屋には、この時間に一番あたたかくなる場所がある。
それは、壁際のたんすの上。
ちょうど陽があたるんだ。
どうだい。ひょいと飛び乗るのもお手の物さ。
ボクのお昼寝タイムだよ。
じいちゃんは、たんすの上にひざ掛けを敷いてくれるんだ。
まぁるくなって寝転がると、やわらかくて、あたたかくて。
ぬくぬく。
いい気持ち。
おやすみなさぁい。
「にゃんた、ただいまー!」
ふあぁ〜あ。よく寝た。
帰ってきたんだな、おかえり。
この女の子は、ひなちゃん。
帰ってくると、いつもボクを起こしてくる。
ボクがいつまでも寝ていると、ひなちゃんは泣いちゃうんだ。
たんすの上にいるボクには手が届かないからね。
小さい子の相手は疲れるけど、
遊んであげるのも大人のツトメってやつだな。
幼稚園は楽しかったか?
うんうん。
今日は何をして遊んだんだ?
うっ。
ボクを抱っこするのはいいけど、ちょっと苦しいぞ。
まだ下手っぴだなぁ。
早く大きくなって、ちゃんと扱いを覚えてもらわないと。
「ただいま、にゃんた」
夜になって、外がすっかり暗くなってから帰ってくるのは、とうちゃんだ。
今日もお疲れ様だな。
おいおい。
溜め息ばっかりついてると、幸せが逃げるぜ?
男ってのはな、背中で語るものだ。
そんなへろへろじゃ、みんなに笑われちまうだろ。
夢をもて。浪漫をもて。誇りを失うな。
いつまでもボクに甘えてどうするんだ。
しっかりしろよ、とうちゃん。
応援してやるから。
がんばれよ、とうちゃん。
「いただきます」
みんなで夜ごはん。
ボクも、みんなと一緒にごはんを食べる。
うん、うまいうまい。
今日はとうちゃんも一緒にごはんだから、
ひなちゃんも嬉しそうだな。
とうちゃん、残業はほどほどに、だぞ。
あ。じいちゃんてば、また魚の骨ばあちゃんに取ってもらってんのか。
ばあちゃんも嬉しそうにとってやるなよ。
覚える気も覚えさせる気もないなこれは。
人間ってのはしかたねぇんだからまったく。
かあちゃん、今日もうまかったぜ。
ありがとな。
みんなの笑顔が揃うと気持ちがいいや。
よかったよかった。
順番に風呂に入って、
お布団に入って、
家の明かりが消える。
聞こえてくる話し声も、だんだん小さくなって、
やがて、寝息だけになる。
みんな、みんな、おやすみなさい。
さて、ボクはどうしようかな。
ボクは、ねこだぞ。
これからが本番。
ボクの一日のはじまりなんだ。
よし。
ひなちゃんと一緒にいよう。
ちょっとベッドのすみっこ、失礼するぜ。
別に寝るわけじゃないぞ。
ここは、ボクの家だ。
みんなが寝てるなら、ボクが家を守らなきゃいけない。
だから、何があっても、ひなちゃんを守れるように、
ここにいるだけなんだからな。
……うん。
太陽とは違う、あたたかさ。
これもまた、いいもんだ。
ん?
どうしたひなちゃん。
怖い夢でもみたのか?
大丈夫、何があってもボクが守ってやるから。
安心して寝ろよ。
よしよし。
ボクがずっと一緒にいてやるからな。
だから、ボクは、寝ているわけじゃぁ、ない。
……むにゃむにゃ。