ボクは、にゃんた

作:早川ふう / 所要時間 5分

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2015.05.26.


ボクは、ねこ。
しましまの、ねこ。
名前は、にゃんた。

ここは、ボクの家。
でも、ねこは、ボク一匹だけ。



「あら。おはよう、にゃんた」

かあちゃんだ。おはよう。
一番最初にボクに気付いてくれるのは、いつもかあちゃんだ。

くんくん。
かつおぶしと煮干しのいい匂いがする。
今日のお味噌汁の具はなんだろう?

かあちゃんは家族みんなの朝ごはんを作っていて、とても忙しそうだ。
ボク水が飲みたいんだけどなあ。

「今、お水とゴハンあげるからね」

伝わった。
さすがかあちゃんだね。



「ねこちゃん、そろそろ来る頃だと思っていたわ」
「用意しといたぞ」

じいちゃんと、ばあちゃん。
二人はいつも、ボクのことをねこちゃんと呼ぶ。
ボクの名前は、にゃんたなのに。
でも、ねこちゃんと呼ばれるのも、まぁ、悪くない。

この部屋には、この時間に一番あたたかくなる場所がある。
それは、壁際のたんすの上。
ちょうど陽があたるんだ。
どうだい。ひょいと飛び乗るのもお手の物さ。

ボクのお昼寝タイムだよ。
じいちゃんは、たんすの上にひざ掛けを敷いてくれるんだ。
まぁるくなって寝転がると、やわらかくて、あたたかくて。
ぬくぬく。
いい気持ち。
おやすみなさぁい。



「にゃんた、ただいまー!」

ふあぁ〜あ。よく寝た。
帰ってきたんだな、おかえり。

この女の子は、ひなちゃん。
帰ってくると、いつもボクを起こしてくる。
ボクがいつまでも寝ていると、ひなちゃんは泣いちゃうんだ。
たんすの上にいるボクには手が届かないからね。

小さい子の相手は疲れるけど、
遊んであげるのも大人のツトメってやつだな。

幼稚園は楽しかったか?
うんうん。
今日は何をして遊んだんだ?

うっ。
ボクを抱っこするのはいいけど、ちょっと苦しいぞ。
まだ下手っぴだなぁ。
早く大きくなって、ちゃんと扱いを覚えてもらわないと。



「ただいま、にゃんた」

夜になって、外がすっかり暗くなってから帰ってくるのは、とうちゃんだ。
今日もお疲れ様だな。

おいおい。
溜め息ばっかりついてると、幸せが逃げるぜ?
男ってのはな、背中で語るものだ。
そんなへろへろじゃ、みんなに笑われちまうだろ。

夢をもて。浪漫をもて。誇りを失うな。

いつまでもボクに甘えてどうするんだ。
しっかりしろよ、とうちゃん。

応援してやるから。
がんばれよ、とうちゃん。



「いただきます」

みんなで夜ごはん。
ボクも、みんなと一緒にごはんを食べる。
うん、うまいうまい。

今日はとうちゃんも一緒にごはんだから、
ひなちゃんも嬉しそうだな。
とうちゃん、残業はほどほどに、だぞ。

あ。じいちゃんてば、また魚の骨ばあちゃんに取ってもらってんのか。
ばあちゃんも嬉しそうにとってやるなよ。
覚える気も覚えさせる気もないなこれは。
人間ってのはしかたねぇんだからまったく。

かあちゃん、今日もうまかったぜ。
ありがとな。

みんなの笑顔が揃うと気持ちがいいや。
よかったよかった。



順番に風呂に入って、
お布団に入って、
家の明かりが消える。
聞こえてくる話し声も、だんだん小さくなって、
やがて、寝息だけになる。
みんな、みんな、おやすみなさい。

さて、ボクはどうしようかな。

ボクは、ねこだぞ。
これからが本番。
ボクの一日のはじまりなんだ。



よし。
ひなちゃんと一緒にいよう。
ちょっとベッドのすみっこ、失礼するぜ。

別に寝るわけじゃないぞ。
ここは、ボクの家だ。
みんなが寝てるなら、ボクが家を守らなきゃいけない。
だから、何があっても、ひなちゃんを守れるように、
ここにいるだけなんだからな。



……うん。
太陽とは違う、あたたかさ。
これもまた、いいもんだ。

ん?
どうしたひなちゃん。
怖い夢でもみたのか?

大丈夫、何があってもボクが守ってやるから。
安心して寝ろよ。
よしよし。
ボクがずっと一緒にいてやるからな。

だから、ボクは、寝ているわけじゃぁ、ない。
……むにゃむにゃ。








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