買い物から戻り、魚の下ごしらえを済ませ、
お米を研ぎ、水に浸け終わると、勝手口から西日が差し込んできた。
それを合図に、エプロンのまま縁側へと出ると、
夕方のグラデーションが私を出迎えた。
この時間、縁側に腰掛け、
柱に寄り掛かるようにしながら空を眺めるのは、私の日課だ。
お茶をするでもなく、洗濯物を畳むでもない。
私は何もせず、ただ空を眺めている。
澄み切った青空が桃色と混ざり、夕日の赤へと続いていく。
日が落ちていくと共に、その色たちは、どんどん変化していく。
私は、夕焼けの外側にある紫色が、とても好きだ。
近くの公園にある藤の花の紫よりも、空の紫の方が好きだ。
透明で、澄んだ薄紫色は、この一瞬しか眺めることができない。
もう少し日が落ちれば、藍に染まり、なくなってしまう、儚い色。
祖父は写真家だった。
日々の何気ないことから、学校行事まで、
私のアルバムには祖父が撮ってくれた写真がたくさん残っている。
この縁側で、祖父はよく、古いカメラの手入れをしていたものだ。
私は子供の頃からそれをよく覗き込んでいた。
部品を磨いたり、油をさしたり、
ごつごつした手で細かな作業を行う様が、まるで魔法のように見えていた。
フィルムを回す時に鳴る、なんとも言えないあのジーっという音。
どうにもおかしくて、私はよく笑っていた。
祖父は不思議そうにしていたが、あの音がくすぐったくないのだろうか。
不思議に思っていたのはこっちだ。
今でもはっきりと耳に残っている、
あの思い出を語る音を、もう聞くことはできない。
カメラの扱い方を習っておくんだったな。
和室の角に鎮座するそれに目をやると、時計の鐘がボーンと鳴った。
もう少しここにいると、藍に染まる空の中に、
帰宅して居間に明かりが灯るかのように、
星と月の光がやわらかく光り始める。
その様子も眺めていたいけれど、ご飯の支度ができなくなってしまう。
だから、紫が消えたら台所に戻る、それが自分との約束だった。
空に目をやると、ほんの少し残っていた紫の層が溶ける。
私はため息をひとつ吐き立ち上がった。
台所へ戻る前に、もう一度和室に目をやって呟く。
「今日買ってきたカレイはぶ厚くて身が締まってたから、きっと美味しいよ。
煮つけにするから、一緒に食べようね、おじいちゃん」