召しませ! メロンパン教!!

作:早川ふう / 所要時間30分 / 0:4

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少しでも楽しんでいただければ幸いです。2023.05.09(2020.12.14)


【登場人物紹介】

春香(はるか)
 20代後半のOL。ランチに焼きそばパンを食べながら、彼氏のことを思い出し語り始める。
 彼氏は中学の同級生で高校生から今に至るまでずっと付き合い続けており、
 最近喧嘩が多くなってきたことで、このまま彼氏と付き合い続けていいものかどうかを悩んでいる。
 それなりに明るい性格ではある。

千夏(ちなつ)
 20代後半のOL。ランチにカレーパンを食べながら、
 語り始めた春香につられて彼氏のことを思い出し語り始める。
 彼氏は元彼の友達で、付き合って1年。面倒見のよい性格だが、依存体質な一面も。
 最近彼氏が浮気をしているかもしれないと悩み、新しい恋を探し始めようかなと思っている。

秋奈(あきな)
 20代後半のOL。ランチにチャーハンとオムライスのおにぎりを食べながら、恋バナに食いついてくる。
 おっとりとした印象ではあるが、芯は強く、自分の意見は曲げない。
 合コンの女王で飽きっぽい一面もある。恋愛に関しては一番おおらかな価値観。

冬美(ふゆみ)
 20代後半のOL。ランチにメロンパンを食べながら、三人のやりとりにツッコミが追い付かない。
 真面目な性格。美容師の彼氏がおり、もう三年付き合っている。



【配役表】

春香・・・
千夏・・・
秋奈・・・
冬美・・・



(時刻はお昼の十二時過ぎ。
 オフィスビル内のとある会社の小会議室に春香、千夏、秋奈、冬美の四人が集まり、
 それぞれがお店等で購入してきたパンなどのランチを広げ、昼休憩をとっている。)

春香 「焼きそばパンには、人生の哲学がつまってると思うのよね」

秋奈 「は?」

千夏 「どういうこと?」

冬美 「いきなり何を言い出すの?」

春香 「だって見てよほら!
    申し訳なさそうにソースの味がついたぼっそぼその麺、
    単品で食べたらくっそまずいこの焼きそばを、
    喉につまりそうなパンで挟みこんだ、B級グルメの王道たるこの姿!
    パッサパサの紅ショウガと、
    食べ終わった後の歯のチェック必須の青のりのアクセントがたまらない!
    決して美味しくはないのにたまに無性に食べたくなるこの味の奥深さ!」

秋奈 「決して美味しくはないって言っちゃってるけど、奥深いのー?」

冬美 「人生の哲学どこいった、ただのディスりじゃん」

春香 「違うの! 世の中には、必要ないものなんてないんだなって話!
    そこに味があれば、きっとどこかで輝ける!
    さながら欠点を補い合えるカップルのようにっ!
    ……ね? 深いでしょ!?」

千夏 「ごめん、どこがどう深いのかさっぱりわからない」

春香 「えーっ、だったら千夏はどう思うのよ!
    人生といえば何!? ほら語ってみて!」

秋奈 「無茶ぶりだー!」

冬美 「千夏、そんなの乗ることないわよ?」

千夏 「いいわ。受けて立とうじゃない」

春香 「お!? いいわよ、何でも来なさい!」

秋奈 「春香選手の挑発をー、千夏選手受けて立ったー! わくわく!」

冬美 「あー頭痛くなってきた……」

千夏 「焼きそばパンだなんて世迷言、ちゃんちゃらおかしいってのよ。
    人生といえば……ずばり、カレーパンでしょう!!」

春香 「かっ、カレーパン、ですって!?」

冬美 「うわぁ……」

秋奈 「カレーパン……一応訊くけど、どういうこと?」

千夏 「カレーという素晴らしい文化と、パンの究極のコラボレーション!
    パンを揚げることによって生まれたあの食感もさることながら、
    ヘルシーな焼きカレーパンにしてもその美味しさは無限大。
    そう、人はそれをマリアージュと呼ぶわ。
    私達は高め合って生きていけるの!
    人類が求める究極の進化の形がそこにある!」

冬美 「もうどこからツッコめばいいのか……」

春香 「や、やるわね……」

秋奈 「なるほどー」

冬美 「秋奈も感心しないの!」

千夏 「そこに味があるだけで輝ける、それは確かにそうでしょう。
    でもどのくらい輝けるかは個人のポテンシャルにかかっていることは否めない。
    そして、欠点を補い合う相手と望める未来はそう多くはないわ。
    焼きそばパン程度で満足なら、あなたは所詮その程度の人生で満足ということなのよね。
    人間、向上心を忘れたらおしまいよ!」

春香 「何ですって!?
    ポテンシャルなんて言葉に騙されないわよ。
    所詮千夏の言っていることは、男をステータスで見てますってことじゃないの!?」

千夏 「ええそう言ってるのよ!
    高望みをしてるわけじゃなくても、ある程度の生活水準は皆望むものでしょう?
    じゃあ男の何を見るのよ! 職業は? 年収は? 実家はどんなところ?
    全部大事なことでしょうが!
     あとで知りませんでしたって泣きを見てからじゃ遅いのよ!!」

冬美 「待って待って、絶対そういう話じゃなかったと思う!
    人生の哲学じゃなくてもうそれ結婚相手の判断基準に話すりかわってる!!」

秋奈 「でもすごーく納得しちゃうけどなあ」

冬美 「秋奈までやめてよあっち側にいくのは!
    収拾つかなくなっちゃうんだからね!」

秋奈 「えーでも私も語りたいー」

春香 「大歓迎よ!」

千夏 「秋奈も参戦? これは面白くなってきたね!」

秋奈 「わーい! でもパンで哲学って難しくってー」

冬美 「難しいなら無理してやらなくていいんだって。
    これ以上この話広げなくてもいいの。オーケー?」

秋奈 「えー」

春香 「ちなみに冬美、あんたの考えも聞かせてもらうから」

千夏 「そうよそうよ。私達だけ言ったんじゃあねえ? 不公平じゃない?」

冬美 「いやいや、私はいいから!
    っていうかさ、ほんと、二人ともどうしたの?
    いきなり人生語っちゃったりしてさ。何かあったの?」

春香 「……あー……、まぁ、うん、そうだね、あったね」

千夏 「春香、彼氏と喧嘩でもしたの?」

春香 「うーん……喧嘩っていうか、もう別れるかもしれない」

秋奈 「えーっ!? 何があったの!?」

冬美 「確か春香の彼氏って、幼馴染とかじゃなかったっけ?」

春香 「まぁそんな感じかな。
    中学からの同級生だから。高校の時からずっと付き合ってる」

秋奈 「もしかして初カレとずっと続いてるパターン?」

春香 「うん、まぁ」

秋奈 「じゃあ10年以上続いてるんだー! すごいねえ!
    でも、別れるかもってどうして? もったいなくない?」

千夏 「一人の人とずっと長く付き合ってるって、
    新鮮味もなくなるし、色々大変ってよく聞くけど、どうなのそのへん?」

冬美 「ちょっと二人とも! 春香、言いたくなかったら別にいいからね」

春香 「大丈夫。千夏が言ったこと、まさにそれ大正解。
    ずっと一緒にいるから、お互いもう夫婦みたいになっちゃったんだよね。
    今同棲もしてるから、改めてデートって雰囲気もなくなっちゃったし、
    記念日祝ったりとかももうないの。もう同居人じゃんこんなの。
    キスとかエッチとか、雰囲気もないし、最近義務感やばいなって感じてるんだよね」

秋奈 「あー、それは切ない」

千夏 「彼のこと、もう好きじゃないの?」

春香 「好きか嫌いかで言えば好きだよ。
    自分のことわかってくれてるって思うし、私もわかるしさ、
    何ていうの、阿吽の呼吸みたいな。楽な関係だなとも思う。
    でもさ、私……彼氏しか男の人知らないから。
    判断材料がないんだよね。
    この先ずっと彼と一緒に人生歩いていけるのかなあって、最近不安なんだ。
    ちょっとしたことで喧嘩も多くなってきたしさ」

冬美 「……でも、彼氏は焼きそばパンなんでしょ?」

春香 「え?」

冬美 「春香が自分で言ったんでしょうが。
    決して美味しくはないけど、欠点を補い合えるカップル。
    自分のこと言ってたんじゃないの?」

春香 「……まぁ、ちょっと考えてたのもあるけどさ」

秋奈 「不安なら、少し男友達と遊ぶのもいいと思うよー」

千夏 「え、でも、それで喧嘩増えたり別れたりしたらどうするの?」

秋奈 「その時はその時でしょう。
    浮気とかじゃなくて、友達の範囲で健全に遊んでれば、こっちに非はないし。
    許してくれるなら、ちょっと違う目線から彼氏のこと見てみるっていうのアリだと思うの。
    それを許せなくて別れるなら、
    どのみちうまくいかない運命だったんだって諦めもつかないかなあ」

千夏 「そっか、そういう考えもアリか……」

冬美 「秋奈、それただ単に合コン誘おうとしてるだけなんじゃない?」

秋奈 「あは、冬美ちゃん当たり! よくわかったねぇ」

冬美 「だって秋奈週五で合コンしてた時もあったくらい合コン好きじゃないの」

千夏 「よくお金続くよねぇ」

秋奈 「割り勘って言っても、女の子は二千円であとは男の子が払ってくれるよ」

千夏 「二千円……うーん、それなら行きたいかもしれない……」

秋奈 「わーい千夏ちゃんゲット!
    じゃあ来週あたりでちょっと計画たててみるー!」

春香 「合コンかぁ……実は行ったことないんだよねぇ私」

秋奈 「えー! じゃあ春香ちゃんも行こうよ!
    ただ単に初めましての人と飲み会するだけだから、怖くないよ大丈夫!」

冬美 「でも春香って確かお酒弱かったよね?」

春香 「うん……市販の缶チューハイひと缶あけられないくらい弱いんだけど、大丈夫かな」

秋奈 「悪さするような男を揃えたりしないから大丈夫。
    基本ノンアルコールのカクテルとかウーロン茶とか飲んでればいいからね」

冬美 「ちょっと春香、いいの? 普通に心配なんだけど」

春香 「心配はありがたいけど、合コンはちょっと行ってみたい」

千夏 「大丈夫、私面倒みるからさ!」

冬美 「まぁ、千夏が一緒なら大丈夫だとは思うけど……」

秋奈 「冬美ちゃんも行かない? どうせなら四人でどうかなー?」

冬美 「あー、私はそういうの苦手だから……」

秋奈 「そっかあ。気が変わったらいつでも言ってね!」

冬美 「あ、ありがとう……」

春香 「カレーパン探してみてもさ……、
    やっぱり焼きそばパンがよくなるかもしれないよね」

秋奈 「そうそう。食わず嫌いはだめ、まずは食べてみることが大事だよー!」

春香 「ひとまず別れる別れないって話は置いといて、考えてみることにする」

千夏 「うん、それがいいよ」

冬美 「……本当にいいのかなあ」

千夏 「冬美は心配性なんだから」

冬美 「だってさあ」

千夏 「本人が納得してるんだからいいでしょ。
    過保護になったってしょうがないんだからさ」

冬美 「まぁそうだけどね」

春香 「そういえばさ、カレーパンで対抗してた千夏の恋愛事情、
    ちょっと私気になっちゃうんだけど? 最近どうなのよ」

千夏 「えっ、私?」

秋奈 「私も気になるー。どんな人と付き合ってるの?」

千夏 「あー……商社の営業マン、三十歳、そこそこエリート」

春香 「すごい! え、どこで知り合ったの!?」

千夏 「元彼の大学時代の友達だったんだよね。
    元彼のこと相談してるうちにそっちに気持ち移っちゃって」

秋奈 「あー、あるあるそういうのー」

冬美 「彼氏さんは、元彼さんとの友情より千夏を取ったんだ?
    あるんだね、そういう恋愛」

春香 「付き合ってどれくらい?」

千夏 「十ヶ月くらいかな」

冬美 「へぇー」

春香 「うまくいってるの?」

千夏 「いや……どうかな。
    最近LINEの返信遅かったりするし。
    そろそろ潮時かもとは思ってるんだよね」

秋奈 「浮気されてるっぽいってこと?」

千夏 「確証はないけどね。
    こういうときって、次を探しておきたいなって思うじゃん?」

春香 「あー、それで合コン行きたいって言ったの?」

千夏 「まぁね」

秋奈 「んー……、でも千夏ちゃんみたいなタイプは、あんまり合コン向きじゃないよねー」

千夏 「え? どういうこと?」

秋奈 「たぶん、盛り上がったり、楽しむことはできてもさー、
    彼氏を作ろうってところまで行動できないような気がするー」

千夏 「うっ、……いや、できるって、やろうと思えば」

秋奈 「面倒見いいのも考え物だと思うよー。
    自分中心にして動かないとだめ。
    合コンはハンティングなんだから。
    待ってても獲物は降ってこないんだよー」

冬美 「なんか、秋奈がおっとり口調でそういうこと言うのちょっと怖いよね」

春香 「でも、すごく勉強になります!」

冬美 「春香はそうだろうけど……」

千夏 「……元彼さ、男友達にはいい顔してたけど、恋人には結構ひどいタイプでさ。
    彼氏はそこから助けてくれたんだよね。
    だから感謝してるし、一時期すごい依存もしちゃって。
    でも、そういうのって負担になるじゃん。
    お互い苦しくなるし。
    だから……離れられるなら今のうちに離れた方がいいんだよ、ドロドロになる前にさ」

春香 「千夏がそう決意してるなら、……いいけどさぁ……」

秋奈 「彼と別れるのと、新しい恋をするの、
    千夏ちゃんはいっぺんにはできなさそうだけどねー。
    でもまぁ、気分転換になるだろうしいいんじゃないかなあ」

千夏 「どうせ別れるなら、次はもっとイイ男捕まえたいし、
    そりゃあステータスも気にするってもんでしょう?
    お互いを高め合えるカレーパンな人、募集中!」

春香 「なるほどね。千夏にはそれがいいのかもしれない」

冬美 「そうね」

秋奈 「みんないいなあ、恋してて」

冬美 「合コン女王の秋奈様はどうなんですか恋愛事情は」

秋奈 「私ここ数年フリーだもーん」

春香 「えっ本当!?」

千夏 「それは嘘だよ、さすがに騙されないからね」

秋奈 「えー何でー? ずっとフリーだよ?」

冬美 「ちょいちょいデートの予定とかあるよね?
    残業代わったことあったじゃない。
    あと、クリスマスとかバレンタインとか、気合入れてたのも記憶してますけど?」

秋奈 「デートはしてても、お付き合いはしてないもーん」

春香 「は? どういうこと?」

秋奈 「だからあ……合コンでいいなって思った人とは連絡とりあって、
    たまに遊んだりもするけどー……それ以上に発展しないってことー」

千夏 「えっ、それってもしかして、遊ばれてるって話?」

秋奈 「失礼ねえ、遊ばれてなんかいませんー」

冬美 「……ヤリ捨てられたりとかしてないでしょうね」

秋奈 「ワンナイトはたまにあるよー。
    でも、ぴんとこないとほんとそれで終わりなんだよねぇ。
    私が飽きちゃうっていうか……
    ああこんなもんかーって思うと、もう途端に興味なくなっちゃってー。
    このまま付き合わないかって言われても、
    ごめんなさーいってさよならしちゃうのー」

冬美 「恐ろしい……遊んでるのはこっちだったかっ……」

春香 「今好きな人もいない感じ?」

秋奈 「いないねぇ。……んー、どっかにいるかなあ私の王子様」

千夏 「王子様なんていないからね! いるのはただの男です男!」

春香 「男に夢見たら現実がつらくなるだけだから!」

冬美 「二人が全力で王子様を否定するのがつらいわ。
    てか千夏はまがりなりにも今の彼氏が、
    元彼から救ってくれた王子様じゃないの!?」

千夏 「ああ、そういう考え方……えーでもそれって王子様っていうより騎士じゃない?」

冬美 「どっちもそんなに違わないでしょうが!!」

春香 「秋奈の王子様、見つかるといいね」

秋奈 「うん。だから私はまだ始まってないんだよね。
    朝ビュッフェってとこかなあ」

千夏 「朝ビュッフェ?」

秋奈 「よくあるでしょ、モーニング限定、パン二十種類食べ放題とか」

千夏 「ああ……」

冬美 「言い得て妙過ぎて逆に何て言っていいかわからないわ!
    食べ放題とか、恋愛に変換したらちょっとあまりいい意味じゃない気がする!」

秋奈 「あはは、そっかぁ、じゃあだめだねー」

春香 「……もしかして、パンじゃないって可能性もあるんじゃない?」

秋奈 「え?」

千夏 「そっか! その線あるね!」

春香 「でしょ。ほら、現に今、秋奈はおにぎり食べてるし!」

秋奈 「あー確かに。じゃあおにぎりなのかなー?」

冬美 「おにぎりっていうと……理想の具的な話になる?」

春香 「秋奈が今食べてるおにぎりは?」

秋奈 「チャーハン」

千夏 「……美味しいけど海苔で巻いてない時点で王道じゃないよねっ」

春香 「じゃあそっちの袋に入ってるのは何?」

秋奈 「オムライス」

千夏 「巻いてあったけどやっぱり邪道!」

冬美 「……鮭とか、たらことか、昆布とか、秋奈はそういう普通なおにぎりは食べないの?」

秋奈 「食べるよ? たまに」

冬美 「あー……」

春香 「じゃあ質問です。秋奈が一番好きなおにぎりは、何ですかっ?」

秋奈 「んーー、ビビンバ!」

千夏 「……たぶん、秋奈の王子様は合コンでは出会えない気がする」

秋奈 「えーーっ?」

千夏 「ね」

冬美 「うん、そう思う」

春香 「私も、そう思う」

秋奈 「そうかなあ……」

春香 「合コンで出会える男とは基本的にタイプが違いそうだもん、うん」

秋奈 「えー、納得いかなーい!」

千夏 「そこは私達じゃどうにもできないところだから納得してよ!」

冬美 「合コンの女王やってきていまだにフリーっていうのはそういうことだと思うわよ」

秋奈 「そうなのかなぁ、うーん……そんな高望みとかもしないのになー……」

春香 「ぴんとくる相手っていうのが一番難しいと思う……」

千夏 「うん、右に同じ……」

春香 「じゃ、じゃあ、最後に! 冬美いこうか!」

千夏 「そうだね! 冬美ーー」

冬美 「えっ!? 私はいいってば!」

千夏 「ここまで来て逃げられると思ってるのー?」

冬美 「恋愛事情なんて別に話すようなことないもの」

春香 「でも、恋愛はしてるんでしょう?」

冬美 「そりゃあ……まぁ、一応」

春香 「それを話してほしいなって言ってるんだけどなあ?」

秋奈 「冬美ちゃんの恋バナ、私も聞きたいなーっ」

冬美 「待ってよ。今の話題って恋バナじゃなかったでしょうが」

春香 「えっ?」

千夏 「みんなここまで恋の話してきましたけど?」

秋奈 「うんうん」

冬美 「もともと春香が焼きそばパンには人生の哲学がーとか言い出したんでしょうが!」

春香 「あー……確かに言ったけど」

冬美 「恋の話題ではありませんでした!
    人生の哲学なんてよくわかりません!
    よって私は何も語るようなことはございません! はい、終わり!」

千夏 「いやいやダメですよ、そうは問屋が卸しませんってやつですよ!」

春香 「確かに始まりはそうだったけど、今みんな恋の話してたわけで。
    順番的にまわってきたわけで。
    もちろんみんな冬美の話も聞きたいんですけどー?」

秋奈 「聞きたい聞きたいー!」

冬美 「えええ……」

千夏 「でも、冬美が一番プライベート謎っていうか、あまり話さないタイプだよね。
    何も知らない気がする」

秋奈 「私も何も知らないー」

春香;「じゃあまず、今付き合ってる人っているの?」

冬美 「まぁ……いる、けど」

春香 「おおっ、どんな人?」

冬美 「同い年の、美容師」

秋奈 「美容師!? すごーい!」

千夏 「どこで知り合ったの? ナンパ!?」

冬美 「いや、普通に、……ずっと髪切ってくれてた人で……。
    バレンタインに髪切ったことあって、
    せっかくだからってチョコ渡して、
    お礼に食事誘われたのがきっかけで……
    なんか、付き合うことに、なった感じ、かなあ」

春香 「……王道だ」

千夏 「王道だね」

秋奈 「いいねぇーー」

春香 「秋奈も見習ったほうがいいと思う」

千夏 「そうだよ! 秋奈が目指すべきはこれ!」

秋奈 「えーー王道ってことーー? 私が邪道みたいじゃーん!」

春香 「そういうことです!」

千夏 「それで? 冬美と彼氏、付き合ってどれくらい経つの?」

冬美 「もうすぐ三年になる、かな」

春香 「順調だ……」

千夏 「順調だね」

秋奈 「いいねぇーー」

春香 「見習って」

千夏 「右に同じ」

秋奈 「えーー……」

春香 「美容師さんって、職場に女性が多いじゃない。そういうの気にならない?」

冬美 「今はもうないかなあ。
    同僚もライバルって感覚が強いみたいで、
    恋愛対象にはならないって断言してくれてるから」

千夏 「でもお客さんだって女性が多いでしょう。
    自分が客の立場から付き合うことになったなら尚更、
    同じことが起きるんじゃないかって不安になったりしない?」

冬美 「まったくないって言ったら嘘になるけど、それってうちだって一緒じゃない」

秋奈 「一緒って?」

冬美 「職場に男性が多いし、よく話すし、飲みに行ったりもする。
    どの職業だって一緒だから、考えないことにしたの」

秋奈 「なるほどねー」

春香 「すごい」

千夏 「すごいね」

春香 「一番冬美が恋愛偏差値高いんだね」

千夏 「ちょっとびっくり」

春香 「これは是非とも、冬美先生に色々とご教授いただきたい!」

千夏 「右に同じ!」

冬美 「はぁ??」

春香 「パンでもおにぎりでも何でもいいです」

千夏 「是非に! お考えをお聞きしたい!!」

秋奈 「私もー聞きたーい!」

春香 「ちなみに今召し上がっていらっしゃるのはっ」

冬美 「……待って。これで語ってみろってこと?」

千夏 「……もしお考えがあるのであれば是非に」

冬美 「無茶言わないでよ……」

春香 「もちろん強制するつもりは毛頭ございませんけどもっ」

千夏 「たとえていただければ嬉しいなと思う次第でござりまするっ」

秋奈 「あはは、二人とも変な言葉ーー」

冬美 「何の変哲もないただのメロンパンを、どう語れと……」

春香 「ああっメロンパン!」

千夏 「その芳しい甘い香り……先生はどう語られるのでしょうか。
    そのお言葉はきっと焼きそばパンとカレーパンを凌駕するはずです!」

冬美 「ナニソレ、もう、ごちゃごちゃわけわかんないことばっかり言うんだから……」

春香 「なにとぞ!」

千夏 「お願いいたします!」

秋奈 「お願いしまーす」

冬美 「……」

(春香と千夏、熱い視線で冬美を見つめる。秋奈はのほほんと眺めている。)

春香 「……」

千夏 「……」

冬美 「こうなりゃ……自棄よ」

秋奈 「おー、始まるかなー!?」

冬美 「……メロンパン。
    それは、ぬくもりある甘い生地がノーマルなパンを包み込んだ、母性溢れる一品。
    チョコをいれてもよし。クリームをいれてもよし。
    夕張メロンだって、マスクメロンだって全てを包み込める。
    もしかしたら、それは母性ではなく、男性の包容力そのものなのかもしれない。
    つまり、男女の垣根を越える愛情の理想形とも言えるわ」

春香 「……っ!」

千夏 「……っ!」

秋奈 「おおーー」

冬美 「万人全てに受け入れられるその形はつまり、
    愛情はすべてを凌駕するということに他ならない。
    たとえ、欠点を補いあっていたとしても、
    よりよいステータスを求めていたとしても、
    そこに愛情があれば、同じではありませんか。
    一人の人しか知らなくてもいい。
    友達の彼と付き合ったっていい。
    愛情があれば、全ての人に等しく幸せは訪れるもの。
    私達はただ、その幸せを受け入れる。ただそれだけでよいのです……!」

春香 「……」

千夏 「……」

秋奈 「……」

冬美 「……え。……ダメかな?」

春香 「……」

千夏 「……」

秋奈 「んーー……ちょーっと私には難しかったかもー」

冬美 「嘘っ、結構頑張ったんだけどなあ!?」

春香 「いやいやいやいや、さすがです先生!!」

千夏 「素晴らしい!! 最高ですよ先生!!」

冬美 「えっ? はっ!?」

秋奈 「わー、よかったねぇ、褒められたじゃーん」

冬美 「え、あの沈黙は何だったの?」

春香 「感動してたのよ!」

千夏 「右に同じ!!」

冬美 「か、感動……?」

秋奈 「すごいねー」

春香 「幸せを受け入れるって、すごく深いね。
    いや、わかるんだけどさ。でもわかってなかったんだなあ私。
    今、彼氏と喧嘩多くなってるけどさ、
    それってたぶん、関係を見直せる時期なのかもしれないってちょっと思えた。
    ……そう考えると私、今の幸せを大事にしたくなってきたよ」

秋奈 「そうだね、それでもいいと思うよー。
    せっかく長く付き合ってるのにもったいないしさー」

千夏 「愛情があれば同じ、っていうのも深いよね。
    そうだなぁって思った。
    私、どこかで自分が間違ってるって思ってたのかもしれない。
    元彼の友達と付き合い続ける自分に罪悪感っていうか。
    別に二股かけてたわけでもないし、
    何も悪いことしてないんだから堂々としてればよかったんだよね。
    今の彼氏が元彼の友達だからって、
    未来を望んじゃいけないなんてそんなの、ないんだよね。
    相手がどうかはともかく、
    私がずっと一緒にいたいって思っても、いいんだよね……」

秋奈 「うんうん、そうだよ。出会いがどうだったかなんて関係ないよねー、
    ずっと一緒にいたいないら、いればいいんだよー羨ましいなあー」

冬美 「秋奈はまず男を大事にしようか。使い捨てダメ絶対」

秋奈 「えー、してるんだけどー?」

冬美 「どこが!!」

春香 「秋奈は……後ろから刺される前にほんと気付いて。
    幸せになってほしいからマジで」

千夏 「うんうんそうだね、右に同じ」

秋奈 「もー、千夏ちゃんそればっかりじゃーん!」

冬美 「でも、私もそれは思うよ。
    恋愛は人それぞれだと思うけどさ、
    でも、自分のことも大事にしてほしいし、
    ご縁がなかった相手だとしても、
    少しでも向き合おうとした相手なんだったら大事にした方がいいと思う」

秋奈 「……うーん、そっかあ。……じゃあちょっと気を付ける」

冬美 「うん、そうして」

春香 「絶対ね」

千夏 「約束してよ」

秋奈 「わかったぁ」

冬美 「でも……こんな話題で盛り上がるなんて思わなかったな。
    お昼休みだっていうのにちょっと疲れちゃったよ私」

千夏 「あはは、かなり語っちゃったもんね!」

春香 「でも語れてよかったけどなあ。
    何ていうか、色々考えられたし、みんなの最近の恋愛事情もわかったしさ」

秋奈 「うんうん、思わぬところから広がって、楽しかったね!」

冬美 「そうね、楽しかったわね」

春香 「でさ、冬美。そのメロンパン、どこで買ったの?」

冬美 「え? メロンパン?
    会社の外に移動販売の車が来てるんだけど、そこのよ。
    評判いいって後輩に聞いたから今日初めて食べた。美味しかったわよ」

千夏 「えーー! 一口欲しかったなあ!」

冬美 「ああごめんなさい、食べちゃった」

秋奈 「確か、そのメロンパンって月曜と木曜に来る赤い車だったよね?
    プレーンとチョコチップと今の季節だとメープルが売ってるよ」

春香 「メープル!? 私木曜に絶対食べる!」

千夏 「私はチョコチップいくわ!!」

春香 「メロンパンを食べて……勇気を出す!!」

千夏 「右に同じッ!」

冬美 「何でそんないきなりメロンパンになってるのよ二人とも」

春香 「だってそりゃあ……大先生の教えがありましたしー」

冬美 「だっ、大先生!?」

千夏 「メロンパンは全てを凌駕しましたしー」

秋奈 「なんか冬美ちゃん、メロンパン教の教祖様みたいだねぇ」

冬美 「やめてよ!
    この二人ノリがよすぎるんだからこれ以上おかしなことになったらどうするの!」

春香 「教祖様ーーー!」

千夏 「なにとぞ、我ら迷える子羊をお導きくださいませーーー!」

秋奈 「あはは! 大変だねぇ」

冬美 「笑ってないで助けてよ秋奈!」

秋奈 「えーこれは無理ー!」

冬美 「ほらもう昼休み終わっちゃうから!
    さっさと片付けて仕事戻るわよ!」

春香 「ははーっ!」(畏まる)

千夏 「教祖様の仰せの通りに!」

秋奈 「あー午後イチで出す書類があったっけ、データ出しておかなきゃだー」

春香 「待って秋奈現実に戻るの早すぎるわよー」

秋奈 「えぇ?」

春香 「悪いことは言わないわ。秋奈もメロンパン教に入りなさい!」

千夏 「そうよそうよ、あんたが一番危ないんだから」

冬美 「はいそこ怪しい宗教に勧誘しないの!」

春香 「入信して改心しましょう。ね!
    教祖様が救ってくださるから!」

千夏 「今からでも遅くない!
    今からだって人間変われるんだよ!!」

冬美 「やだ聞いてくれないこの二人!」

秋奈 「んー、でもー、メロンパン教ってなんかネーミングセンスが嫌だからなー……」

冬美 「秋奈気にするところはそこじゃない!」

秋奈 「あ、そうだ。
    二人とも今の彼氏と付き合い続けるんだったらさー、
    合コンもしないってことでよかったのかなあ?」

春香 「あ、行くよ」

千夏 「右に同じ!」

冬美 「えっ、二人とも行くの?!」

千夏 「だってねぇ?」

春香 「ねぇ。それとこれとは、別よ」

冬美 「別なんだ……」

春香 「申し訳ありません教祖様。
    いくら教祖様のお言葉でも、合コンには行ってみたいのです!」

千夏 「春香の面倒も見なきゃいけませんし、私も、騒ぎたい気分でして!」

冬美 「ああ、そう……」

秋奈 「よかったぁ。じゃあ予定組めたらLINEするね。
    冬美ちゃんもせっかくだから行こうよー。
    あ、美容師の彼氏くんって、そういうの嫌がるタイプだった?」

冬美 「嫌がりはしないだろうけど、私が飲み会とか苦手だからさ……」

秋奈 「この四人だったら楽しく飲めると思うけどなぁー」

春香 「居酒屋で愛とはって語り始めるんでしょう? 絶対楽しいよ」

千夏 「あー、愛とは軟骨の唐揚げのようなものである、とか!?」

春香 「いやいやそこは枝豆かもしれない!」

冬美 「ちょっと二人とも」

千夏 「そうだ、飲み物で語るのもありかもしれないよね!」

春香 「人生とは、ハイボールである! とか?」

秋奈 「何それおっかしー!」

冬美 「どういう意味なのよもう……」

春香 「えー、わかんないけどー、そこはほら、大先生が考えてくれるだろうし!」

冬美 「最初に焼きそばパンであれだけ語ってた人が丸投げしてくるっておかしいでしょうが」

千夏 「大先生の教え、待ってますんで!
    ねっ、行こう、行っちゃおう!」

秋奈 「ほらぁ、ここまで言ってるんだから行こうよ教祖様ー」

冬美 「もう居酒屋に話題移ってるでしょうが、
    メロンパン教も関係ないでしょ!?」

春香 「あっ、ごめんごめんメロンパン教がよかったんだね!?」

冬美 「そういうことじゃなくてっ」

千夏 「早速迷える私達を救ってくださったのですね!」

秋奈 「さっすが教祖様ー!」

千夏 「私達、メロンパンに一生ついていきますので!」

春香 「教祖様もぜひ合コンにご一緒いたしましょう!」

千夏 「メロンパン万歳ー!」

冬美 「だからその教祖イジりやめてよ!
    もういい加減マジでめんどくさい!」

秋奈 「じゃ、冬美ちゃんも合コン参加決定ということでー!」

冬美 「絶対行きません! 行かないからね!!
    さあ仕事に戻るわよっ! メロンパンなんてもう懲り懲り!!」





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