魔女の条件

作:早川ふう / 所要時間 30分 / 比率 0:2

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2015.08.07.


【登場人物紹介】

藤本咲久良(ふじもと さくら)
  18歳。大学生。
  ハンドクラフトのサークル『不器用だけど作り隊』隊長(代表)。
  千恵里が昔作ったアクセを買ったことがきっかけで、ハンクラに目覚める。
  明るくて、積極的な印象。ピンクブラウンに染めた髪をおろしている。
  ハリポタフリークという一面もある。
  ネット活動名は「すみれ」。

長田千恵里(ながた ちえり)
  29歳。ハンクラ歴は18年。パッチワークから編み物、レジンアクセまで幅広い。
  小学校の時手芸部に入ったことがきっかけでハンクラにハマる。
  成人してからは、個人サイトで自作品を売っていたが、結婚後しばらくしてサイトを閉鎖する。
  しかし、2年前からハンクラを再開し、1年前サークルに入る。
  自己肯定感が低く、おとなしい印象。
  ネット活動名は「チェリー」。


【配役表】

咲久良・・・
千恵里・・・



咲久良   「私が魔法をかけてあげる」

千恵里    あなたは笑った。
       そう言って、笑ってたね。



(駅前広場 待ち合わせ場所)

咲久良   「遅れてごめんなさーいっ!
       あっ、新顔さんだ!
       でも今日初めて来る人は、紅茶クッキー兄さんとチェリーさんだけだったような……
       チェリーさんですか?」

千恵里   「あ、はい、チェリー、です」

咲久良   「わーチェリーさんだー!
       こんにちは! 作り隊隊長のすみれでーっす」

千恵里   「えっ、あなたがすみれさん……!?」

咲久良   「そうでーす、はじめましてー」

千恵里   「……はじめまして。
       知らなかった、すみれさんって若いんですね」

咲久良   「あはは、まだ18だからー。
       隊長とか言ってるけどサークルの中では一番年下かもしれない!」

千恵里   「それなのに団体運営するとかすごい……」

咲久良   「照れるなー、でもほら、みんな趣味が好きで集まってるから!
       会計はラフランスちゃんがやってくれてるし、
       サイト作ってるのは紅茶クッキー兄さんだし、
       私なんてメールチェックとかの雑用してるだけだもん」

千恵里   「あれっ……」

千恵里    彼女の耳元に、見覚えのあるピアスが揺れていた。

咲久良   「あ、これですか?」

千恵里   「うん……」

咲久良   「お目が高い! これイイでしょ!?
       といっても、私が作ったわけじゃないんだ。
       何を隠そう、私がハンクラ始めるきっかけになったのが、このピアス!」

千恵里   「え……」

咲久良   「中学受験して入った中高一貫の学校がなーんかあわなくて。
       友達もいなくて、読書とかもキライで。
       自分がからっぽでなーんにもなかった時期があったんだけど、
       ネットしてて偶然辿り着いたハンクラサイトに目が釘付け!
       で、一目惚れして買っちゃったのがー……このピアスー!!」

千恵里   「ああ……そういうこと、あるよね」

咲久良   「チェリーさんもある?!
       でも目が合っちゃったらしょうがないよね!」

千恵里   「うんうん」

咲久良   「これ買ったのはもう何年も前だし、
       そのサイトもそれからすぐ閉鎖しちゃったんだけど。
       私もこういうの作ってみたいーって思ったんだー。
       でも私不器用だったからなかなかうまくいかなくて!
       色々試行錯誤してたら、同じ悩み持ってる人に出会って、
       で、このサークル、『不器用だけど作り隊』になったのー。
       あっ、なんか一人でべらべら喋っちゃってゴメンナサーイ!」

千恵里   「……すごいね。
       そこまで活動的になれるなんて、尊敬しちゃう」

咲久良   「あはは、おだてても何もでないですよー!?」

千恵里   「おだててないですよ」

咲久良   「ふふふ。
       今日、急にオフ会しようって声かけたのに、
       結構みんな集まってくれて嬉しいな〜」

千恵里   「あれ、みんなイベントで集まったりしてますよね?」

咲久良   「イベントはともかく、
       急に遊ぼうって声かけても集まれるのって嬉しいから!」

千恵里   「そういう雰囲気なんじゃないかなって思います。
       ほら、アットホームっていうか」

咲久良   「だったら嬉しいな!
       あ、チェリーさんて、どこ住みでしたっけ?」

千恵里   「都内だけど……」

咲久良   「えっ都内だったのっ?
       じゃあ今度イベント参加の時とか、都合いい時、売り子きてくださいよ!」

千恵里   「うん、……行く」

咲久良   「やったあ売り子ゲットー!
       でもイベントって大抵休日ですけど、大丈夫ですか?
       確か、主婦さんでしたよね?」

千恵里   「う、うん。
       大丈夫。無理なときは無理って言うから」

咲久良   「ありがとうございますっ。
       あ、そういえば、チェリーさんの雨シリーズ、好評ですよ!」

千恵里   「えっほんと?」

咲久良   「てるてる坊主のセット、もうすぐ売り切れます。
       追加少し作りますか?」

千恵里   「うーん。
       もうすぐ梅雨も終わるし……どうしようかなぁ」

咲久良   「個人的には作ってほしいな。
       私が欲しい!」

千恵里   「すみれさんにだったらプレゼントするよ。
       というか気に入ったのあったらどれでも商品から抜いちゃっていいのに」

咲久良   「わーだめだめ! 公私混同禁止ー!」

千恵里   「そ、そっか、そうだよね。
       誤解されて信用なくすようなことになっちゃったら大変だよね。
       考えナシなこと言っちゃってすみません」

咲久良   「あー違うの。そういう深刻な問題じゃないっていうか、
       いや、ある意味もっと深刻っていうか!」

千恵里   「え?」

咲久良   「……際限なくなっちゃうからっ」

千恵里   「え……、あはは!」

咲久良   「笑いごとじゃないのーー!
       ほんと困るの! みんな可愛いし欲しくなっちゃうし!
       でも飾る場所とか仕舞っておくところもスペース限られてるし!!
       だから我慢なの……!!」

千恵里   「そっか、じゃあ雨シリーズも我慢なんですねー」

咲久良   「それは我慢しない!
       欲しいですー!!」

千恵里   「ふふ、嬉しいから、特別にすみれさんの分だけ作っておくね」

咲久良   「やったあ! お願いしまーす!!」

千恵里    それは、私が初めて参加したオフ会だった。
       ハンドメイドのサークルで、
       ネット通販や、委託販売、依頼なんかも受け付けるし、
       イベントにも積極的に参加している。
       私は今まで、ネットから外には出てこなかったんだけど。
       せっかくだから、今日参加してみた。
       でもそこで、こんな出会いが、あるなんて。

咲久良   「(周囲に)あ、みんな集まったね! 
       お茶するよりカラオケかーボーリングがいいかな!?
       どーする!? ……ボーリング?! オッケー、場所探すー!!
       チェリーさん、ボーリング平気?」

千恵里   「大丈夫。久しぶりだから鈍ってるだろうなあ」

咲久良   「あ、もしかして結構うまいの!?
       意外だなーっ楽しみ!」

千恵里    一回りも年下の彼女は、てきぱきと皆をまとめ、動いていた。
       そして周囲への気配りも忘れない。
       ……素敵なリーダーだな。
       それに比べて、私は。
       一回りも年上だというのに、一体何をしてるんだろう。

咲久良   「あっ忘れないうちに、と……」

千恵里   「あれ、ピアスはずすの?」

咲久良   「落としたらイヤだから。ボーリングする間だけははずしとこうと思って」

千恵里   「ほんとに大事にしてるんだね」

咲久良   「だってハンドメイドのピアスってオンリーワンでしょ?
       もちろんハンドメイドじゃなくても、
       思い出のあるものって、代わりがないし」

千恵里    嬉しかった。
       そのピアスは間違いなく、昔、私が作ったもの。
       でも、それを口には出せなかった。
       私なんかが作ったのかって、がっかりされるのが怖かった。

咲久良   「もちろん、チェリーさんに作ってもらえたら、
       それも大事にしますからね!」

千恵里   「うん、ありがとう」

咲久良   「……じゃ、ボーリング行きますかー!」


千恵里    あなたは眩しいくらい輝いていて。
       昔も、今も。
       きっとそれは、これからも。
       そんなあなたが、私なんかのそばにいていいのだろうか……?


(咲久良の自宅。リビング。)

咲久良   「今月は注文多いねー。
       うーー……この発送するまでの作業がなーー」

千恵里   「あと少し、頑張ろ。
       あ、珈琲いれよっか?」

咲久良   「飲みたーい!」

千恵里   「お湯沸かすねー」

咲久良   「なんかごめんなさい、いっぱい手伝ってもらっちゃって」

千恵里   「いいよー、好きでやってるんだし」

咲久良   「チェリーさんってすごいよね」

千恵里   「え?」

咲久良   「事務作業もできちゃうし、
       梱包作業だって丁寧だし。
       もうすっかり甘えてばっかりだけど、いいんですか?」

千恵里   「役に立てるの、私も嬉しいから」

咲久良   「チェリーさんのことだから、主婦業だっておろそかにしてないでしょー」

千恵里   「……ふふ」

咲久良   「あまり無理しないでくださいねー?」

千恵里   「大丈夫。
       お砂糖とミルク入れちゃっていい?」

咲久良   「お願いしまーっす」

千恵里    縮まる距離。
       歳の差はあっても、なぜか心地よかった。

咲久良    初めて会った時から、惹かれてた。
       たとえ、あのことがなくても、きっと私は、好きになってたと思う。



(咲久良の自宅。リビング。)

千恵里   「え、本名?」

咲久良   「そうそう。
       いい加減にサークル名義で通帳作ろうと思ってて。
       紅茶クッキー兄さんが色々調べてやってくれてるんだけど、
       メンバーの名簿提出しないといけないみたいでさー。
       よかったら、チェリーさん会計担当どうかな。
       ラフランスちゃんももういないし、今実際やってくれてるんだし」

千恵里   「……名前出すのは……ちょっと、ごめん」

咲久良   「そっかー。
       旦那さん、そういうの厳しいとか?」

千恵里   「あー……うん」

咲久良   「チェリーさんの本名を訊くのもNG?
       私の住所も名前もチェリーさんは知ってるのに、
       私はチェリーさんの携帯とLINEしか知らないじゃん」

千恵里   「そうだね……」

咲久良   「まぁ、本名言うの抵抗ある人結構いるけどね〜。
       別に呼ばれたくなかったらこれからもチェリーさんって呼ぶし」

千恵里   「なんか、うん、言いにくい、かな」

咲久良   「……あっ、もしかして私と同じ名前?
       サクラさんとかだったりする?
       それでチェリーってハンネ?」

千恵里   「それは違う」

咲久良   「じゃあ……そのままもじって、ちえりさん、とか?
       さすがに苦しいかなー?」

千恵里   「……」

咲久良   「あれっ」

千恵里   「……」

咲久良   「……もしかして、正解しちゃった?」

千恵里   「う、うん……」

咲久良   「あーハンネをディスったわけじゃないからね、ごめんね!」

千恵里   「ん、わかってるよ」

咲久良   「そっかーちえりさんなんだー!
       私超冴えてるよねーびっくり!
       ……これで苗字が長田だったりしたらもっとびっくりだけど!」

千恵里   「え、何で……」


咲久良    目を見開いて、少し怯えたような表情で。
       ……そうだよね、いきなり本名あてられればそうなるよね。
       でも、私にとって、その名前は特別なの、
       千恵里だって知ってたはずなのに。
       うっかりしてたの?
       肝心なところで、隙ができる。
       そういうところが、かわいいんだけど。


千恵里   「どうして、苗字まで……?」

咲久良   「……え。本当に、長田、千恵里さんなの……?」

千恵里   「そう、だけど」

咲久良   「じゃあ……
       あのピアス、作ったの、……チェリーさんなんですか?」

千恵里   「……ぁ!!」

咲久良   「(机の引き出しを開け、奥から小さい紙袋を取り出す)
       これ……」

千恵里   「あ、その袋……嘘……」

咲久良   「……あのピアスを郵送してもらった時のだよ。
       ちゃんと、とっておいてたし、送り状の名前も、覚えてた。
       ……そっかあ……チェリーさん、だったんだ……」(近づいて、おもむろに口付ける)

千恵里   「んぅ!? ……ん……ぁ……」(深く口付けられる)

咲久良   「ねえ……どうして言ってくれなかったの?」

千恵里   「っ……ごめんな、さい……」(泣き出す)

咲久良   「……ダメだよ、泣いたら……」(千恵里の頬につたう涙を、唇でぬぐう)

千恵里   「ぁ……っ」

咲久良   「訊きたいことはたくさんあるけど……」

千恵里   「えっ、……んぅ、……や、ちょっと待って、」(押し倒される)

咲久良   「ごめんね、泣き顔見ちゃったら、なんか……抑えられない……」

千恵里   「あっ……!」



(咲久良の自宅。寝室。)

咲久良   「……私が気付かなければ、こうなってなかったのかな」

千恵里   「え?」

咲久良   「チェリーさんが、あのピアスを作った、千恵里さんだって」

千恵里   「……どうかな」

咲久良   「だからずっと本名教えてくれなかったの?」

千恵里   「それも、あるけど、うん。
       ……あんなにピアス大事にしてくれてたから、
       名前覚えてるかもとは思ってたし。
       包装までまだ持ってるとは思わなかったけど」

咲久良   「ふふ。
       チェリーさんが、あのピアスの千恵里さんだって思ったら
       もう我慢できなくなっちゃって、いきなりキスしちゃったもんなー」

千恵里   「あれは吃驚した」

咲久良   「目、真ん丸にして、すーって綺麗に泣くから、
       なんか理性が飛んじゃって」

千恵里   「最初は嫌がらせかと思ったんだよ。
       怒ってるのかなとか色々考えてた」

咲久良   「えー、どうしてそこでネガティブに……」

千恵里   「ネガティブかなあ。
       だっていきなり女の子にキスされて押し倒されて、
       好かれてるって方に考えられる?」

咲久良   「怒ったからキスする?
       がっかりしたから押し倒す?
       普通絶対そうならないでしょ」

千恵里   「うん……それは、そう、だけど」

咲久良   「嬉しかったんだよ。
       昔も今も、私を助けてくれる人が千恵里だから(軽く口付ける)」

千恵里   「ん、そうなれてたら、嬉しい」

咲久良   「千恵里は?」

千恵里   「え?」

咲久良   「あの時、どうして、受け入れてくれたの?
       ……偏見とかなかったの?」

千恵里   「……怖く、なかったから、かな」

咲久良   「……こういうコト、怖いの?」

千恵里   「……うん、」

咲久良   「……私は、いいんだ?」

千恵里   「咲久良は、怖くないよ」

咲久良    キスをするたびに、身体を重ねるたびに、
       訊きたい、でも、訊けない。
       旦那さんがいるんでしょう?
       怖くなければ隣にいられる?
       ……旦那さんも、そうなの?

千恵里    確かに最初は流されただけかもしれない。
       でも、あの時、我慢していればいい、なんて思わなかったよ。
       流されたい、って、思ったんだ。
       ……おんなじかな。
       私はまだ、私の意思を、忘れてるんだろうか。

咲久良   「お風呂一緒に入る?」

千恵里   「あ、……」

咲久良   「……今日、乗り気じゃない?」

千恵里   「あ、ごめん。そんなことないよ」

咲久良   「それとも体調悪い?」

千恵里   「大丈夫。何でもないから」

咲久良   「嘘。
       千恵里がそう言う時は絶対そうじゃない。
       何かあるなら言ってよ」

千恵里   「ほんとに何でもないって。
       ただ、出会ったばかりのころを思い出してただけ」

咲久良   「ああ……、まだチェリーさんがすっとぼけてた頃、ね〜」

千恵里   「もうっすぐそういう言い方するんだから」

咲久良   「ふふ、ごめん。ボーリング楽しかったよね」

千恵里   「うん。すごく楽しかった。
       また行きたいな」

咲久良   「行こうよ」

千恵里   「みんなで?」

咲久良   「デートでもいいよ、“チェリーさん”」

千恵里   「みんなででもいいよ、“すみれさん”」

咲久良   「意地悪」

千恵里   「ゴメン」

咲久良   「今度二人で行こうね(ちゅっと軽いキスをする)」

千恵里   「……うん」

咲久良   「ふふ。……あっちの名前で呼ぶのも、たまにはいいね」

千恵里   「すみれさんって?」

咲久良   「チェリーさんって呼ぶのも、ね。
       あ、私に、すみれ、なんて似合わないのわかってるよ。
       でも、咲久良よりはマシかなって」

千恵里   「自分の名前、キライ?」

咲久良   「だって音だけでいったら一番に思い浮かぶのって、花の桜じゃない。
       でも字は違うし、4月生まれでもないし。
       もう訂正するのうんざりだったんだもん」

千恵里   「そっか」

咲久良   「……千恵里」

千恵里   「ん?」

咲久良   「千恵里と付き合うようになって、自分の名前好きになったよ」

千恵里   「どうして?」

咲久良   「チェリーは桜だから」

千恵里   「単純……」

咲久良   「こういう偶然の繋がりって、何かイイじゃん」

千恵里   「……そうだね」

咲久良   「名前以上の繋がりだってあったのに、
       千恵里がずっと隠してるんだもんなー」

千恵里   「……ごめん。
       だって、幻滅されると思ったんだもん」

咲久良   「なんでー? するわけないじゃん」

千恵里   「実は今でも少し怖かったりするんだ」

咲久良   「バカだなー。
       千恵里が作ったピアスのおかげで、私の人生超変わったんだよ?
       私が幸せなのは全部千恵里のおかげなのに!」

千恵里   「それは何度も聞いたよ。
       でも、……私だし。……ほんとにがっかりしなかった?」

咲久良   「してないしてない、するわけない」

千恵里   「うーん」

咲久良   「私のこと、信じられない?」

千恵里   「そういうわけじゃないの……」

咲久良    千恵里は、いつもそうだ。
       何か抱えている心を、私には見せてくれない。
       ……割り切った「恋人ごっこ」の関係じゃ、これが限界なのかな。

千恵里    自分のことを話すのは、元から苦手。
       咲久良に嫌われるのが怖くて、顔色ばかり伺ってしまう。
       そんな自分が、きらい。

咲久良    千恵里はノンケじゃないの?
       それともバイセクシャル? まさかのトランスジェンダー?
       肝心なことは、何一つ、はっきりしてない。

千恵里    ……女同士。
       だから、よかったんだよ。本当に。
       助けられたのは、私の方だ。

咲久良   「あ、そういえばさ。
       間男(まおとこ)とはいうけど、間女(まおんな)っていわないよねぇ」

千恵里   「え?」

咲久良   「だって、千恵里は結婚してるんだし。
       私って一応そういう位置じゃん?」

千恵里   「……ごめんね」

咲久良   「あ、違う、気にしてるわけじゃないよ。
       遊ぼうって言ったのは私なんだから」

千恵里   「でも……」

咲久良   「付き合うとか、そういうの苦手だし。
       気の合う子とたまに抱き合えたらそれでいいもん」

千恵里   「その気の合う相手が10以上年上のオバサンでもいいの?」

咲久良   「千恵里はオバサンなんかじゃないじゃん」

千恵里   「そうでもないと思うけど……」

咲久良   「大体、そう思ってたらこういう仲になってないって」

千恵里   「うん」

咲久良   「泣き顔すっごく可愛かったしなあ」

千恵里   「それはもう忘れて」

咲久良   「一生忘れない〜」

千恵里   「もう」

咲久良    このままじゃよくないってわかってる。
       女同士を後ろめたいとは思わないけど、
       私達の関係は……堂々とできるものじゃないから。

千恵里    このままじゃよくないってわかってる。
       でも、もう主婦じゃない、って言ったらどうなるかな。
       この関係、は、壊れちゃう?
       だったらはっきりさせないままがいい。
       ……あたたかかったの。安心したの。
       優しいこの手を、失いたくないの。
       ……私は、ずるい。

咲久良   「まじょ」

千恵里   「え?」

咲久良   「まおんな、じゃ、語呂が悪いでしょ。
       まじょ、だったらよくない?」

千恵里   「ソーサラー? あ、ウィッチかな?」

咲久良   「ふふん。
       我は偉大なる魔女様なり!
       ってことで、私が、魔法をかけてあげる」

千恵里   「ノリすぎー」

咲久良   「アクシオ千恵里!」(千恵里の腕を引っ張って抱きしめる)

千恵里   「きゃっ」

咲久良   「ほらー、私の召喚呪文すごいでしょ」

千恵里   「ハリポタじゃないの、それ」

咲久良   「ノリ悪ーーーい。
       リクタスセンプラ唱えちゃうよ?」

千恵里   「ん? それ攻撃じゃなかったっけ?」

咲久良   「映画版はね。でも原作は違うの。
       リクタスセンプラは……こういう、こ、と!」(くすぐる)

千恵里   「きゃああああははははははは!
       くすぐったいーーーーー!!」

咲久良   「ほらほらここ弱いでしょーーー?」

千恵里   「やーだーあははははははは」

咲久良   「ほら、降参か! 降参しろぉ!
       降参しないと許されざる呪文を使っちゃうぞーーーー!!」

千恵里   「えーーー」

咲久良   「あっ、逆に使ってほしい!?
       使ってあげてもいいよ、【服従の呪文】」

千恵里   「……確かあれって、使ったら終身刑じゃなかった?」

咲久良   「ハリポタの中ではそーだけど
       千恵里が望むなら、終身刑も怖くないよ」(囁いて耳を舐める)

千恵里   「あ……ん……」

咲久良   「最高にイイ気分にしてあげる」

千恵里   「っ……!!」



咲久良    私だけのものにならないのはわかってる。

千恵里    ただ好きなだけでは一緒にいられないって、
       いやってほど、身に染みてる。

咲久良    ただ好きなだけなのに。
       この気持ちを隠さなきゃいけない。
       ……私は、間女(まじょ)だから。

千恵里    私が突然姿を消しても、割り切った関係だもん、
       咲久良はわかってくれるよね。
       ……危険な目には、遭わせないよ、絶対に。

咲久良    もし、千恵里が、私を好きだと言ってくれたら……。
       本当に付き合うことができたら……。

千恵里    もし、咲久良が本当に魔女なら。
       守ってくれるかな、なんて、身勝手だよね。

咲久良    攫ってあげるよ。
       何もかも捨てて、外国に行って、二人きりで結婚式を挙げよう。
       ドレスを着て、写真を撮って。
       そんな日が来たら、……来たら、いいな。

千恵里    せめて最後の時には、忘却呪文を唱えてくれる?
       でも、……このピアスのことだけは、忘れないで。
       私も、忘れたくないよ。



咲久良   「アイシテル」

千恵里   「私も、アイシテルよ」










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