待ち合わせ 〜聖夜の東京タワー〜

作:早川ふう / 所要時間 15分 / 比率 1:1

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2014.12.23.


【このお話について】

待ち合わせの数ヶ月後の話。
東京タワーから見える景色や、季節限定イベントのことなど、
ご存知ない方のために、一応こっそりイメージ画像を貼っておきます。
ちなみに画像は2014年の情報ですので注意。
イベントもイルミネーションも毎年違いますので、機会があればぜひ遊びに行ってみてください。
↓クリックすると拡大しますよ!



ちなみに155mのメインデッキ(大展望台)に昇った二人ですが、
更に上にある250mのトップデッキ(特別展望台)へはまた別のエレベーターで行くことになります。
少し階段をあがるのと、特別展望台へのエレベーターはかなり狭く、少し揺れるので、
心配性の彼は昇らせなかったという裏設定があります。


【配役表】

男(隆弘-たかひろ)・・・
女(明海-あけみ) ・・・




(雑踏。駅前でサラリーマンが周囲と時計を交互に見ている)
(小走りに駆け寄る女性)


女  「ごめん! 待ったよね!」

男  「大丈夫だよ。……タクシー使ったか?」

女  「え? 最寄駅まではタクシー使ったよ。そこから普通に電車で」

男  「ダメじゃないか。
    タクシー使えって言ったのに」

女  「これくらい平気だって。
    そんなに混んでなかったもん」

男  「あのなぁ、何かあってからじゃ遅いんだぞ?」

女  「タクシー代だってばかにならないじゃない」

男  「そんなんどうにだってなる!
    危ないヤツだっているんだから!」

女  「もう、うるさいー。
    うちのお母さんよりうるさいよー!」

男  「うるさくて結構。
    お前はのんびりしてるからこれくらいで丁度いいんだ」

女  「せっかくのデートなのに、どうして怒られなきゃいけないのよー」

男  「拗ねるなって!」

女  「ふんっ」

男  「……ごめん。でも心配なんだよ。そこはわかってほしいな」

女  「それは……わかるけど」

男  「ちゃんとあったかくしてきたか?」

女  「あのねぇ。私子供じゃないんですけど?」

男  「だから、」

女  「はいはい、心配だって言うんでしょ?
    聞き飽きた」

男  「ったく……」

女  「今日はどこ行くー? とりあえずゴハン?」

男  「そうだなぁ」

女  「どこで食べるのカナ〜?」

男  「……そんな目で見るなよ」

女  「だって、今日の、この夜に呼び出すってことは、
    ちゃんとプランがあるんでしょう?」

男  「そりゃあ、ね」

女  「楽しみ」

男  「あまりハードル上げるなよ」

女  「自信ないの?」

男  「俺にスマートなエスコートを求めるなよ、
    そんなに器用じゃないの知ってるだろ?」

女  「情けないなあ」

男  「うるさい」

女  「逆ギレ?」

男  「いいから、行くぞ」

女  「はーい。
    で、どこ行くの?」

男  「メシ行く前に、行きたいところあるんだけど、いい?」

女  「お? どこどこ?」

男  「内緒」


---

(東京タワー 正面入り口前)

女  「わぁ……」

男  「あえて、こっちに来てみました」

女  「懐かしいけど、なんか変な感じ」

男  「久しぶりだもんな」

女  「そうだね。来る機会ないし。
    昔はここの大きなツリーだけだったのに、今こんなに綺麗になってるんだね。
    ……うん……ほんと、綺麗……」

男  「今更かよって言われたらそれまでだけど、
    あっちは遠いしなあ」

女  「……それだけじゃないんでしょ?」

男  「覚えてるだろ?」

女  「そりゃあね」

男  「……今はあの頃とだいぶ変わったみたいだからさ。
    まぁネット情報だけど。
    久しぶりにここに来るのもいいんじゃないかって思って」

女  「そっか……」

男  「混むのはわかってたんだけどさ」

女  「あんだけ体気をつけろって言っておいてー、勝手なんだから」

男  「ゴメン」

女  「でも、嬉しい」

男  「ほんと? よかった」

女  「展望台は?」

男  「体調が大丈夫なら昇るか?」

女  「全然だいじょーぶっ」

男  「じゃ、行こう」


---

(東京タワー 大展望台)

女  「……展望台も綺麗になったんだね。
    なんか幻想的で……知らない場所みたい」

男  「前来た時はちょこちょこ改装し始めてたもんな」

女  「……前来た時も、楽しかったよ?」

男  「今日は?」

女  「もっと楽しいです」

男  「そっか」

女  「……なんか、嬉しいな」

男  「え?」

女  「こんな風になれるって思ってもみなかったから」

男  「こんな風に?」

女  「……10年前はともかく、結婚してからはなかなか、ね。
    あまり、会話もなかったじゃない」

男  「それは反省してるよ」

女  「子供できなかったことだって、色々言われたし」

男  「それもごめん。……もっとお前のこと守ってやんなきゃいけなかったのに」

女  「でも、言ってくれたじゃない。
    お義母さん達にもそうだし、私にだって」

男  「……何年も、しんどい思いさせたんだし、
    三行半(みくだりはん)つきつけられてもしょうがなかったのに。
    お前は今も、俺と一緒にいてくれてる。……感謝してるよ」

女  「貴方だって。
    こんな私と一緒にいてくれて、ありがとう」

男  「馬鹿だよな、お前も」

女  「馬鹿でいいもん。幸せだから」

男  「幸せか?」

女  「うん……幸せ」

男  「……俺もだよ」

女  「神様にも感謝かな」

男  「……そうだな」

女  「あ、南側行こう?」

男  「え?」

女  「覚えてない? ほら、下に見えるじゃない!」

男  「ああ、アレか!」

女  「……あ、ほら、あれあれ! この景色はやっぱり変わらないね」

男  「大規模な工事でもない限り変わらないだろ」

女  「雰囲気考えてよ!
    つまんないこと言うんだからもうー」

男  「ご、ごめん」

女  「これさ、夜の、しかもここからしか見えないし、素敵な偶然っていうか。
    ……いいよね、こういうの」

男  「そうだな。普通下運転してると気付かないし」

女  「そっちはそうよね。
    でも、これ教えてくれたの、貴方だったじゃない」

男  「あれっ、そうだっけ?」

女  「えーっ、覚えてないの!?」

男  「……多分、友達に必死にリサーチかけたとか、
    そういうにわか知識だったはず……」

女  「えっ」

男  「……だから言ったろ?
    スマートなエスコートができるほど、俺は器用じゃないの!」

女  「覚えてないってのは、スマートとかそういう次元じゃないよね」

男  「うっ……」

女  「もう、相変わらずね、貴方は」

男  「うるせー」

女  「……展望台や、イルミネーションの雰囲気がいくら変わっても、
    この景色が変わらないと、ちょっと安心するな」

男  「そっか。
    ……変わらないものも、大事だよな」

女  「うん。
    あ、でも。変わるものも勿論大事よ」

男  「……これからの生活?」

女  「うん。……楽しみだね」

男  「そうだな」

女  「どっちがいい?」

男  「どっちでもいいよ。まだわからないんだろ?」

女  「先生わかったかも、とは言ってたんだよ」

男  「えっそうなのか!?」

女  「でもまだ聞かないでおきますって言ったからさ」

男  「あっ、そう……」

女  「残念がってるんじゃんー」

男  「そりゃあ……知りたい気持ちはあるからな」

女  「今度、一緒に病院行く?」

男  「次いつだよ」

女  「明日」

男  「明日?!」

女  「……仕事デショ」

男  「……そうだな」

女  「じゃ、聞いてきてあげる」

男  「頼む」

女  「可愛い服とかも欲しいなあ」

男  「それは一緒に買いに行くからな」

女  「はいはい。一緒に行こうね」

男  「(うなずく)」

女  「そういえば、ゴハンってどこで食べるの?
    下のお店?」

男  「普段ならそれでもいいけど、せっかくなんだからどこか食べに行こう。
    なるべく移動は短めにするから」

女  「うん、わかった」

男  「もう腹へったのか?」

女  「ちょっとだけね」

男  「……あのさ、普通、食べられなくなるもんじゃないのか?」

女  「ああ、そういう人の方が多いみたいよね。
    私のは食べづわりってやつだったの」

男  「た、食べ……?」

女  「は〜い、パパはもう少〜し勉強しましょうね〜」

男  「……子供扱いかよ」

女  「貴方が私にするほどじゃないでしょ?」

男  「ったく……」

女  「ふふん。勝った!」

男  「……そろそろ行くか」

女  「ハーイ」


---

(東京タワー 正面入り口前)

女  「……外出るとちょっと寒いね」

男  「大丈夫か?」

女  「へーき」

男  「……無理させちゃうかなって思ったけど、どうしてもここに来たかったんだ」

女  「……うん」

男  「アレは、ちゃんと覚えてるから」

女  「それ威張るとこじゃない。
    むしろ忘れてたらひっぱたくー」

男  「あっそう……」

女  「ふふっ。
    その気持ちは、私にもちゃんと伝わってるから。
    だから、嬉しいよ」

男  「よかった」

女  「それで? わざわざそういう話題にするってことは、言ってくれるのかな?」

男  「……やっぱスマートにはできねぇなあ」

女  「スマートじゃなくてもいいの。気持ちが伝われば、それでいいんだから」

男  「そ、そうは言ってもな…」

女  「……あれ!? ライトアップが消えた……!」

男  「あ、時間か。ほら……見てろよ」

女  「……あ! ……ハートマーク!?」

男  「うん」

女  「わぁ……」

男  「……まぁ……うん……これを二人で観るっつーのが、
    一応、その、なんだ、永遠の愛の証だーとかいうイベント、らしいんだ、うん」

女  「……もしかして調べた?」

男  「まぁね」

女  「ふふっ……。変なところでロマンチストなんだから」

男  「ダ、ダメだった?」

女  「嬉しい。……嬉しいよ」

男  「世界で一番、幸せにする」

女  「……、……そう、言ってくれたよね、あの日」

男  「色々、至らないところあったけどさ、でもずっと、そう思ってるよ」

女  「ありがとう。……でもこれからは、二番目でいいんだよ?」

男  「え?」

女  「世界で二番目に幸せにしてね。
    私も貴方を、世界で二番目に幸せにしてあげるから」

男  「あ、そういうことか……」

女  「肝心なところ鈍いんだから」

男  「でも気付いたんだから進歩だろ!」

女  「来年は……さすがに来れないだろうけど。
    でもいつかまた連れてきてね」

男  「勿論。……今度は三人で来よう」

女  「うん、約束ね」

男  「約束」

女  「……あ、蹴った」

男  「……この子も約束って言ってるんだろうな、きっと」

女  「ちゃんと守ってよ?」

男  「勿論」

女  「ふふ。楽しみ。大きくなったら三人で来ようね〜」

男  「……明海」

女  「えっ!?」

男  「……メリークリスマス」

女  「……っ、……メリークリスマス、隆弘」





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