間接キスの音色 -とある吹部の百合模様1-

作:早川ふう / 所要時間 5分 / 比率 0:2

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2013.03.13.


【登場人物紹介】

伊藤陽菜子(いとう ひなこ)
  高校一年生 吹奏楽は初心者

倉沢沙耶香(くらさわ さやか)
  高校三年生 フルートパート


【配役表】

陽菜子・・・
沙耶香・・・



陽菜子   「あの……」

沙耶香   「あら、見学?」

陽菜子   「はい、えっと……」

沙耶香   「新入生ね? 仮入部希望?」

陽菜子   「あ、はい。でも、あの……」

沙耶香   「なぁに?」

陽菜子   「わたし、吹奏楽やったこと、ないんですけど……」

沙耶香   「そんな神妙な顔して言うことじゃないわ。
       誰でも最初は初心者なんだから、気にしなくていいのよ」

陽菜子   「経験者じゃないとだめなんじゃないかと思って……」

沙耶香   「心配しないでいいのよ。
       時間が大丈夫なら中へどうぞ、ゆっくりしていって」

陽菜子   「はいっ、失礼します!」

沙耶香   「ねぇ。どの楽器をやりたい、とか希望はあるの?」

陽菜子   「あの、……今先輩が吹いてた……」

沙耶香   「フルート? ……フルートを気に入ってくれたの?」

陽菜子   「はい。……すごくやわらかくて綺麗な音だったから……」

沙耶香   「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

陽菜子   「わたしでも、先輩みたいに吹けるようになれますか?」

沙耶香   「ふふ、どうかなぁ。
       練習すれば演奏の技術は身につくけど、
       音、っていうのは、皆違うから」

陽菜子   「皆違う?」

沙耶香   「わたしにはわたしの、あなたにはあなたの音がある。
       それは、わたしだけの、そしてあなただけの特別な音なの。
       わたしにしか、あなたにしか出せない音なのよ」

陽菜子   「特別な音……」

沙耶香   「あなたのフルートはどんな音かしら。
       少し吹いてみる?」

陽菜子   「えっ、いいんですか?」

沙耶香   「他に見学者もいないし、少しだけ、今、教えてあげる」

陽菜子   「ありがとうございます!」

沙耶香   「最初は呼吸が大事なの。腹式呼吸じゃないと、ダメ」

陽菜子   「腹式呼吸?」

沙耶香   「よく見て、普通の呼吸は、こう。……すーーはーー。
       腹式呼吸だと、こう。……すーーーーはーーーー」

陽菜子   「……えっと……???」

沙耶香   「わからないかな?
       うーん……ちょっとごめんね、手、いいかしら?」

陽菜子   「せ、先輩!? え?! む、胸に……!」

沙耶香   「ちゃんと胸のとこ、触っていてね。
       呼吸の違いを見せてあげるから」

陽菜子   「は、はい……」

沙耶香   「すーーはーー。
       普通の呼吸だと、胸が膨らむし、肩もあがるでしょう」

陽菜子   「あ、ほんとだ」

沙耶香   「すーーーーはーーーー。
       今度はどう?
       胸も膨らまなかったし、肩もあがってないでしょう?
       胸じゃなくてお腹で呼吸するの、だから腹式呼吸」

陽菜子   「……すーー はーーー …………こ、こんな感じですか?」

沙耶香   「そうね、そんな感じよ。
       最初は慣れないだろうけど、毎日積み重ねていけば自然とできるようになるわ」

陽菜子   「はい……」

沙耶香   「あなた、綺麗な唇をしてるのね」

陽菜子   「えっ!!??!」

沙耶香   「ふふ、真っ赤になっちゃってホント可愛い。
       フルートに向いてる唇の形だと思うわ」

陽菜子   「えっ? む、向いてる唇とか、そういうのがあるんですか?」

沙耶香   「ええ、まぁね。
       ……下唇だけを少し引っ込めるようにして、
       あとは口笛を吹くときみたいに、細く息を出してみて?
       もちろん、腹式呼吸で」

陽菜子   「はいっ……(少しふーっと息を吹いて)
       ……えっと……?? こ、これでできてるのかな……?」

沙耶香   「これがフルートのマウスピースなの。
       下唇に、こうあてて、この穴に息を入れるのよ。
       やってみて」

陽菜子   「え、ええっと……(ふーーーーーーーーーー)……できない……」

沙耶香   「ちょっと貸してね。
       よくみて、こういうふうに」

陽菜子   「あ……間接き……」

沙耶香   「え?」

陽菜子   「あああっ、な、なんでもないですっ」

沙耶香   「そう? ……じゃあ、はい、もう一度やってみて」

陽菜子   「はいっ! …………あ! 音……でた!!」

沙耶香   「素直な音ね、それがあなたの音。あなただけの音」

陽菜子   「わたしだけの……音……」

沙耶香   「ぜひ本入部して、その音をもっと聞かせてくれると嬉しいんだけど」

陽菜子   「しますします! 絶対入部します!」

沙耶香   「ほんと? じゃあ入部届を出してもらわないとね」

陽菜子   「はい!」

沙耶香   「あなた、名前は?」

陽菜子   「わたし、1年3組の伊藤陽菜子です!」

沙耶香   「陽菜子……ひなちゃんね?
       わたしは3年の倉沢沙耶香」

陽菜子   「倉沢先輩……」

沙耶香   「沙耶香、でいいわよ?」

陽菜子   「さ、沙耶香先輩……」

沙耶香   「じゃあ早速、入部届をもらいに一緒に職員室にいきましょうか」

陽菜子   「はい!」       

沙耶香   「あ、……今日のコトは内緒ね?」

陽菜子   「え?フルート吹かせてくれたことですか?」

沙耶香   「それもだけど…… さっきの」

陽菜子   「さっきの?」

沙耶香   「間接キス」

陽菜子   「ふぇっ!?」

沙耶香   「ふふっ……二人だけの、秘密、ね?」

陽菜子   「…………は、はいっ…………」









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