事故った母娘(おやこ)はギフトで異世界生活を満喫するかもしれない ~ 女神様は仕事してくださいマジで ~

作:早川ふう / 所要時間30分 / 0:3

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少しでも楽しんでいただければ幸いです。2023.05.09(2020.05.17)


【登場人物紹介】

アンジェラ/貴子
 39歳で事故死した主婦、佐々木貴子が異世界の貴族の娘アンジェラに転生、優雅に暮らしている。
 図星をつかれたときの口癖「ジャストミート図星」のおかげで、娘と感動の再会を果たす。
 現在年齢は15歳。

シンディー/美樹
 16歳で事故死した高校生、佐々木美樹が異世界の貴族の屋敷に勤めるメイドのシンディーに転生。
 お嬢様が転生した母親だと知っても変わらずしっかり仕事をしている。
 現在年齢21歳。

クラリッサ
 甘いものに目がない異世界の女神。
 超マイペース。年齢非公表(笑)、容姿は20代くらい。



【配役表】

アンジェラ/貴子・・・
シンディー/美樹・・・
クラリッサ・・・



シンディー 「おはようございます、お嬢様」

アンジェラ 「おはよう、シンディー。今日は冷えるわね」

シンディー 「そうですね。庭の植木にうっすら雪が積もっていましたよ。
       朝方まで降っていたようですね」

アンジェラ 「もうすっかり冬ね。お湯は用意してくれた?」

シンディー 「はい勿論でございますとも。
       お顔をお拭きになりましたら、お支度をいたしましょう」

アンジェラ 「ええ。今日の朝食は何かしら」

シンディー 「コックが申しますには、肉料理が二品に、魚料理が三品、
       寒くなりましたので、温かいスープもお作りしたとのことですよ」

アンジェラ 「……へえ……」

シンディー 「お気に召しませんか?」

アンジェラ 「そりゃあね」

(途端に砕けた口調で話し始めるシンディーとアンジェラ)

シンディー 「……だよね。わかる」

アンジェラ 「なんでなんだろうなー、
       ちゃんとこう作ってってお願いしてんのにさー、
       言うこと聞いてくれないんだもんねえ」

シンディー 「料理人のプライドがーとか言ってんじゃないのあのハゲブタ親父」

アンジェラ 「こっちが子供だからって馬鹿にしてんでしょ、きっと。
       でもお言いつけ通り、魚料理を増やしましたから、ってどや顔してさ」

シンディー 「あーそれ目に浮かぶわー!
       この世界に健康的な献立っていう概念がないのはわかるけど、
       曲がりなりにも雇い主が要望出してるんだから、従えってんだよなー」

アンジェラ 「ほんとよ。あー腹立つわー。
       見てなさいよ、私がもう少し大きくなってこの家の実権を握ったら、
       あんなヤツは即クビよ!」

シンディー 「ははは! でもそれがいいよ。
       料理だけできても仕事ができてないってことだと思うもん」

アンジェラ 「さすが仕事のできるメイド長シンディーね、わかってんじゃん!」

シンディー 「ふふん、まぁね。だてにこの世界で21年生きていないわよ」

アンジェラ 「でも、雇い主のお嬢様である私とこうやって喋ってんのは、
       本来アウトよ、シンディー?」

シンディー 「それはだって……お嬢様がお母さんだってわかってるからしょうがないじゃん」

アンジェラ 「え~ワタクシ何のことだかわかりませんわっ。
       大体ワタクシ15歳で、まだ結婚だってしてませんのに、
       こんな大きな娘がいるはずないじゃありませんか~っ」

シンディー 「うわ、出たそのぶりっ子。マジ寒気すんだけど!!
       自分の母親がやってると思うとほんと死にたくなる!!」

アンジェラ 「今の世界では産んでないもの、ノーカンよ、ノーカン!!」

クラリッサ 「相変わらずここは楽しそうね」

シンディー 「女神様!」

アンジェラ 「クラリッサ様!」

クラリッサ 「先月ぶりね、シンディー、そしてアンジェラ」

シンディー 「こんな朝早くから転生者のところを見回ってるなんて、
       女神様というのもご苦労様ですね」

クラリッサ 「そんなことはないわ。
       私達の世界の事情で、地球からあなた達を転生させたんですもの。
       アフターケアは女神の仕事のひとつよ。
       二人とも、何か不便はないかしら?」

アンジェラ 「アフターケア、ねぇ……」

シンディー 「そのアフターケアをやり始めたのがつい最近じゃなければ、
       その言葉も本当に嬉しかったんだけど」

クラリッサ 「あーん、そんなこと言わないでっ。
       私達神の身の上にも、色々と事情があるのよ」

アンジェラ 「事情? 事情ねえ、事情かぁ~(睨む)」

クラリッサ 「怖い怖い怖い! やだやだアンジェラ笑ってー?」

アンジェラ 「こっちは本気で怒ってもいいと思うのよ、ねえシンディー?」

シンディー 「ええほんと、その通り」

クラリッサ 「そんな怒らないでよおお~~っ」

アンジェラ 「転生して、意識がはっきりしたら、すぐにこう、
       ちゃんと色々この世界のことを説明するとかさ、
       そういうのがあってもよかったよね?」

クラリッサ 「えええ……でもそれは、ちゃんと転生する前に説明したしぃ」

シンディー 「……お母さん、そんな説明された?」

アンジェラ 「いいえ、全く」

クラリッサ 「嘘よぅ! ちゃんとしたもーん!!」

アンジェラ 「私の時は確か……」



(間)



クラリッサ 「こんにちは~、お名前伺ってもいい~?」

貴子    「は!? あなたどなたですか?!」

クラリッサ 「あ~警戒しなくても大丈夫よ~、私ただの女神だから」

貴子    「ただの女神って何なの、怪しすぎるじゃない!!」

クラリッサ 「怪しくないわよぅ、迷える魂ちゃんを導くだけなの~」

貴子    「迷える魂!? 宗教は間に合ってます」

クラリッサ 「まぁそう言わないで。お茶でも飲む?」

貴子    「いらないわよ!
       ていうか、ここはどこ!?
       私どうしてこんなところに!?」

クラリッサ 「ここはあなた達の住んでいた地球とは異なる世界。
       あー、異世界とかファンタジーとか、子供の頃に興味なかった?」

貴子    「全然」

クラリッサ 「そっかあ。残念。予備知識があれば説明早かったんだけどなー。
       しょうがない、じゃあちょっと女神権限でステータス見ちゃいまーす。
       ステータスオープン!」

貴子    「わあ!? なんか目の前に現れたんだけど!?」

クラリッサ 「名前とか間違いないか確認してもらえるー?」

貴子    「……タカコ・ササキ、享年45……え、私39なんだけど。
       っていうかその前に享年ってどういうこと!?」

クラリッサ 「備考欄に書いてあるから読んでみて」

貴子    「仕事から帰宅途中、居眠り運転のトラックが突っ込んできた事故により
       6年間植物状態になり死亡……。
       嘘……私、死んだの!?」

クラリッサ 「そういうことで~す。
       本当ならタカコの魂は、地球で生まれ変わる為の準備に入るんだけど、
       ちょっと事情があって、こっちの世界に来てもらったのー」

貴子    「待って、娘は!?」

クラリッサ 「娘さん?」

貴子    「娘と一緒にいたはずなの!!
       美樹はどうなったの!? 美樹は無事なの!?」

クラリッサ 「あー……確か娘さんは即死されたかと思います」

貴子    「そんな……美樹……」

クラリッサ 「本当にご愁傷様なんだけど、気持ちを切り替えて、
       こっちの世界に転生してくれないかしら。ふふふー」

貴子    「ふふふーじゃないわよっ!
       自分が死んだってだけでもショックなのに、
       何そんなこと簡単に言ってくれてるのお!?」

クラリッサ 「考えたって仕方ないじゃない、あなたはもう死んじゃってるんだから」

貴子    「そりゃそうだけど、今! 今私は知ったのよ!!」

クラリッサ 「これから先、新しい人生が始まるのよ。
       死んだなんて些細なことだわ!
       転生者は前の記憶も引き継げるし、
       それなりにギフトもあげられるから、
       きっと次の人生は楽勝間違いなし!」

貴子    「いやいやだからそういうことじゃなくて、
       その次の人生ってのがまず受け入れられないっていうかなんていうか……」

クラリッサ 「じゃ、そういうことで、いってらっしゃーーーい!」

貴子    「えっ!? ちょっと、待ってよっ、いやああああああ!!!」



(間)



アンジェラ 「って感じ」

シンディー 「この世界についての説明も、ギフトについての説明もしてないじゃん」

クラリッサ 「あ、あれえ~~おかしいなあ~~」

アンジェラ 「まぁ、貴族の娘に生まれたおかげで、
       一応人生楽勝コースではあると思うし、
       あまり気にしてなかったけどね」

クラリッサ 「ほらぁ~気にしてないならいいじゃな~~い?」

シンディー 「今もそうとは限らないのよ?」

アンジェラ 「ほんとそれ」

クラリッサ 「えええ……」

シンディー 「それに、迷える魂ちゃんって言っておきながら、
       事情でこっちに来てもらったって言ってたわよね。
       つまりこれって、手前勝手な都合でわざと魂迷わせて
       そのくせ恩着せがましく言うって、詐欺師の常套手段じゃない!」

クラリッサ 「やだやだひどーい!」

アンジェラ 「どっちがひどいのよどっちが!!」

シンディー 「でも。ぶっちゃけ、これでもちゃんと説明してる方だとは思ったわ」

アンジェラ 「え。そうなの?」

シンディー 「私の時はさあ……」



(間)



クラリッサ 「ぱんぱかぱーんっ! 異世界へようこそ!!」

美樹    「え……異世界?」

クラリッサ 「そう。ここは地球ではありません、異世界でーすっ!
       私は女神のクラリッサ、よろしく~」

美樹    「……寝ぼけてんのかな私?」

クラリッサ 「ノンノン、これは現実。では早速いきましょう、ステータスオープン!」

美樹    「わっ、何これ!」

クラリッサ 「あら、あなた、ミキちゃん? かわいそうね。16歳で亡くなったんだ」

美樹    「え、私死んだの?」

クラリッサ 「ええ。事故であっけなく。ここ読んでみて」

美樹    「……ほんとだ享年16って書いてある。
       ゲームのステータス画面みたいね、これ」

クラリッサ 「そうよ。ステータスオープンって唱えると、
       自分のスキルとか色々確認できちゃうんです」

美樹    「なんか、それ知ってる。超知ってる。
       もしかして、剣と魔法のファンタジー世界に転生するってオチ?」

クラリッサ 「わーー大正解!! その通りよ! すごーい!」

美樹    「ヤバ!! それ系の漫画とかウェブ小説結構読んでたけど、
       そういうこと本当に起きるんだ!?」

クラリッサ 「ええ。地球で過ごした記憶や身に着けたスキルはそのまま、
       この世界に転生してほしいの。
       世界のバランスを整える為なのよ、お願い協力して?」

美樹    「一応訊くけど、嫌って言ったら?」

クラリッサ 「まぁ、困っちゃうわね」

美樹    「あー……拒否権なさそうだなこれ」

クラリッサ 「うふふ。転生してくれる人にはギフトをあげてるの。
       だから、楽しみにしていてね」

美樹    「ギフト? ああ……覚えられるスキルとは違って、
       その人が生まれた時から持っている固有能力のことだっけ?」

クラリッサ 「そうそう。よく知ってるわね~、説明早くて助かるわ~。
       じゃあそういうことで、よろしく!!」

美樹    「え、よろしくって何? 何かしなきゃいけないことがあるの?
       世界樹を蘇らせるとかそういう?」

クラリッサ 「ああ大丈夫、特別にやってもらうことは何もないわよ、
       ただ、生きてくれればいいの!」

美樹    「ただ生きてくれれば……? へー……わかった……」

クラリッサ 「はーい、じゃあ、いってらっしゃーーーい」



(間)



アンジェラ 「ちょっと美樹。ずいぶん薄情じゃないの?
       一言もママの心配がなかったんだけど。どういうことよ?」

シンディー 「ごめん。いや、ほんとその時は忘れてただけで。
       あっ昔の名前呼んだ!」

アンジェラ 「だって昔の話をしてるからつい、ね!
       ……ふふ、シンディーが美樹だってわかった時は、ほんとびっくりしたわよ」

シンディー 「あー……あれは私もびっくりした……」

クラリッサ 「うんうん、我ながらいい采配をしたと思うわ~」

アンジェラ 「いやいや、そこは女神様が先に知らせておいてくれてもよかったところだと思うのよね。
       私が娘の奉公先である貴族の家に生まれ変わるって
       わかってるなら転生前に言えたでしょう!?
       娘の心配してたんだから私!!」

クラリッサ 「それはそのー……サプラーイズ……みたいな?」

シンディー 「だったら私達がそれを自覚した時点で現れて、
       説明とかしてくれてもよかったんじゃない?」

クラリッサ 「その時期は色々と忙しかったのよねー……」

アンジェラ 「今こうやって朝から現れることができてるのに?」

クラリッサ 「今は今なのよ、当時は忙しかったの!
       そういうことってあるじゃないのっ」

シンディー 「王都の貴族御用達パティスリー」

クラリッサ 「うっっっ」

アンジェラ 「え、何?」

シンディー 「一番人気メニューは、苺のふんわりムース」

クラリッサ 「ああっあれほんっと美味しい!! トレビアン!!」

アンジェラ 「え……女神様?」

シンディー 「やっぱりお好きだったんですね」

アンジェラ 「ちょっとまって。女神であるクラリッサ様が?
       王都のお店のケーキを? 食べてるっていうの?」

シンディー 「前にお店でお姿をお見かけした気がしたんで、まさかとは思ってましたが……」

クラリッサ 「ああーーー考えたら食べたくなっちゃったーーー!!」

シンディー 「このご様子だと、頻繁にお忍びで街に繰り出してるみたいですね」

クラリッサ 「いいじゃないのーー!!
       街を見回ってー民の暮らしを知るのもー、女神の役目でしょおおお!
       そのついでに甘いものをちょっとね!?」

シンディー 「ええ、それをダメとは言わないですけど。
       でも……お忙しい云々のお話って、まさかスイーツの食べ歩きに、じゃないですよね?」

クラリッサ 「…………チガイマス」

アンジェラ 「間があった!! 今絶妙に肯定する間があった!!」

クラリッサ 「じゃあさあ! 二人は!? 甘いものって好きじゃないのぉ!?」

シンディー 「好きですけど、そちらに引き込もうとしないでください。
       私やるべきことはやってるんで。
       だからこの若さでメイド長をしているんです!」

クラリッサ 「アンジェラは?!」

アンジェラ 「おやつは、ちゃんと勉強やダンスレッスンをこなしてから、いただいてるわよ」

シンディー 「あらお嬢様、そんなに真面目にやってらっしゃいました?」

アンジェラ 「やってるもん……」

シンディー 「家庭教師から色々伺ってますからね」

アンジェラ 「ひっ……」

クラリッサ 「ほら、みんなそうでしょ! 息抜きは必要じゃない、何事も!!」

シンディー 「そりゃそうですけど。
       お母さんは、たまにサボりますけど、一応課題はこなしてくれるんですよねー。
       女神様は……そうは見えないなー。
       だってアフターケアに来るまでに十年以上かかるって、
       どう考えても息を抜き過ぎですよねー?」

クラリッサ 「そそそそそんなことないもん……ちゃんとやってるもん……」

シンディー 「どうせ今日もどこかのお店に行くついでに、
       私達のところに来たってことだと思うんですが」

クラリッサ 「はうっっ」

アンジェラ 「あーらま、ジャストミート図星」

クラリッサ 「ど、どうして……わかったの……?」

シンディー 「確かその店が今度ショコラを販売するという噂を聞いた気がしまして」

クラリッサ 「今日から、販売だって言うから……
       朝早く行って売り切れないうちに買おうとしました、ハイ」

シンディー 「認めましたね」

アンジェラ 「ねえねえ、素朴な疑問、女神様ってお金持ってるんだ?」

クラリッサ 「そりゃあ、この世界は女神信仰が絶対ですから、
       神殿にお布施だってたくさん、あっ……」

アンジェラ 「うわぁ……」

シンディー 「引くわマジで」

クラリッサ 「女神にだって!! 楽しみが!! 必要なの!!!」

アンジェラ 「そういう事情が定期的にあるおかげで、
       私達が感動と困惑の再会をしている時にアフターケアをしてくれなかったのね?
       そういうことですね!? いい加減認めましょう!!」

クラリッサ 「うわああああんっっ」



(間)



シンディー 「お嬢様、今日もお食事をあまり召し上がらなかったようですが、
       どこかお身体の具合でも?」

アンジェラ 「いいえ、そういうことじゃないの」

シンディー 「……コックの料理がお気に召しませんか?」

アンジェラ 「……もっと他のものが食べたいのよね、コックには悪いけど」

シンディー 「そうでしたか。例えばどのようなものが?」

アンジェラ 「シンディーに言っても、きっとわからないと思うわ」

シンディー 「ああ……お嬢様でも滅多に召し上がれないような、高級品ということですか?」

アンジェラ 「まぁ……そういうかんじ」

シンディー 「あら、違うみたいですね?
       よかったら私からも旦那様にお願いをしてみますからどうぞ仰ってください」

アンジェラ 「いいのよ、気にしないで」

シンディー 「(ぼそっと)確かになー……
       この世界の食事は味付けもシンプルだし肉ばっかだし飽きるよなー」

アンジェラ 「ジャストミート図星!」

シンディー 「えっ!?!?!」

アンジェラ 「ほんと飽きるの!! お肉嫌なのよおお!!」

シンディー 「お、お嬢様、今何と仰いました?」

アンジェラ 「え、私何かおかしいこと言ったかしら?」

シンディー 「ジャストミート図星、と、聞こえた気がしました」

アンジェラ 「あっっ、やばっ、えっと違うの、なんでもないの忘れてシンディー!!」

シンディー 「………………佐々木、貴子」

アンジェラ 「えっっ、なんでその名前を知ってるの!?」

シンディー 「マジで……!? お母さん!!!」

アンジェラ 「ええっっ!?」

シンディー 「私!! 美樹!!!」

アンジェラ 「嘘……美樹!? 美樹なの!?」

シンディー 「また会えるなんて思わなかったよ……!!」

アンジェラ 「それはこっちの台詞よ……!
       こんな異世界で、またあなたに会えるなんて!」

シンディー 「お母さああああん」

アンジェラ 「美樹ーーーーっ!!」



(間)



クラリッサ 「やだ、いい話! さすがね、私グッジョブ!!」

アンジェラ 「確かに娘が先に亡くなったのは聞いたけど、
       こうやって転生して年の差ができちゃってさ、
       変な感じだったわよ! すごく困った!」

シンディー 「お母さんが年下で、しかもお嬢様って、ほんと、ねえ?」

アンジェラ 「娘が年上……まぁ今はだいぶ慣れたけど」

クラリッサ 「あはは……」

シンディー 「私が生まれ変わった時、まだお母さんは地球で生きてたわけだし。
       最初からアフターケアをされてたら、
       もしかしたら私異世界満喫しすぎて、ここに勤めてなかったかもしれない。
       だから、今更そこを責めるつもりはないの、女神様には感謝してます」

クラリッサ 「でっしょお!? ほらー私のは全部計算だからあ」

アンジェラ 「それは違うよね」

シンディー 「ついていい嘘と悪い嘘があると思いますー」

クラリッサ 「ああん、そういうことにしておいてよおお」

アンジェラ 「でもあれよね、ギフトを貰えるって話?
       私はギフトって言葉がわからなかったから、
       感動の再会を果たしてから初めて自分のギフトに気づいたんだけど。
       ここは助けにきてほしかったのよね」

クラリッサ 「えー……」

アンジェラ 「あまりにも変なギフトすぎて、王都からお役人がたくさん来て大変だったんだから」

シンディー 「ああ、そうでしたね、あれは大変でした」

クラリッサ 「私そんなに変なギフトをあげたかしら??」

アンジェラ 「ギフト名『魔王』」

クラリッサ 「げっ、よりにもよってそれなの!?」

アンジェラ 「やっぱりハズレギフトじゃない!!」

クラリッサ 「いや、ハズレってわけじゃないと思う、
       けど……確かに人聞きが悪いかもしれないわよねゴメンナサイ」

シンディー 「本当にギフトなのか、ジョブの間違いじゃないのかって疑われて一時期軟禁だったもんね」

アンジェラ 「いい迷惑だったわ。結局今もどんなギフトかわかりゃしないんだから」

クラリッサ 「えーと、『魔王』は、
       とりあえずそこそこのところまでは大体うまく物事が動く、みたいな……
       確かそういうチートスキル系のギフトだった気がするわね……」

シンディー 「なにそれ説明雑! そこそこって何!!」

アンジェラ 「もっと具体的に教えてほしいんだけど?」

クラリッサ 「ええと、あらゆる病気やケガ、状態異常への耐性とか、
       経験値倍とか、幸運999とかそういう感じ……。
       同じ系統ギフトに『勇者』があるんだけど、あれだと無限大だから、
       それには敵わないくらいの数値で設定されてるのよ」

アンジェラ 「へぇ……」

シンディー 「転生する時にギフトを選ばせてもらえたらよかったのにね」

クラリッサ 「女神にはギフトを与えることはできても、指定して与えることはできないの。
       それだけは完全ランダムじゃないと、歪みが出てしまうから」

シンディー 「はー、じゃあ何。物欲センサー発動ってこと?
       私達のガチャ運が悪かったって話?」

クラリッサ 「優遇も冷遇も一切できないのよ、これは本当だから!!」

シンディー 「でもねぇ女神様、異世界の人間を転生させるのって、
       世界の歪みとやらを直す為って名目じゃありませんでしたっけ?」

クラリッサ 「そ、それは確かにそうよ?」

アンジェラ 「どうしてそれを異世界から来た私達がしなきゃいけないのかしら」

シンディー 「ほんとよね」

クラリッサ 「そ、そんなこと言われたってえええ」

アンジェラ 「大体、役に立たないギフトで、どうやって世界の歪みを直せっていうのよ」

クラリッサ 「いやそれはだからあれよ、あの、何も特別なことはしなくてもいいって言ったじゃないの」

シンディー 「そもそもそれがおかしな話なのよ!
       世界の歪みってもっと危機的状況のはずなんだから、
       何かしろっていうのが本来あるはずじゃない?」

クラリッサ 「しょうがないじゃない!!
       世界のバランスをとるって難しいんだからあ!!」

アンジェラ 「甘味を食べ歩かないで、その難しい仕事をしてくれればいいんじゃないの?」

クラリッサ 「それは言わないでーーー!!!」

シンディー 「でも、お母さんのギフトはさあ、ちょっとやそっとじゃ死ななそうだし、
       結構いいんじゃないって思うよ」

アンジェラ 「まぁ、内容がわかればそうだけど。……美樹のギフトは便利で羨ましいわ」

クラリッサ 「あら、何のギフトだったかしら?」

シンディー 「ギフト名『冷蔵庫』」

クラリッサ 「…………え。そんなん作ったっけ私」

シンディー 「待ってよ、女神様も知らないの!?」

クラリッサ 「だっていっぱいあるのよギフトって!
       いちいち全部暗記してられないわよ!」

アンジェラ 「うわぁ……こういう大人にはなっちゃいけないわね」

シンディー 「そうですよお嬢様、こうならないように勉学なさってください」

アンジェラ 「そうするわ」

クラリッサ 「ひどい!!!」

シンディー 「とりあえず、自分のギフトですけど、
       色々試してみた結果、自分が冷蔵庫だと指定したものから、
       いつでも新鮮な品を取り出せるチートスキルでした」

クラリッサ 「ああそうそう。そういうやつね!
       作った作った、思い出した!」

アンジェラ 「ねえ! 今思いついたんだけど、
       その『冷蔵庫』を使えば、和食が作れるんじゃない!?
       調味料とか材料とか全部出しちゃえばいいんだもんね!?」

シンディー 「まぁそうなんですけど、ええ、理論上は可能です。
       でも問題は保管ですよ、もし何か調味料の瓶一つでも見つかってしまったら、
       今度は私のところにお役人が来ちゃう!」

アンジェラ 「えーーっ、でもせっかく和食食べられるなら食べたいよおおおおお!!!」

シンディー 「うーん、私達だけが使える別邸があればいけるかな……」

アンジェラ 「わかった、お父様に頼むーー!!」

クラリッサ 「あらーなんだか喜んでもらえてる! このギフトでよかったわね。ふふふ!」

シンディー 「あ、それと、このギフト、本当にチートなんですよね女神様。
       冷蔵庫から出せるのって、食品だけじゃないんで」

クラリッサ 「えっ? しょ、食品以外に、何が出てくるの?」

シンディー 「漫画出てきました」

アンジェラ 「漫画!? 何で!?」

シンディー 「死んじゃって続きが読めなかったやつ、
       気になるなーって考えてたら、冷蔵庫に入ってた!」

アンジェラ 「えーーー! ずるいーー! ママも雑誌読みたいーーー!!」

シンディー 「見つからないように保管してくれるなら色々取り寄せるよ」

アンジェラ 「うんうん!!」

クラリッサ 「あれえおかしいなあ……食品だけに設定したような気がするんだけどなあー……」

アンジェラ 「ねえねえこれさあ、テレビとDVDプレーヤーとソーラー電池とか取り寄せて、
       映画とか観れないかな!?」

シンディー 「試したことないな、できるかも!!」

クラリッサ 「だ、駄目よおおお!! それはやりすぎ!!!
       世界のバランスが崩れちゃう!!!」

アンジェラ 「でも、ギフトまでつけてこの世界に転生させたんだから、
       歪みには歪みを、じゃないけど、
       そうやってバランスを保つとかそういう話じゃないの?」

クラリッサ 「もちろんそのつもりでやってることではあるんだけどぉ!!
       この世界の文明になさすぎるものはだめよ!!!
       一発アウトで世界が崩壊しちゃう!!!」

シンディー 「そうは言ってもねぇ。
       まだ試してないけど、もしできたとしたら、
       普通に女神様のギフトの範疇ってことじゃないの」

クラリッサ 「それでもだめっ、絶対だめっ、しないでお願いーー!」

シンディー 「それやったら本当に世界が崩壊しちゃうわけ?」

クラリッサ 「す、すぐに崩壊するわけじゃないけど、
       そういう運命にいっちゃったら大変じゃない!」

アンジェラ 「一発アウトじゃないじゃない」

クラリッサ 「アウトだもん! 私、上の神様に怒られちゃう!!」

シンディー 「あーなるほど……」

アンジェラ 「あの。女神様にこんなこと言いたくないんだけど、気づいちゃったわ」

クラリッサ 「えっ、なあに?」

シンディー 「あ、お母さんが何を言いたいのかわかった気がする」

クラリッサ 「こわいこわいー何よお」

アンジェラ 「……世界の歪みの根本的な原因って、女神様だよね」

クラリッサ 「………………うわああああああああああああああああああああん!!!!」

シンディー 「ああ、やっぱり」

アンジェラ 「ジャストミート図星ね」

クラリッサ 「ちがうもおおおおん」

シンディー 「……さ、お嬢様、朝食にいたしましょう、食堂へどうぞ」

アンジェラ 「わかったわ。またね女神様」

クラリッサ 「うわあん、一人にしないでよ、ちょっとおおおお!」



(間)



シンディー 「私達の異世界生活は、まだまだ始まったばかり」

アンジェラ 「ぽんこつ女神様には困ったものだけど、それなりに楽しくやっています」

クラリッサ 「待って待って困るほんと困る!! みんな誤解しないでね!?
       世界の歪みは私のせいじゃないからああああ!!!」





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