秒針も弾む

作:早川ふう / 所要時間 5分

利用規約はこちら。少しでも楽しんでいただければ幸いです。2020.08.31.


時計はきっかり午前1時、なるほど眠いわけだ。

普段は日付が変わる前にはベッドに入るのに、
今日はまだ髪の毛が乾いてすらいない。
お風呂でうたたねをしてしまった結果がこれだ。
というか、うたたねするくらい今日は疲れていた。
少しふやけた肌にふりかける化粧水は残り僅かだったから、
明日こそ買いに行かないと。
ミネラルたっぷりの麦茶を飲み干して、
髪の毛をタオルで拭きながら、
携帯で今日投稿しようとしていた写真の編集をしていたのだが……
あー、私の集中力が行方不明だ。早く帰ってきて。
なかなかこれっていう形にきまらない。
これ以上遅くなるわけにはいかないの、急ぐんだ私!
あっ、ハッシュタグ間違えた!

うまくいかない時は、とことんうまくいかないものだ。
諦めて投稿した写真にはやはりコメントはつかない。
こんな時間だからしょうがないのかもしれないけど。
頑張っても報われない時ってある。
でも続けるのが大事なんだ、そうなんだ、と無理に自分を納得させていれば、
ちょうどよく、携帯が光った。

いいねが一件。コメントはない。
でも、送ってくれた相手を見て、心臓が震えた。
一呼吸おいて鳴る呼び出し音。

彼は仕事で夜が遅く、普段は私と生活時間がずれているから、
会えるのは休みの日だけだし、電話もほとんどしない。
それなのに、画面に表示されているのは彼の名前。
もしかして私の部屋に監視カメラでも仕掛けてある?
こんな時に、電話をかけてきてくれるなんて、ずるいよ。

「もしもし」とおそるおそる口にすれば
『やっぱ起きてたか、よかった』と耳元で彼の声がちゃんと聞こえた。
今日は仕事が早く終わって、帰り際私の投稿に気付き、
まだ起きているかもと思ったのだという。
「お疲れさま」と伝えると、彼は『そっちもね』とふんわり笑った。
ああ、この笑い方が好きなんだよね、癒されるなあ。
なんて、ちょっと悔しいから口には出さないけど。
黙った私に、彼は驚くことを言ってきた。

『早く帰れたとはいえ、今日はすごく疲れてさ。
 でも、さっきあげてた写真に癒されたし。
 こうやって話もできたし、今日って実はいい日だったな』

……まったく。
彼は、今日をどれだけひっくり返してくれるつもりなんだろう。

彼はいつもと同じく、何も考えずに言葉を発しているんだろうから、
私が今どれだけ嬉しいかなんて、わからないよね。
おんなじだよ、なんて、泣いちゃいそうで絶対言えない。
ああやだやだ、もっと好きになっちゃうじゃん。馬鹿。

電話を切った後も残る、じんわりとした頬の温度が、
幸せすぎてにやけてしまう、只今、午前1時45分。





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