時計はきっかり午前1時、なるほど眠いわけだ。
普段は日付が変わる前にはベッドに入るのに、
今日はまだ髪の毛が乾いてすらいない。
お風呂でうたたねをしてしまった結果がこれだ。
というか、うたたねするくらい今日は疲れていた。
少しふやけた肌にふりかける化粧水は残り僅かだったから、
明日こそ買いに行かないと。
ミネラルたっぷりの麦茶を飲み干して、
髪の毛をタオルで拭きながら、
携帯で今日投稿しようとしていた写真の編集をしていたのだが……
あー、私の集中力が行方不明だ。早く帰ってきて。
なかなかこれっていう形にきまらない。
これ以上遅くなるわけにはいかないの、急ぐんだ私!
あっ、ハッシュタグ間違えた!
うまくいかない時は、とことんうまくいかないものだ。
諦めて投稿した写真にはやはりコメントはつかない。
こんな時間だからしょうがないのかもしれないけど。
頑張っても報われない時ってある。
でも続けるのが大事なんだ、そうなんだ、と無理に自分を納得させていれば、
ちょうどよく、携帯が光った。
いいねが一件。コメントはない。
でも、送ってくれた相手を見て、心臓が震えた。
一呼吸おいて鳴る呼び出し音。
彼は仕事で夜が遅く、普段は私と生活時間がずれているから、
会えるのは休みの日だけだし、電話もほとんどしない。
それなのに、画面に表示されているのは彼の名前。
もしかして私の部屋に監視カメラでも仕掛けてある?
こんな時に、電話をかけてきてくれるなんて、ずるいよ。
「もしもし」とおそるおそる口にすれば
『やっぱ起きてたか、よかった』と耳元で彼の声がちゃんと聞こえた。
今日は仕事が早く終わって、帰り際私の投稿に気付き、
まだ起きているかもと思ったのだという。
「お疲れさま」と伝えると、彼は『そっちもね』とふんわり笑った。
ああ、この笑い方が好きなんだよね、癒されるなあ。
なんて、ちょっと悔しいから口には出さないけど。
黙った私に、彼は驚くことを言ってきた。
『早く帰れたとはいえ、今日はすごく疲れてさ。
でも、さっきあげてた写真に癒されたし。
こうやって話もできたし、今日って実はいい日だったな』
……まったく。
彼は、今日をどれだけひっくり返してくれるつもりなんだろう。
彼はいつもと同じく、何も考えずに言葉を発しているんだろうから、
私が今どれだけ嬉しいかなんて、わからないよね。
おんなじだよ、なんて、泣いちゃいそうで絶対言えない。
ああやだやだ、もっと好きになっちゃうじゃん。馬鹿。
電話を切った後も残る、じんわりとした頬の温度が、
幸せすぎてにやけてしまう、只今、午前1時45分。