拝啓、君へ。
日増しに暖かくなり、桜前線の待ち遠しい今日此の頃。
いかがお過ごしですか。
なんて、堅苦しい挨拶なんかしたら、
君は笑ってくれるだろうか。
目をまんまるくして、「柄じゃないよ、どうしたの?」なんて、
本気で心配するかもしれないけど。
もうすぐ春だね。
三寒四温。
寒くなったり、暖かくなったり、
それを繰り返して春になっていくとはいうけれど
僕はいつもいつも寒くてたまらなかった。
……この間インフルエンザになって、会社を休んだばかりなんだ。
でも、ちゃんと遅れた分の仕事は取り戻したし、何とかうまくやれてる。
当たり前のように隣にいた君がいないのは寂しいけれど、
一人でも僕はちゃんとやれるってところを見せないとね。
君は僕に散々「頼りがいがない」って言ってたからなぁ。
地方に配属が決まった時も、真っ先に「大丈夫なの?」って僕の心配をしてくれたよね。
君は寂しくなかったのかな?不安じゃなかったのかな?
まあ、僕に浮気をする甲斐性なんてないのは、君が一番よくわかってただろうけど。
で、だ。
一人暮らしをしてもうすぐ3年が経つ。
どうだ、見てみろ、大丈夫だろ?な?
僕だってやる時はやるんだ。少しは見直せよ?
ああ、インフルエンザは不可抗力ってことで見逃しておいてくれ。
ちゃんと一人でも、病院に行ったし、おかゆを作ったりできたんだからな。
ああ……
「それだけで一人前になった顔するなよな〜?」なんて、
ニヤニヤしてくる君の顔が浮かぶなぁ。
わかってるよ。
そんな程度じゃ、君は納得してくれないだろう。
どれだけの男になれば君は満足してくれるのか、
僕にはわからないからなぁ……。
最近、君が作ってくれた料理をよく思い出すんだ。
一昨日、珍しく卵が安売りしていてね。
2パックも買っちゃったから、贅沢に卵を3個も使って、
ふんわりオムライスを目指して作ってみたんだよ。
……見事失敗。
君が作ってくれたオムライスのようにはできなかった。
美味しくはできたけど、……でも、君の味じゃなかった。
煮物だって、カレーだって、炊き込みご飯だって、
君と同じレシピで作ってみたけど、なぜか君の味にはならなかったよ。
どうしてだろうね。
僕、そんなに料理が下手なわけじゃないと思うんだけど。
なんてね。
わかってるよ。
君がいないから、だよね。
どんなに君のレシピ通りに料理を作っても、
君が隣にいなきゃ、君の味にはならないんだ。
一人で食べる食事は、味気ないよ。
君は最近、どうですか。
そっちで、どうしていますか?
変わらず笑顔で過ごしていますか?
会いたいな。
会いたいよ。
女々しい、なんて笑うなよ?
我慢して我慢して我慢して、それでもどうしても、
会いたくなる時だってあるんだよ。
男だって、あるんだよ。
……それとも、君は泣くだろうか。
僕が本当に君に会いたいと言ったら……。
嘘。冗談だ。
そんなことを言ったら、本当に軽蔑されそうだからね。
……我慢するよ。
本当は毎月帰れたらいいんだけど、なかなかそうはいかないから…。
バレンタインにチョコを催促に行かなかっただけましだろう?
でも一年に一度くらいは、会社に我儘言って、有休とって、
君に会いに行くよ。君の好きだった花を抱えてね。
拝啓、君へ。
僕は君を忘れないよ。
たとえいつか、僕が誰かと恋愛したり、結婚したりする時がきたとしても、
それでも、君の事は絶対に忘れない。
僕の隣にいて、いつも笑っていた君の顔も、
穏やかに微笑んだような君の最期の顔も、
君が僕にくれた時間を、思い出を、忘れたりはしないよ。
「永遠に変わらないものなんてない」って君はよく言っていたけど、
ここにあるよ。
これが僕と君の永遠だ。
僕がいつか君の隣に行ったら、
また笑って話せるだろうか。
拝啓、君へ。