拝啓、キミへ。
青空がとても眩しく感じる今日此の頃。
いかがお過ごしですか。
なんて、キミの真似をして堅苦しく返してみます。
キミこそ、目を丸くして、「どうしたの?」って驚くかな。
私がこんな冗談を言うなんて、思ってもみなかったよね?
確かにいっつもキミに「もう少しちゃんとしなさい」って言ってきたけど、
こんな風に堅苦しく挨拶しろって意味じゃないんだよ。
でも、たまにはこうやって、ちょっと遊んでみるのも、いいかなって思う。
ねぇ。もう春じゃなくて夏だよね。
気温が高い日もあるし、気温が低くても湿度が高かったりとかさ。
そっちはつらいんじゃない? 体調崩していませんか?
インフルエンザの時期はもう過ぎたけど、
キミは普通に風邪ひきそうだからなぁ。
あ、そうそう。ずっと気になってたんだけどさ。
ニュースで毎年、この夏は何十年ぶりの猛暑、とか言うじゃない?
あれってどうなんだろうね。
毎年聞くからどれだけ酷い暑さなのかもうわからない感じがするんだけど。
なんて言うと、「考えすぎ」とか、
「また変なこと気にするんだから」とか、笑われそうだね。
キミは暑さに強くていつも羨ましかったなぁ。
でも油断は禁物だからね?
熱中症には気をつけて、きちんと水分補給するんだよ?
かといって、珈琲ばっかり飲まれるのも困るなあ。
そこらへんきちんと自制してよね。
うーん、考えれば考えるほど、やっぱり心配だなあ……。
でも……キミがもうちゃんとやれてるのは、知ってるよ。
いつまでも子ども扱いしてちゃだめとは思うけど、
やっぱりどうしても心配してしまいます。
あ。こっちのことを言ってなかったね。
夏は暑すぎることもなく、冬も寒すぎることもなくとても快適。
夏に弱い私にはありがたい環境です。
だけど……やっぱり少し、右側が……寂しいかな。
当たり前のように隣にいたキミがいないのは、やっぱり、寂しいよ。
……フレグランスに混じって、煙草の匂いがしてたよね。
隣にいるだけでも、すぐわかるんだから。
いくらやめてよって言ったって、キミは煙草をやめなかった。
私の前でだけ吸わなくたって同じなのに。
でも今は、キミのその煙草の匂いが、恋しいよ。
フレグランスより、よっぽど、記憶に残ってる懐かしい香りなの。
……ごはんはきちんと食べていますか?
これからもっと暑くなるから、胃も弱るだろうし、
消化がよくて、栄養のあるものをきちんと食べて、夏バテしないようにね。
私が夏によく作っていたササミとオクラの梅和えや、トマトの素麺……
ちゃんと覚えてるかなぁ?
もしかしたら、オムライスくらいしか覚えてないんじゃない?
何を作っても美味しいっていっぱい食べてくれたけど、
でもオムライスの時が一番いい笑顔だったね。
キミがオムライス大好きなのはわかるけどさ、
できれば、私が作った他の料理も、覚えててくれると嬉しいな。
また作ってあげたいけど……こう離れてちゃそうはいかないもんね……。
オムライス、私の味で作れるように頑張ってるみたいだけど、
隠し味が足りないんだと思うんだ。
キミにその味がわかるかな?
まぁ頑張りたまえ! ふふふ。
キミは最近、どうですか。
そっちで、どうしていますか?
変わらず笑顔で過ごしていますか?
会いたいな。
会いたいよ。
「何似合わないこと言ってるの」なんて笑わないでよ?
我慢して我慢して我慢して、それでもどうしても、
会いたくなる時だってあるんだよ。
私にだって、あるんだよ。
女は、みんなそうだと思う。
たとえどんなに強い女でも、好きな人の前ではね。
……でも、会いたいとは言えないね。
私が本当にキミに会いたいと言ったら、キミは本当にこっちに来そうだから。
そんなことはさせられない。
大丈夫、我慢できるよ。
キミがまだ、私を想ってくれてること、
ちゃんと知ってるから。
届いてるから。
でももう、私からは何も届けられないね。
誕生日プレゼントも、バレンタインのチョコレートも。
クリスマスだって、一緒にいられないし何もあげられない。
あんな別れ方だったし、
いつまでも、私がキミを縛ってるみたいで、
心苦しい時もあるんだけど。
でも、少しだけ、嬉しいって思っちゃう。
ひどい女かな。
……ほんの少しでもいいの。
私のことを覚えていてくれたら、いいな。
私が最期にキミに会えた日……
あれが最後の記念日だね。
……今でも、毎年、その日には、会いに来てくれてありがとう。
私の好きなお花も、忘れないでいてくれてありがとう。
拝啓、キミへ。
私はキミをこれからもずっとずっと見守っていきます。
たとえいつか、キミが誰かと恋愛したり、結婚したりする時がきたとしても、
それでも、嫉妬したりせずに、絶対にキミの幸せを願うから。
私の隣にいて、いつも笑っていたキミの顔も、
最期に見た、顔をくしゃくしゃにしてた泣き顔も、
キミが私にくれた時間を、思い出を、これからもずっと大切にしていくから。
「永遠に変わらないものなんてない」って私はよく言っていたけど、
ここにあるね。
やっとわかった。
あ、でも、
キミの永遠じゃなくてもいいよ。
いいんだよ。
……これが私の永遠。
それだけで、いいから。
ねぇ。それでも、それでもさ。
キミがいつか私の隣にきたら、
その時だけは、あの時の、二人に戻って。
またキミと笑って話ができたらいいな。
拝啓、キミへ。