猫とペンギンと生姜入りビスケット

作:早川ふう / 所要時間 10分

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2017.09.24.


何も予定がなくて、連休をゆっくり過ごせる。
それは絶好のDIY日和だ。

だから金曜の夜、友達の誘いもそこそこに早く帰ってきて、
まずは家事を終わらせてしまう。
軽く食事をとったあと、お茶を飲みながら、
この土日で何を作るか、ゆっくり考える。
たったひとりの作戦会議の時間は、とても、幸せ。



自分で板材を買ってきて、
切って、塗って、組み立てるのも好きだけど、
すのこを利用するのも、それはそれで面白い。
オイルステインやニスの扱いも慣れたもの。

キッチンまわりは、だいぶ自分の理想どおりになってきた。
調味料棚を作ったり、カウンター収納を工夫したり、
つくりつけの戸棚の装飾も完璧。
小さな緑まで配置して、
今や立派なナチュラルカントリー。

ブルックリンスタイルも嫌いじゃない。
でも、自分にとってはごつすぎるから、
アクセントに入れるくらいが丁度いいかな。

インテリア雑誌をめくると、どんどん想像が広がっていく。
この家にだったら何があうかな。
これはどうやったら作れるかな。
このスペースにだったらこの形の方がいいんじゃないかな。
もちろん使いやすくはしたいけど、味だってほしいよね。



お茶のおかわりを淹れていると、
ふと、以前友達が家に来た時に、笑われたことを思い出した。

「ねえねえ、何でこんな可愛い部屋なのに、
 出てくるものがほうじ茶なの!?」

紅茶は、もとからあまり好きじゃない。
珈琲は好きだけど、すぐ眠れなくなってしまう体質だから、
家では飲まないようにしてる。
だから必然的にカップ類は、シンプルで、
お茶を淹れてもあうようなデザインばかりを選んでいる。

当時彼女は妊娠していて、だから緑茶じゃなくて、ほうじ茶を淹れた。
美味しいほうじ茶なんだよ、って笑って出して、
彼女も美味しいと飲んでくれた。

ただそれ以来、
笑われたのが小さな棘のようになっている。
別に笑われたくてほうじ茶を出しているわけでも、
紅茶や珈琲を飲まないわけでもない。
確かに和のテイストなんて全然ない部屋だけど、
ほうじ茶だけでそんなに笑われることなのかなって。
多分、私はショックだったんだと思う。
だからそれ以来、私は友達を家には呼んでいない。

彼女に悪気はなかったのもわかってる。
私自身を否定する気なんて更々なかったんだろう。
でも、私は、私に刺さった棘が、痛くて、とても嫌な気持ちになった。

気にしすぎでも、頑固でもいい。
ここは私だけのお城だから。
ここで過ごすのも、ここを守るのも、私だけでいいだろうと
今ではそう納得している。



私は、童話がキライだった。
馬鹿みたいだと思ってたから。

いくら眠っていたって、王子様は迎えになんかこないよ。
大体、白雪姫だって、眠り姫だって、
約束を破ったから、あんなことになったんでしょう。
そして、王子様に助けられて幸せになるなんて、
そんな宝くじみたいな人生、夢見たってしょうがない。

じゃあ児童文学はマシかっていうと、実はそうじゃなくて。
「若草物語」も「小公女」も好きじゃない。
「赤毛のアン」なんてダイッキライだった。
男の子と間違えて引き取られて、
でも気に入られて、健気に頑張って、
からかうやつにはこれでもかと意地を張って、
でも結局ギルバートと、最後にはうまくいくじゃない。
ハッピーエンドは苦手。
私にも幸せな結末が訪れるかも、なんて夢を見てしまうでしょう。
現実は、夢のようになんていかないでしょう。



だから、私はものを作る。
自分で夢を現実としてカタチにできる、DIYが大好き。

料理は、正直そこまで得意じゃないけど、
お菓子を作るのは、好きになった。
でも、お菓子を作るようになって気付いたけど、
食べたいなと思い浮かぶのはいつも、昔嫌ってた童話の世界だった。

ヘンゼルとグレーテルが思わず食べてしまったお菓子の家や、
白雪姫が思わず食べてしまう林檎の美しさ。

約束を破ってしまった気持ちが、今ならなんとなくわかってしまう。
綺麗だな、美味しそうな林檎だな。
口の中に広がる甘酸っぱい、味の記憶には抗えない。

そしていい林檎を買ってくるたびに、これを使って何を作ろうかと考えて、
思い浮かぶのは読んだ本の料理の描写になる。

赤毛のアンなんて、一度しか読んだことがなかったのに、
料理だけは覚えていたんだから、不思議。

くだもの入りケーキ、さくらんぼの砂糖漬け、
生姜入りビスケットに、いちご水(すい)。

自分なりにレシピを工夫したりもしてて、
友達へのいいお土産にもなっている。



そうだ。本棚。
本棚を作ろうかな。
大人買いしてしまった赤毛のアンシリーズは、
表紙がとても綺麗だから。



生姜入りビスケットも焼こう。
ほうじ茶がお供だっていいでしょう。
ここは私の、お城なんだから。







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