Bitter June Bride −2人ver.−

作:早川ふう / 所要時間 25分 / 比率 1:1

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2012.07.02.


【配役表】

早紀・・・
洋介・・・



早紀    スイーツ友達時々セフレだった、腐れ縁の亮一の海外転勤が決まり、
      送別会を兼ねて食事をしたクリスマスに、いきなりされたプロポーズ……。
      籍を入れるだけの結婚をして、単身渡仏した亮一を見送り、
      私は日本で一人、仕事の引継ぎやら何やらを終わらせて、
      プロポーズから半年経ってやっとの今日、
      フランス行きのチケットを使える日が来た。
      ……でも。
      私は、飛行機には……乗らなかった……。


(夜。とあるビルから出てくる洋介。)

洋介   「(携帯で話している)ああ、……ああ、わかった。
      (早紀をみつけて)あれっ……ちょっとあんた!!」

早紀   「え……? あ……洋介、くん?」

洋介   「(携帯に向かって)ああ、なんでもない、とりあえず、わかったから。
      はい、じゃあ月曜にな、お疲れさーん!
      (携帯を切って駆け寄る)
      こんな遅くに一人でなにしてるんだよ!?」

早紀   「え、と……」

洋介   「せっかく結婚したっていうのに、亮一はすぐフランス勤務だろ?
      お前は? いつ行くの?」

早紀   「あー……、きょ、今日、のはず、だった」

洋介   「今日!? じゃ何でここに……」

早紀   「あははー……」

洋介   「飛行機に乗り遅れたとかベタな理由だったら笑うけど」

早紀   「……笑ってクダサイ」

洋介   「何やってんだよ!
      次の便はとれてんのか? 空港近くのホテルに泊まってりゃよかったのに
      街でふらふらしてんなよ、危ないだろ」

早紀   「そんな、危ないって年齢でもないじゃない」

洋介   「危機感と倫理観を持ちなさい、仮にも人妻なんだから」

早紀   「あ、はぁい」

洋介   「……荷物は?」

早紀   「大きなのは先に送っちゃったの。あとは私が行くだけ」

洋介   「じゃあ貴重品だけか」

早紀   「って言っても、ホテルに泊まれるほどお金の持ち合わせなくて。
      suicaの残高あったからこっちまで戻ってきたんだ」

洋介   「今夜どうするつもりだったんだよ」

早紀   「カプセルホテル泊まるくらいだったら、漫喫か、カラオケがいいかなって思ってた」

洋介   「それで繁華街をうろうろ、ねぇ……」

早紀   「なによー悪いー?」

洋介   「とりあえず、うちに来いよ、亮一にも連絡しなきゃいけないだろ?」

早紀   「え、でも……」

洋介   「心配しなくても、親友の奥さんに手を出すほど飢えてない。安心して頼れ」

早紀   「お宅にお邪魔すると……嫌がる人いるんじゃないの?」

洋介   「俺の女は親友の奥さん一人助けない薄情な男は嫌いなんだ。変な気遣わなくて大丈夫」

早紀   「そっか……じゃあ、お世話に、なります」

洋介   「おう」

(間)

早紀   「………ねえ、訊いていい?」

洋介   「なに?」

早紀   「なんでこんなとこ住めるの!?」

洋介   「こんなとこ、って……そんなひどい家かここは!?」

早紀   「違うよ!!
      運転手つきの高級車に乗せられた時点で想像はついてたけど!
      タワーマンションの最上階なんて、私の想像の範疇超えすぎてびっくりするじゃない!!
      しかもここに一人で暮らしてるんでしょ??
      アリエナイ……普通ありえないって!!!」

洋介   「ここ、そんなに高くないよ?」

早紀   「一般人は背伸びしたって手が届かないはずです!!!」

洋介   「俺、仮にも社長してるからね、体裁とか税金対策含め、色々あるんだよ」

早紀   「……どんな悪どいことやったらこんなに稼げるの?」

洋介   「ひでぇ。俺のことどんな印象なんだよっ」

早紀   「だって、タメなのにこんなに生きる世界が違うと……
      なんていうの? 天然記念物に出会ったようなそんな感じ」

洋介   「男に生まれたからには常に上を目指さないとね。
      一に努力、二に努力、チャンスを逃さず捕まえるべし、ってね」

早紀   「じゃあ結構仕事人間なの?」

洋介   「いや? 俺趣味多いよ〜。
      フットサルと草野球はチーム持ってるし、サーフィンやボードもやる。
      欲しい資格があるから勉強するってのも趣味っちゃ趣味だな。
      その延長で新しい事業始めたりもしちゃうけどね。
      彼女との時間だって、きちんと作るし、記念日とかは大切にする方だよ」

早紀   「完璧か!? 寝る時間削ってるとかそういうオチ??」

洋介   「それはあるかも。
      ただ、俺が楽しいことを全力でやってるだけだからね。
      充実してれば、睡眠時間短くてもつらくはないし。
      まあ、俺が人並み以上に体力があるからできるのかもしれないけど」

早紀   「……じゃあ、仕事も、楽しいんだ?」

洋介   「もちろん」

早紀   「……すごいね。私は、あまり仕事好きじゃなかったなあ」

洋介   「お前の今の仕事は、亮一の奥さん、だろ?」

早紀   「……そっか、うん、……そうだよね」

洋介   「とりあえず、風呂入ってこいよ。
      俺その間に亮一に連絡しといてやるから」

早紀   「いいよ、着替えもないし…」

洋介   「俺が嫌なの。悪いけど、潔癖症なんでね。
      外出た服で、ベッド使われたくないんだ」

早紀   「私ソファでいいんだけど」

洋介   「(遮って)同じことだろ。覗かないから早く行ってこいって」

早紀   「う、うん……じゃあ……」


(シャワー音を確認して、不敵な笑みを浮かべる洋介)

洋介   「さて、どうしたもんかねぇ。
      賭けは、俺の負け、ってことになるけども。……さすがだな」

(間)

早紀   「お風呂も広いし立派だなあ……。
      しかもこれ、温泉ひいてるんじゃないの……?
      へたなホテルより素敵じゃない……」

(風呂の外から洋介、声をかける)

洋介   「着替えとタオル置いとくよ。
      ちなみに下着はうちの会社のサンプル品なんで、
      変な誤解はしないように」

早紀   「ありがとう」

洋介   「あと、亮一には連絡しといたから」

早紀   「あ、うん。……怒ってた?」

洋介   「いや、笑ってたよ」

早紀   「そっか、」

洋介   「のぼせないうちに出てこいよ?
      俺だって風呂入るんだから」

早紀   「あ、そうだよね、ごめん、もう出る」

洋介   「急かしてないって。
      それに今出たら俺とはちあわせするけど?
      見られて興奮する性癖でも持ってるのか?」

早紀   「アホ!!!!!!」

洋介   「だから天然って言われるんだよ、亮一も苦労してんだろうな〜」

早紀   「……」

洋介   「じゃ、適当なとこで出てこいよー」

(間)

早紀   「……何やってるんだろう私。
      ほんと……ばかみたい……」

(間)

洋介   「お、もういいのか」

早紀   「うん、何から何まで、ありがとう」

洋介   「じゃ、俺も風呂行ってくる。
      腹減ってる? よかったらどうぞ」

早紀   「これ……洋介くんが作ったの!?」

洋介   「料理も趣味なんだ。
      口に合わなかったら無理して食べなくてもいいから」

早紀   「そういえば朝食べたっきりだった」

洋介   「ありあわせの簡単なもんで悪いけど」

早紀   「そんな。正直私の作る夕食より豪華……」

洋介   「はは、そっか。じゃあ食べててください。
      水はウォーターサーバー使っていいから。グラス置いとく。
      ただ、そこらの引き出しとか、他の部屋覗いたりはしないで」

早紀   「そんなことしないよ!」

洋介   「あはは」

早紀   「………いただきます、(ぱくっ)美味しい……。
      洋介くんって何でもできてすごいなぁ。
      亮一の親友だもん、いい人で当然、か……。
      ……亮一……………………」

(間)

洋介   「お、綺麗に食べてくれたんだな」

早紀   「あ、洋介くんごちそうさま、って、ちょっとお!!!」

洋介   「なに?」

早紀   「服を着てよ! なんで黒いバスローブで来るのーー!?」

洋介   「いつもは下着だけだけど、お前がいるから羽織ってきてやったんだろうが!」

早紀   「……そのゴールド、本物?」

洋介   「あ? ネックレス? 本物だけど」

早紀   「……セレブってやっぱり、私たちとは人種から違うんだな……」

洋介   「なんだよそれは」

早紀   「夜景を見ながら、高級ワインやブランデー飲んで、
      天蓋つきのシルクのベッドで寝てるんでしょう!!!」

洋介   「……確かに酒もあるし、ベッドシーツはシルクだけども」

早紀   「ほらそうなんじゃん! セレブ!!!」

洋介   「落ち着けよ! あ、お前なんか酒飲みたい?」

早紀   「飲ませてくれるの?! 気前よすぎるさすがセレブ!」

洋介   「あーはいはい。……お前赤ワイン平気?」

早紀   「うん」

洋介   「飲み頃なのは……あー、これがいいかな……」

(間)

早紀   「あーーーーーすごい美味しい……これどんどんイケちゃうね!!」

洋介   「酒強いの?」

早紀   「普通だと思う。でもつぶれたりしないよ。
      すぐテンションは上がるけど、あとはそのままかなあ」

洋介   「ずっとバカ騒ぎしてるタイプ?」

早紀   「そうそう」

洋介   「そりゃ、付き合うの大変そうだな」

早紀   「うるさいってよく言われる」

洋介   「ま、ここじゃ気にしなくていいさ」

早紀   「宅飲みってちょっと緊張するけどね」

洋介   「こんだけ飲んでおいてよく言うよ」

早紀   「それはほら、美味しいから」

洋介   「そうかよ。
      ……でさ。お前、どうしたんだよ?」

早紀   「なにがー?」

洋介   「酒の勢いで吐いちまえ。なにがあった?」

早紀   「……なにも、ないけど?」

洋介   「じゃあなんでフランス行かなかったんだよ、理由があるんだろ?」

早紀   「だから、飛行機乗り遅れたって言ったじゃない」

洋介   「職業柄、人の嘘には敏感なんでね。今更隠すな。
      何か力になれることがあるなら、言え」

早紀   「……まいったなァ。洋介くん、ほんと出来すぎなんだから」

洋介   「は?」

早紀   「さすが亮一の親友だよね。
      いい人過ぎてやんなっちゃう。
      ……私みたいに、馬鹿な人間の気持ちなんか、わかんないでしょ」

洋介   「あのなぁ、いくら俺が天才でも、
      事情も知らずに理解なんかできねえの。
      やさぐれるなら、話してからにしてくれるか」

早紀   「……洋介くんは、亮一から、私の話……聞いたことある?」

洋介   「え?」

早紀   「そっちも長い付き合いなんでしょ?
      何か、話聞いてたんじゃないの?」

洋介   「まぁ、少しは」

早紀   「私と結婚する、って聞いた時、心配しなかったの?」

洋介   「心配? 報われてよかったなって祝福だろ普通」

早紀   「変な女に引っかかった、とか……」

洋介   「なんだそれ」

早紀   「私はさ……こんな性格だし、日本を離れがたい理由なんて特にないのね。
      友達も作ってこなかったし」

洋介   「うん」

早紀   「ずっとひとりで生きてきたし、ずっとひとりで生きていくつもりだったから」

洋介   「うん」

早紀   「でも……私には、ずっと、亮一がいたんだよ」

洋介   「……うん」

早紀   「私、いつも自分のことしか考えてこなかった。
      亮一は、いつも私のことを考えてくれてたのに」

洋介   「そうなのか?」

早紀   「私たちが、ちゃんと付き合ってたわけじゃないの知ってるでしょ」

洋介   「まぁな」

早紀   「なのに、亮一が私なんかを選ぶなんて。なんで……?」

洋介   「それさあ、もう入籍してんだから、答えなんて出てるんじゃないのか?」

早紀   「私今まで、亮一のために何かしたことなんてなかったんだよ。
      何も、何もしたことない。
      確かに、甘いもの好きっていう共通点があって、
      それがあったから学生の頃からずっと仲良くしてこれたけど、
      でも、……ただそれだけの関係だったのに、急に「奥さん」になったんだよ。
      フランスに行っても、亮一に何もできることなかったら、どうしようって……
      怖くなって……それで……」

洋介   「なんでそのまま亮一に伝えなかったの?」

早紀   「こんなこと、言えないよ。
      亮一に、がっかりされたくない……」

洋介   「とりあえず、ひとつ言えることがある」

早紀   「なに?」

洋介   「お前は、亮一に夢を見すぎだ」

早紀   「え?」

洋介   「別に、あいつも、もちろん俺も、聖人君子なんかじゃない。
      卑怯なとこ、ズルイとこ、弱いとこだってたくさんある」

早紀   「……そうかもしれないけど、でも、私ほどじゃないと思う」

洋介   「お前の問題が、自分が選ばれた理由に自信が持てないってだけなら、話は簡単だ。
      俺が自信を持たせてやるよ」

早紀   「え?」

洋介   「ここでがいい? それともベッドがいい?」

早紀   「な、なんの話?」

洋介   「わかってるくせに」

早紀   「まってっ……きゃ!!」

洋介   「ソファで無理やりってのも、プレイとしてはアリだけどな」

早紀   「冗談でしょ!?
      洋介くん亮一の親友なのにっ!」

洋介   「そう、俺は亮一の親友。でも、今それって関係ある?」

早紀   「え……」

洋介   「逆に訊くけど、お前は亮一の奥さんなのに、
      どうして一人暮らしの男の部屋にいるの?」

早紀   「だってそれは洋介くんが……」

洋介   「でもさ、密室に男と女が二人でいる時、結構いろんなもんがどうでもよくなるもんだろ?」

早紀   「やめて。お願い……!」

洋介   「どうして? 亮一と長いことセフレだったんだろ?
      俺とも楽しんだっていいんじゃない?」

早紀   「放して!! 洋介くんだって彼女いるんでしょう?!」

洋介   「だから関係ないんだよ今そんなことは。
      ああ、それともこれもプレイの一環? 強姦プレイがお好きなら、お望みのままに」

早紀   「や……っ」

洋介   「抵抗するフリが上手だね。慣れてるんだ?」

早紀   「……ちが……」

洋介   「亮一よりヨくしてやるよ」

早紀   「っ……やめて!!!!!!(渾身の頭突き)」

洋介   「っっづ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

早紀   「亮一以外なんていないもの……!
      私にはずっと、亮一しかいなかったもの……
      男なんかいらない……私は亮一がいればいい!
      亮一しかいなくていい!!!」

洋介   「……」

早紀   「うっ…くっ…(声を堪えながら、泣いている)」

洋介   「……ふぅ〜(大きなため息)……自信出たか?」

早紀   「……えっ?」

洋介   「それがお前の本音、お前の気持ちだろ?」

早紀   「私の、気持ち……」

洋介   「はっきり自分で言ったんだぞ、
      亮一がいればいい、亮一しかいなくていい、って」

早紀   「あ……」

洋介   「ただのマリッジブルーだよ、お前の悩みなんて。
      俺の名演技で、無事解決、ひひひ」

早紀   「演技……?」

洋介   「にしても、お前マジ石頭。すっげぇ痛え」

早紀   「あ、ごめん……」

洋介   「ったく、こんな賭けしなきゃよかったよ」

早紀   「……賭け?」

洋介   「泣かせて悪かったけど、怒るなら首謀者に怒ってくれよ?
      俺はただ、賭けに負けただけなんだから」

早紀   「首謀者?」

洋介   「お前がフランスに行ってたら俺の勝ち。
      日本に残ればあいつの勝ち。
      そういう賭けをしたんだよ」

早紀   「……えっ、まさか……」

洋介   「亮一は、お前がフランスに来ないって、わかってたんだよ」

早紀   「……っ」

洋介   「フランスの三ツ星ホテルのディナーを賭けてたんだけどな〜。
      こっちがお前ら二人分奢る羽目になった。
      プラス、お前をどうやってでもフランスに連れて行かなきゃいけない」

早紀   「……」

洋介   「あいつは、お前を見てたんだよ。
      ずっと、ずっと。学生時代からずっとだ。
      ……お前だってそうなんだろ?
      ただちょっと、お互い素直じゃなくて、くっつくのが遅くなっただけだ」

早紀   「……うん」

洋介   「プロポーズの時も、まんまと協力させられたし、
      またこれもかよ……ほんと亮一の読みには勝てねえな。
      あいつ副社長やんねえかな〜」

早紀   「……プロポーズの時??」

洋介   「あれ、亮一から聞いてないか?
      クリスマスディナーつき宿泊券、譲ってやったの俺なんだけど」

早紀   「あ!!! 彼女にフラれた同僚って洋介くん?!」

洋介   「フラれてねえよ!!!
      それがあったら絶対成功するから譲れ、成功しなかったら倍額で買い取るって、
      俺に有利すぎるだろと思ったけど、あいつには確信があったんだよなあ」

早紀   「……そうは見えなかったけど……?」

洋介   「まぁ、さ。
      亮一は、それだけお前のこと、しっかり見てるんだ。
      素直にお前も、亮一の気持ちを信じろ」

早紀   「……うん、わかった……!」

洋介   「……あ。外、雨降ってきたんじゃないか?」

早紀   「梅雨入りしたもんね。
      あ! 傘もってないや、買わなきゃ」

洋介   「明日、空港まで送ってってやるよ。心配するな」

早紀   「ありがとう……」

洋介   「お前らにとってはこれからが結婚みたいなもんだし。
      日本じゃ梅雨だが、あっちは本場で、ちょうどいいんじゃないか?
      幸せになってこいよ。ちょっと酒癖の悪い六月の花嫁さん」

早紀   「……もぉ。ばぁか!」









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