ブルーベリー・バックヤード

作:早川ふう / 所要時間 25分 / 比率 2:2

利用規約はこちら。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。2016.08.26.


【登場人物紹介】

高橋大智(たかはし だいち)
レストランのバイト。ランクはトレーナー。勤続5年。21歳。
厨房ではベテラン。親しみやすい。愛すべき馬鹿。でも今回ちょっとかっこいい。はず。

佐野一彰(さの かずあき)
レストランのバイト。ランクはA。勤続2年。21歳。
毒舌キャラ。ただし、自分でも口の悪さを気にしている。最近刺々しい。

小林彩夏(こばやし あやか)
レストランのバイト。ランクはマネージャー。勤続5年。21歳。
社員業務も任されている。基本はホール。裏表のないさばさばした姐御肌。最近ちょっと悩んでる。

野口静奈(のぐち しずな)
レストランのパート。入って一週間の新人。15歳。高校一年生。
普段控えめにしているだけで、決しておとなしい性格ではない。むしろ積極的。


【配役表】

高橋大智・・・
佐野一彰・・・
小林彩夏・・・
野口静奈・・・


(レストランのバックヤード。
 17時入りのマネージャー小林と新人野口が話している)


小林   「はじめまして、マネージャーの小林です。
      っていっても、大学生のバイトなんで、気軽に何でも話してくださいね」

野口   「野口です、よろしくお願いします」

小林   「えーと、トレーニング三回目ってことで……
      マニュアルDVDは全部オッケーね?
      で、この前はホールに出てみた?」

野口   「はい。バッシングと、トイレ清掃と、最後に少し提供を教わりました」

小林   「松本マネージャーが、確実に丁寧に仕事するタイプだって言ってたよ」

野口   「丁寧に、でも素早くっていうのが難しいですね」

小林   「最初はそうだよね、でも慣れだから」

野口   「頑張ります」

小林   「じゃ、今日はこの前教わったことを復習しつつ、
      提供もどんどん教えていくから。
      もしできそうなら、オーダー取るところまでやっちゃおう」

野口   「わかりました」

小林   「今日は、他の人の動きも見る余裕ができるといいね。
      最初は厳しいかもだけど、他の人の動きや仕事を真似していくと上達早いから」

野口   「あ、それ松本マネージャーにも言われました。
      小林さんの動きを参考にするといいよって」

小林   「あはは〜……(小声)まったくあいつは……
      じゃ、入店処理して、フロアいこっか!」

野口   「はいっ」

(バックヤードからホールへ向かう途中、キッチンから出てきた高橋とすれ違う)

高橋   「お、新人!? 新人だよね?!
      初めまして、トレーナーの高橋です、よろしくね!」

野口   「あ、えと、野口です、よろしくお願いします」

小林   「ちょっと大智、邪魔。
      さっさとどいて馬鹿」

高橋   「ひっでえ!!! なんだよ邪魔とか馬鹿とか!
      あっ、さては彼氏と喧嘩したな!?」

小林   「心の底から余計なお世話!!」

高橋   「おーこえー。
      野口サン頑張ってねー。小林にいじめられたらキッチンに逃げておいで―。
      かくまってやっからさっ」

野口   「は、はい……」

小林   「大智休憩でしょ? さっさといきな!」

高橋   「へーへー。んじゃねー」

野口   「……仲、いいんですね。
      まだ三回目ですけど、社員の人も、バイトの人も、みんな仲いいなって」

小林   「あはは。
      まあ、なんていうか……ほら、こういう仕事だからさ。
      すぐ辞めるか、長く続くかのどっちかっていうか。
      だから、長い子は必然的に仲良くなるよ。……戦友、みたいな!」

野口   「なるほど……」

小林   「てか……あれ。
      佐野が来ないなあ。同じ時間からシフト入ってるんだけど」

野口   「遅刻ですか?」

佐野   「いんや、ギリセーフ!」

小林   「佐野! 遅いぞー!」

佐野   「俺ちゃんと遅れるかもしれませんって店に連絡してあんだよ!
      店長から聞いてねえの!?」

小林   「あれそうだったの?
      メモあったかなあ、ごっめーん」

佐野   「しっかりしろよな。バイトとはいえマネージャーなんだから」

小林   「くっ……こ、この口の悪いのが、佐野。
      佐野、こちら新しく入った野口さん」

野口   「……あ、……野口です、よろしくお願いします」

佐野   「……へー……。お前もバイトする年になったのか」

小林   「え。知り合い?」

野口   「幼馴染です。家が近所で、親同士も仲良かったんで、昔はよく遊びました」

佐野   「遊んだあ?
      面倒みたの間違いだろ。
      お前トロくせーから」

野口   「また面倒みてもらうことになりますね、よろしくねカズ兄」

小林   「カーズーにーいー!? あはは、似っ合わなーい!!」

佐野   「笑うな小林! ……ったく新人が生意気なんだよッ!」(頭ぐりぐりする)

野口   「わわわっ」

佐野   「うりうりうりっ」

野口   「ちょ、帽子とれちゃうー!!」

小林   「……はいカズ兄髪の毛触ったから手洗いやり直しー!」

佐野   「っ……うっせ!!! てかカズ兄言うな!!!」

小林   「早く洗ってこーい」

佐野   「わーったよ」

野口   「……なんか、カズ兄……あ、カズ兄って呼ぶのまずいですよね。すみません。
      佐野さん、荒れてませんか?」

小林   「……あ、やっぱそう見える?
      もともと危なっかしいとこのあるヤツだけど、ちょっとこの頃ひどいんだよね」

野口   「……そう、なんですか……」


(バックヤードに戻ってくる佐野。高橋は休憩中)


高橋   「あれ、佐野、忘れ物?」

佐野   「いや、手洗いのついでにちょっと戻ってきただけ」

高橋   「ふーん。あ、俺賄いドリア食いたいから作っといて」

佐野   「またそれかよ。お前そればっかだな」

高橋   「好きだからいーんだよッ」

佐野   「……好きだからいい、か……」

高橋   「ん? どうした?」

佐野   「別に……」

高橋   「……おいどうしたんだよ」

佐野   「……あーーーくそっ、こんなこと考えてんの柄じゃねえんだよッッ」

高橋   「お、おい……??」

佐野   「……ドリア作ってくる」

高橋   「お、おう、頼むわ……」

(ホールがひと段落してバックヤードに戻ってきた小林。
 休憩中の高橋と、絶不調の佐野の話題に)

小林   「ふーん……なるほどねー。佐野の不調の原因は失恋かー」

高橋   「……派手にグラス割ってたし、昨日はオーダー2回もミスってる。
      これ、俺が話したって、バラすなよ?」

小林   「わかってる。
      ……でも、さすがにそこまでプライベートな事だとねー、
      こっちが何かフォローするわけにもいかないね……」

高橋   「そうだよなあ……」

小林   「しかも相手がすーちゃんだったとは……。
      それじゃ仲間内で元気づけることもできないし、まいったなー」

高橋   「あいつらやっとうまくいったんだし、そこに水差すのもなー。
      かといって俺たちだけだと、やっぱわざとらしいし」

小林   「だよねー。
      こういうときマネージャーってランクは邪魔だなあ」

高橋   「優衣が話を聞いた時、フォローしたらしいんだけどさ。
      こういうのって本人がうまく消化できなきゃ意味ねーよな?」

小林   「そうだね……。
      バイト内恋愛禁止じゃないと、こういうとき気を遣うねぇ」

高橋   「でも、何とかしてやりたいよな」

小林   「うんうん」

野口   「……あの」

小林   「あ、野口さん。っともうこんな時間か。
      補充終わったかな?」

野口   「はい。それで一応店長から、今日はあがっていいって言われたので」

小林   「そっか。混んでる?」

野口   「いえ。でも……カズ兄……えっと、佐野さんが、」

高橋   「佐野がどうかした?」

野口   「食材のボウルをひっくり返しちゃって、それで仕込みをやり直してるので、
      店長がこれじゃ俺あがれないーって言ってました」

高橋   「まじかー……やべぇなー。
      てか、あれ。野口サン、佐野と知り合い?」

野口   「幼馴染で」

高橋   「へー。
      さーて俺もそろそろ後半戦かー、佐野のフォローしにいくかねー」

小林   「大智、このごろロング多いよね」

高橋   「んー、まぁ、ほら、優衣の誕生日のために?」

小林   「あーハイハイご馳走様! さっさといけ!」

高橋   「小林も、はやくマネージャーと仲直りしろよ!?」

小林   「う・る・さ・い!!」

高橋   「早く発注終わらせろよー」

小林   「蹴られたいか!」

高橋   「はははー! 野口サンまたねー!」

野口   「あっお疲れ様です」

小林   「……なんかごめんねー。
      仲いいですねーって言ってた話のあとに、
      こういうごたついてるとこ見せちゃって……」

野口   「いえ……。
      あの、ここってバイト内恋愛禁止じゃないんですね。
      そこにびっくりしました」

小林   「あー、社員は禁止なんだよほんとは。
      だから……ごめん、店長も黙認してるとはいえ、私がルール破ってるのはやっぱまずいね……」

野口   「そんな、誰も責めませんよ」

小林   「まぁ私のことはともかく……結構みんな仲がいいから、カップルも必然的に多くなるんだけど。
      恋に敗れる者も出てくるわけで、そうするとこうなるのよね。
      これで佐野が辞めちゃわないといいんだけど……」

野口   「カズ兄、……失恋、したんですか」

小林   「まぁ、思いっきり玉砕したわけじゃないみたいなんだけど。
      好きな人を諦めなくちゃいけなくなったのは事実だから。
      つらいとこだよね」

野口   「そうですか……」

小林   「……なんか、この流れで聞いちゃうのもあれなんだけど、
      野口さん彼氏は?」

野口   「いません」

小林   「好きな人は?」

野口   「……います」

小林   「……それって……」

野口   「……お察しの、通り、ですけど」

小林   「あっ、やっぱりそうなんだ……!」

野口   「……年も離れてるし、妹扱いされればいい方で、いつもガキんちょ扱いで。
      だから、……どうにかしたくて。
      高校生になってアルバイトできるようになったから、
      カズ兄と一緒にと思って、ここに来たんです」

小林   「そっかあ……そっかあ……!!
      あ、変な意味じゃなくてさ。
      こういう時に想ってくれる誰かがいるだけで救いだなって思ったからさ」

野口   「救い……」

小林   「まぁかくいう私もそのパターンなんだけどねっ。
      だからちょっと、安心したわ。
      野口さんがいるんなら、佐野も大丈夫だね」

野口   「でも、全然気付いてもくれないし、きっとそんな対象として見たことすらないと思います」

小林   「……まぁ、それはほら、タイミングってのがあるから」

野口   「タイミング……」

小林   「協力なら、いつでもするからねっ」

野口   「ハイ、お願いします」

小林   「あ、でも、うまくいかなくてもバイトは辞めないでほしいナー……」

野口   「大丈夫です、私は絶対辞めませんから」

小林   「そっか。よかった。
      でも問題は佐野なんだよねー」

野口   「そう、ですね……」

小林   「……まぁ、これはそのうちなんとかするよ。
      今日の仕事、よく復習しておいてね。
      今日までは二時間で短いシフトだけど、次からはがっつり入るし、
      いつも誰かがそばにいるわけじゃなくなるから」

野口   「はい、わかりました、お疲れ様でした!」

(休憩が終わってキッチンへ行く高橋。
 元気のない様子の佐野に声をかける)

佐野   「はぁ……」(小さくためいき)

高橋   「佐ー野っ」

佐野   「……おう」

高橋   「……暗ッッ」

佐野   「うっせ」

高橋   「仕事中に仏頂面してんなよ」

佐野   「これが地だっつーの」

高橋   「んなわけあるか」

佐野   「あーもーほっとけよ!! 幸せなお前にはわかんねーから!!」

高橋   「……。はあ……」(深いためいき)

佐野   「……なんだよ」

高橋   「見苦しい」

佐野   「なっ」

高橋   「仕事ミスしまくって、他人に八つ当たりして。
      お前何してんだよ?」

佐野   「……っ」

高橋   「同じ年だけど、俺は一応先輩でランクだって上。
      その口の聞き方はいくらなんでもおかしいだろ」

佐野   「う……」

高橋   「そりゃ俺にはお前の気持ちはわかんねーよ。
      けどさ、お前が選んだことだろう!?」

佐野   「……」

高橋   「お前が色々考えて、選んだことなんだろう!?
      全部自分が抱えるって、自分が決めたことなんだろう?!
      意地張り通せよ!!」

佐野   「なっ……」

高橋   「そのままお前がつぶれりゃ、何があったなんて詮索もされるだろ。
      結局みんなにバレんぞ。
      お前が一番隠したかったヤツらにもバレて、全部台無しになってもいいのか?
      それじゃ意味ねーだろ。しっかりしろよ!!」

佐野   「……るせぇ」

高橋   「言われたくなきゃ仕事はちゃんとしろよな」

佐野   「……あーーーーックソ!!
      お前に説教されるなんて、一生の不覚だ!!」

高橋   「なんだと!?」

佐野   「……悪かった。……ちゃんとする」

高橋   「……気持ちはわかんねーけど、しんどいのはわかる。
      だから何かあったら言えよ。
      助けられることならいくらでも手を貸すから」

佐野   「……サンキュな。
      ……お前も、お前の彼女も」

高橋   「ぅあっ……」

佐野   「話、聞いたんだろ」

高橋   「……わ、悪い。いやつい見てられなくて……。
      あいつが口軽いとかそういうわけじゃねーんだ、誤解すんなよ?」

佐野   「しねーよ。
      これは俺が悪いから。
      ……頭冷やすよ」

高橋   「みんな心配してるんだ。
      ……野口サンもな。新人に心配されてどーすんだよAランクが」

佐野   「…………ごめん」

高橋   「……とにかく、さっさと仕込み終わらせちまおう」

佐野   「助かる。……ありがとな」

高橋   「おう」

(営業終了後。
 佐野はゴミ捨て、高橋は一足先にバックヤードに戻ってきている。
 小林は社員業務をやりつつ、締め作業中)

高橋   「ってことで、俺もフォローしたんだぜ。
      あのあとは佐野もそこまでミスもなかったから、俺のおかげー(ドヤ顔)」

小林   「そこで俺のおかげーとかバカなこと言わなきゃ、素直に礼を言ったものを」

高橋   「いやそこは素直に礼を言えよ!!」

小林   「はいはいありがとね」

高橋   「まぁ……最後は本人次第だけどさ、とりあえず、野口サンだっているんだし?
      だいじょぶじゃね?」

小林   「まぁ、それを高1の彼女に押し付けるのもどうかと思うけど。
      しばらくは様子見ましょ」

高橋   「んで、お前もだよ」

小林   「え?」

高橋   「本人次第、ってやつ。
      ……お前も、悩んでんだろ」

小林   「……。なんで?……聞いたの?」

高橋   「いや。
      つか聞かなくてもわかるよ。
      お前とは長くコンビ組んできたんだし」

小林   「……そう。私、仕事に出てた?」

高橋   「いや?
      ……でもわかる」

小林   「……そっか……」

高橋   「あのな。……あーもー。今日は説教の日だな! とことん言ってやる!!」

小林   「何をよ」

高橋   「小林はな、考えるだけ無駄なんだよ」

小林   「はあ!?」

高橋   「だってもうあと少しじゃねーか。
      お前たちが一緒に働けるのもさ」

小林   「……」

高橋   「もともと社員はエリアで異動があるんだから、
      マネージャーだってそろそろだろ。そんなに先の話じゃない。
      お前が責任感の強いやつなのは知ってるけど、
      恋愛禁止のルールを破ったのは、お前じゃなくてマネージャーなんだし、
      それに甘えた自分も同罪とかそういうつまんねーこと、もう忘れろよ。
      んなことぐだぐだ考えて喧嘩してる方が、よっぽど時間無駄にする。
      ……出会えて、一緒にいられるこの有限の時間を大事にしろよ」

小林   「なんで、そうズバズバ言い当てるかなあ、人の心の内を……」

高橋   「だからまるわかりなんだっつーの。
      お前が悩んでるから口出さないだけで、きっとマネージャーだってわかってるよ。
      わかってて待ってんじゃねーの。
      お前がちゃんと自分と付き合っていく覚悟を決めるのを、さ」

小林   「……!
      そっか、私が今悩んでると、結果的に颯太(そうた)にも失礼なんだ……」

高橋   「そういうこと!
      でも、お前が真面目で、責任感あるから悩むってこともわかってるから、
      マネージャー何も言わねーで待ってんだよ」

小林   「……あ……待ってて、くれてるのか……。
      言わないのも、男らしさなんだね、そういうのもあるんだね」

高橋   「つーかそれをわかってる俺のことも褒めろよ」

小林   「えー大智はなーー……」

高橋   「オイ!!」

小林   「あはは、うそうそ。
      なんか、大智もしっかりしちゃって、ちゃんと男なんだなあって思ったよ。
      優衣ちゃんのおかげだね、感謝しなきゃ」

高橋   「……普段お前が俺をどう見てるのかよーくわかったわ……」

小林   「へへっ、大智のくせに生意気なんだよーっだ」

高橋   「このやろっ」

佐野   「なにじゃれてんだ?」

小林   「あっ佐野、おつかれー! 終わった?」

佐野   「ん、クローズ作業完了。お疲れっす」

高橋   「お疲れーっ」

小林   「ね、先にとっととあがった大智が言うと、何かイラつかない?」

佐野   「確かに」

高橋   「なんだよー、俺はちゃんとやることやったぞー!」

小林   「んじゃ、勤怠管理確認して……っと……
      帰りますかーーー!」

高橋   「なんっかすっきりしない……俺だけ損な役回りのような気がするぞーーー!!」

佐野   「うるせえ。帰るぞ」

(帰り道)

佐野    ……みんな、悩んでんだな。
      うっかりちょっと立ち聞きしちまったけど。
      ……何かしら、みんなそれぞれ、抱えてる。
      そういうもんなんだな……。

野口   「……カズ兄」

佐野   「うっわ!??!?」

野口   「驚いた?」

佐野   「おま、何やってんだよ!!
      高校生が出歩く時間じゃねーぞ!!」

野口   「今終わったの?」

佐野   「まぁそりゃあラストまでだったから」

野口   「こんな遅くまで大変なんだね」

佐野   「別に。休み中とか、午後から授業の時位しか入らねーし。
      深夜手当も出るから結構いいぞ」

野口   「そうなんだ……」

佐野   「……どうした?」

野口   「まだ遠いか。やっと追いつけたと思ったんだけどな」

佐野   「何に?」

野口   「……年の差は、どうやったって埋まらないけど、
      でも、同じところで働けるくらいにはなったんだよ、って話」

佐野   「……は?」

野口   「今日はね、宣戦布告しようと思って、待ってたんだ」

佐野   「宣戦布告って……」

野口   「(背伸びをして軽くキスをする)」

佐野   「うわああ!?!??! ななななななにを……!!」

野口   「誰かを見てるのは、もうしょうがないと思ってる。
      ……私を見てくれてないのも、最初からわかってたから。
      でも、これから、見てもらえるように、頑張るつもりだから。
      覚悟してて」

佐野   「……」

野口   「……そ、それだけ、だから。
      じゃあ、帰るね。また、ね! バイバイ」

佐野   「……お静(おしず)!」

野口   「……ううぇ!?」

佐野   「お静のくせに生意気なんだよ。
      いい女の振りするなんざ100万年早い」

野口   「……」

佐野   「……お静、か。……変な名前で呼んでたよな。
      ちっとも恰好つきやしねえ」

野口   「……そ、そうだね」

佐野   「……はぁ……」

佐野   (恋愛は素直になったもん勝ち、か……。
      なんだよ、こいつだって、立派に恋してるってことか……?)

野口   「カズ兄……?」

佐野   「……なんでもねーよ」

野口   「怒ってるの……?」

佐野   「怒ってねえよ。
      ……ただ……」

野口   「?」

佐野   「……お前のコト、ちゃんと名前で呼ぶ日が来るかもな」

野口   「えっ……」

佐野   「そんな日が来るように、とりあえず頑張ってみろよ」

野口   「……カズ兄……」

佐野   「言っとくけど、俺は手ごわいからな」

野口   「……へへ、望むところだよ!」

佐野   「抜け出してきたんだろう、怒られる前に早く帰って寝ろ」

野口   「うん!」

佐野   「仕事、頑張れよ」

野口   「ありがとう!! ……大好きーー!!!」

佐野   「ハイハイ、またな!」









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