【登場人物紹介】
浩太(こうた)
高校生。昊良とは友達同士。
会社員の彼氏に浮気された挙句捨てられ落ち込んでいる。
素直で少し真面目な性格。
昊良(そら)
高校生。浩太とは友達同士。
年上の彼氏がいた経験もあるが今はフリー。
少しぶっきらぼうな物言いをするが、暗いわけではなく、根は優しい。
【配役表】
浩太・・・
昊良・・・
(放課後の屋上)
浩太 「はぁ……」(溜息)
昊良 「あ、こんなとこにいた」
(ひとり黄昏れている浩太のところに昊良がやってくる)
浩太 「はぁ……」(大きな溜息)
昊良 「こーうた。帰らないの?」
浩太 「あぁ、昊良か」
昊良 「屋上なんかで、くそでか溜息吐いちゃってさ、いったいどうしたの」
浩太 「どうもしてないけど、溜息は無意識。やばい俺病んでるかな」
昊良 「悩み事?」
浩太 「いや、悩み事っていうか……」
昊良 「よかったら話聞くけど」
浩太 「迷惑でなければ聞いてほしい気もするけど……でも、うーん」
昊良 「もしかして恋愛絡みだったり?」
浩太 「うぅ、正解。最近、浮気されて別れたんだよね」
昊良 「ああ、それはつらかったね」
浩太 「男見る目ないなって、結構へこんだ」
昊良 「男?」
浩太 「ん? ……あっ、いや、えっと、ごめん、ちがう、えっと」
昊良 「浩太、男と付き合ってたの?」
浩太 「それは……」
昊良 「そんな顔すんなって。
同性と付き合うなんて、今どき珍しくもないだろ」
浩太 「いや、そうは言ってもさ」
昊良 「それに、実は俺も同じだったりするし」
浩太 「え、昊良も!?」
昊良 「だから大丈夫。
誰にも言わないから安心して。
そのかわり、俺のことも、内緒でよろ」
浩太 「うん、わかった。ありがとう」
昊良 「で、その浮気した彼氏って誰? 同じ学校のやつ?」
浩太 「んーん、会社員」
昊良 「あー年上かあ」
浩太 「昊良は年上と付き合ったことある?」
昊良 「大学生とだったらあるよ。結構すぐにだめになったけど」
浩太 「昊良でもだめだったんなら、俺なんか最初から無理だよなあ」
昊良 「そんなことないって」
浩太 「……年上ってやっぱ難しいよね」
昊良 「人によると思うよ」
浩太 「そっかー。うーん。
なんか、どんどん愚痴っぽくなっちゃいそう」
昊良 「いいよ、遠慮しないで何でも言って」
浩太 「ありがとう。
でも、いざ話そうとすると、どこから話したらいいか悩むね」
昊良 「会社員の彼氏とは、どこで知り合ったの?」
浩太 「マッチングアプリ」
昊良 「あーね」
浩太 「でも、相性は、そんなによくなかったかもしれないなあ」
昊良 「まぁ所詮はアプリだから」
浩太 「彼氏さ、俺の話って全然聞いてくれなかったんだよね」
昊良 「どうして? 忙しいとか?」
浩太 「んーん、聞く価値ないって」
昊良 「は?」
浩太 「俺みたいな子供の言うことは、聞く価値もないって言われててさ」
昊良 「その彼氏、いくつの人?」
浩太 「26」
昊良 「言うほど大人って年でもない説」
浩太 「外で働いてる俺と学生のお前じゃ天と地ほどの差がある、って言ってた」
昊良 「何だそれ」
浩太 「いい大学出て一流企業に入ったすごい人なんだよ。
俺の為だって言って、色々なこと教えてくれたんだけど、
俺、全然内容理解できなくてさ、
馬鹿だなっていつも言われてて……どんどんつらくなっちゃって。
俺自身、彼氏の為にできることが何もないのもしんどくて」
昊良 「ごめん待って。訊きたいことありすぎて渋滞してるわ」
浩太 「訊きたいこと?」
昊良 「えーと、まず、浩太の為に教えてくれたって、何を?」
浩太 「世の中とは、とか、大人とは、とかそういう感じのことかな。
俺がわからないからいつも怒らせてて。
質問とかも、しちゃいけなかったんだよね。
子供は大人の言うこと聞いてないといけないから、口挟むの禁止でさ」
昊良 「それ、所謂モラハラってやつでは?」
浩太 「モラハラ?」
昊良 「別れて正解だと思う。
そんなやつの言うこと聞く必要まったくない、全部忘れろ」
浩太 「忘れろって言われても……」
昊良 「世の中とはこういうもので、大人とはこういうものだから
子供は黙って言うこと聞いとけ、口挟むのは禁止です。
もしこれを自分の親が言ったらどう思う?」
浩太 「親が……んー、変だなって思うかな。
うちの親は『浩太はどう思う?』って訊いてくれる人達だし」
昊良 「そう、それが普通なんだって。
人はみんな違う生き物だし、それぞれ考えを持ってるし、
それらを否定する権利は誰にもない。
本気で言ってる親がいたら毒親もいいとこだ。
恋人に強要してたなら、それは立派なモラハラ野郎。
さっさと離れてよかったんだよ」
浩太 「彼氏、普通の人だったんだけどな」
昊良 「最初はみんなそうなんだよ。
でも実はその中身は全然普通じゃないっていう。
浩太の意見とか気持ちとか、まるっと無視するのが普通なわけないだろ」
浩太 「……そっか……」
昊良 「最近付き合い悪かったのってその男に振り回されてたせい?」
浩太 「会う時間とか、やっぱり夜になっちゃうし、
そうすると、課題とか家の手伝いとかできなくなっちゃうから……」
昊良 「尽くしてたんだね」
浩太 「そんな……何も、できなかったよ。
彼氏なのに意味ない役立たずっていつも言われてたし」
昊良 「そんなことないって。
むしろ恋人にそんなこと言える方がおかしいから。
そいつこそ彼氏の意味ないって思わなかった?」
浩太 「……」
昊良 「浩太は浩太のままでいいんだよ。
役立たずだなんて、そんなこと絶対にないからな」
浩太 「……そう、かな」
昊良 「そうだよ」
浩太 「はは……なんか、弱ってる時のそういう優しい言葉って、やばいね。
全肯定してくれるなんて思わなかった。ちょっと泣きそう」
昊良 「泣いてもいいよ」
浩太 「さすがにそれは恥ずかしいや」
昊良 「へぇ……」
浩太 「……何?」
昊良 「浩太のそういうとこ、いいね」
浩太 「え?」
昊良 「がんばりやなとこ。自分がつらいのに遠慮しちゃうとこ。恥ずかしがりなとこ」
浩太 「何がいいのかさっぱりわからないんだけど」
昊良 「つまり、可愛いってこと」
浩太 「かっ、可愛い!?
んなことさらっと言うなよ、照れるだろ!」
昊良 「照れるんだ?」
浩太 「照れるよ……」
昊良 「はは、浩太すっげー可愛い」
浩太 「だから! 言うなって言ってるのに!」
昊良 「そう思ったから言ってるだけなのに」
浩太 「悪ふざけがすぎる!」
昊良 「そう?」
浩太 「うん」
昊良 「しょうがないな。そういうことにしておいてあげよう」
浩太 「何だよ、思わせぶりに言いやがって。
俺が勘違いしたらどうするんだよ」
昊良 「んー、俺的にはさ、モラハラ浮気野郎のことなんか早く忘れてほしいわけ。
浩太が悲しむ必要まったくないんだからさ」
浩太 「でも……俺なりに好きだったし、やっぱ別れたのは悲しくて」
昊良 「モラハラ浮気野郎相手でも? 悲しいか?」
浩太 「それは……、」
昊良 「浩太みたいな優しいやつに限って変な男に引っかかるんだよなあ」
浩太 「昊良は、うまくいかなかった恋愛を引きずることってないの?」
昊良 「ないね」
浩太 「それはそれで羨ましい」
昊良 「そう? 薄情とかよく言われるけどね。
うまくいかなかったことは、考えても意味ないって思ってるし。
だからすぐ気持ちもリセット、次の出会いとか探すし」
浩太 「そういうのシンプルでいいなあ」
昊良 「浩太は愛が深そうだから、こういうの難しいんじゃない?」
浩太 「俺って愛が深そう?」
昊良 「うん。めっちゃ深いでしょ」
浩太 「俺は……愛した分だけ相手からも愛してほしいって思うだけだよ。
こういうのって愛が深いっていうより、重いっていわない?」
昊良 「んー、ライトな関係を好む人も多いし、重いって人はいるかもしれない。
でも、嬉しいって人も一定数いると思うよ」
浩太 「そっか」
昊良 「俺とか嬉しいタイプだけどね」
浩太 「うわ、調子いいな」
昊良 「ほんとだって」
浩太 「えー」
昊良 「ただ愛されたいっていう、シンプルな話だよ」
浩太 「……うん」
昊良 「俺、あんまり本気の恋愛に選ばれないタイプでさ」
浩太 「そうなの?」
昊良 「手軽に遊ぶにはちょうどいいんだろうけどね。
どうしてか、たったひとりには選んでもらえないんだ」
浩太 「……たったひとりでいいのにね。
たったひとりでいいから、深く深く愛されたら、絶対幸せなのに」
昊良 「そう。そしたらこっちだってめっちゃ愛するのにってね。
……ま、現実そんなにうまくいかないから、
俺もフリーだし、浩太は失恋して泣いてるわけだけど」
浩太 「泣いてないから」
昊良 「泣いていいよって言ってるのに。
それとも啼かされたい?」
浩太 「おい! それは俺でもわかるぞ、意味が違うだめなやつ!!」
昊良 「あ、よかった、伝わってる。で、どうよ?」
浩太 「いやいや待ってよ。
俺、こんな気持ちでいるのに、誘われても困るって」
昊良 「困るかあ。困らせたいわけじゃないんだよなあ。
もっとシンプルに考えられない?」
浩太 「シンプルにどう考えろと?」
昊良 「浩太は俺のこと嫌い?」
浩太 「嫌いじゃないよ。嫌いだったらこんなに話してない」
昊良 「じゃあ好き?」
浩太 「好きか嫌いかでいえば、好きだよ」
昊良 「手」
浩太 「手?」
昊良 「手、出して」
浩太 「え、うん」
(浩太の手をおもむろに触る昊良)
昊良 「俺に手、触られてどう? 嫌?」
浩太 「別に、嫌じゃないけど」
昊良 「つまり生理的に無理ってわけでもない。
嫌いでもない、むしろ好き。
ってことは、俺とするっていう選択肢があってもよくない?」
浩太 「す、する!?!?」
昊良 「そう。俺と、どう?」
浩太 「一応訊くけど、何をするの?」
昊良 「することは一つだと思わない?」
浩太 「いやいやいや、ここ学校なんですけど!!」
昊良 「でも放課後だし。誰もいないし」
浩太 「誰か来たらどうするつもりなんだよ!」
昊良 「さすがにこの時間から誰も来ないでしょ、みんな帰ったよ」
浩太 「……確かに、屋上なんかに来ないか」
昊良 「どうする?」
浩太 「いやいや……ちょ、ちょっと、いったん待って」
昊良 「なに」
浩太 「こういうとき……どうするのが正解?」
昊良 「さあ。正解なんてないんじゃない?
浩太のしたいようにすればいい」
浩太 「そんなの、わからないよ」
昊良 「わからないの?」
浩太 「わかるわけ、ないよ」
昊良 「うん、可愛いね」
浩太 「何がだよ。可愛いって言っておけばいいと思ってるんだろ」
昊良 「そんなことない。
浩太のそういうところ、ほんと可愛いなって思う」
浩太 「嘘つけ、つまらないの間違いだろ」
昊良 「それ、モラハラ浮気野郎に言われた?」
浩太 「え? ……うん」
昊良 「マジでイラつくわ。
そいつ浩太のいいところ全部否定してるだろ」
浩太 「そんなことは、ないと思うけど」
昊良 「庇うの? 今もそんなに好き?」
浩太 「好きかって訊かれると微妙だけどさ……」
昊良 「あーもうあんなやつのことなんて、考えるな思い出すな!」
浩太 「昊良が話題に出したくせに」
昊良 「俺のことだけ考えてよ」
浩太 「何だそれ、我儘だな」
昊良 「それはごめん」
浩太 「素直か」
昊良 「で。俺のことだけ考えてくれる?」
浩太 「うーん、いいけど、どうやって? 難しくない?」
昊良 「そうかな。意外と簡単そうだけど」
浩太 「簡単、かなあ」
昊良 「浩太」
浩太 「んー?」
昊良 「キスしていい?」
浩太 「え? な、なんで?」
昊良 「したいから」
浩太 「し、したいって……」
昊良 「いい?」
浩太 「だ、だめ!」
昊良 「何でだめなの?」
浩太 「何でって、だって、……」
昊良 「だって?」
浩太 「……」
昊良 「いきなりするよりかは、ちゃんと訊いてからした方がいいと思ったんだけどな」
浩太 「いきなりなんて、もっと無理っ!
……まって、ほんと待って、だめだって」
昊良 「何がだめ?」
浩太 「……うん。はい。ちゃんと、頭の中昊良だけになりました」
昊良 「おお、よかった」
浩太 「でも、やりすぎ」
昊良 「そうかな。押し倒すっていう選択肢もあったんだけど」
浩太 「もっとだめ!! ここ学校って何度言えばいいんだよ!」
昊良 「学校じゃなきゃいい、ってこと?」
浩太 「そ、そうじゃなくてっ……
付き合ってるわけでもないのに、そういうことするのはおかしいって言ってんの!」
昊良 「浩太らしいね。やっぱり順番気にするんだ」
浩太 「昊良はさ、どうしてそういうのできるの」
昊良 「ん? そういうのって?」
浩太 「だから、こういう、なんていうか、
やりとりっていうか、駆け引きっていうか」
昊良 「俺はそんな駆け引きとかできるわけじゃないよ。
これでも今は焦ってるし」
浩太 「焦ってるの? どうして?」
昊良 「愚痴聞くだけのつもりが、
それだけで終わりにできない自分がいるからさ。
難しいよね、恋ってちっとも思うようにならない」
浩太 「え、……恋、なの?」
昊良 「くそでか溜息吐いてる友達の横顔にきゅんときました。
友情から恋に発展するなんて、初体験だ」
浩太 「……もしかして今、俺、告られてる?」
昊良 「そうだね」
浩太 「やば……」
昊良 「……浩太、俺と恋愛してみない?」
浩太 「そこは、付き合ってみないとかじゃないんですか」
昊良 「そっちの方が好き? 言い直す?」
浩太 「いや、いいけど別に」
昊良 「俺と付き合ってみませんか」
浩太 「言い直されたところで……無理、だよ。
俺、まだ、元彼のこと忘れてないし」
昊良 「最初はそれでもいいよ。
俺と付き合ってるうちにさ、すぐ忘れるって」
浩太 「そう、かな」
昊良 「それに、すでに一歩前進してるし」
浩太 「え?」
昊良 「浩太は最初、モラハラ浮気野郎のこと彼氏って言ってたけど、
今は、元彼って言ってるから」
浩太 「えーマジか、無意識だった」
昊良 「ということで。
さすがにここで押し倒すのはやめとくからさ、
キスくらいはしていいよね?」
浩太 「へ!? いや、えっと」
昊良 「押し倒していいんなら、喜んで」
浩太 「待ってそれはほんとに無理!!!」
昊良 「じゃあキス」
浩太 「キス……」
昊良 「すぐ終わるよ」
浩太 「すぐって言ったって」
昊良 「すぐ終わらないキスでもいいならそうするけど」
浩太 「よくない!
もうほんと勘弁してよ色々パンクするから!!」
昊良 「いいから、そのまま目閉じてて」
浩太 「っ……!」
(昊良、浩太に軽いキスをする。リップノイズ入れられるなら入れてください)
昊良 「……嫌だった?」
浩太 「……嫌じゃ、ない」
昊良 「よかった」
浩太 「……よくない」
昊良 「だめだった?」
浩太 「めちゃくちゃドキドキしてるんだけど、どーしてくれるんだよ」
昊良 「ははは、可愛い」
浩太 「馬鹿野郎」
昊良 「ごめんって」
浩太 「昊良って、いちいち軽いんだよなあ」
昊良 「軽いかな」
浩太 「ま、まぁ、そう見えるかな」
昊良 「すげー心外」
浩太 「え?」
昊良 「……このまま口説いていいなら口説くけど?」
浩太 「えっ!?」
昊良 「もっといっぱい、それこそ心の底からドキドキさせて、
俺のことしか考えられなくさせてもいいんだけど?」
浩太 「どーして、そういうこと言うかなあ!」
昊良 「あえて軽く言ってあげてるっていうの、わかってなさそうだから」
浩太 「素朴な疑問だけど、どうして軽く言う必要があるの?」
昊良 「どうしてってそれは……」
浩太 「……昊良?」
昊良 「はー……」(溜息)
浩太 「今度は昊良が溜息?」
昊良 「……ごめん。それは俺の問題だった」
浩太 「どうしたの?」
昊良 「……んー、……話せないわけじゃないんだけど」
浩太 「話したくないなら無理しなくていいよ」
昊良 「いや、話すよ。俺の地雷について」
浩太 「地雷……何かあるの?」
昊良 「まぁね。大したことじゃないけど」
浩太 「昊良にとっては、大事なことなんでしょ」
昊良 「まぁ、うん」
浩太 「聞くよ」
昊良 「……俺さ、浮気相手にされるの、もう嫌なんだよね」
浩太 「……ん? どういうこと?」
昊良 「さっき本気の恋愛に選ばれないって言ったけど、
都合のいい二番目の男にはなりやすくてさ。
結構揉めたこととかもあって、しんどくて、もう無理だなって」
浩太 「それは、誰でもしんどいと思うよ」
昊良 「浩太さ、もし万が一、モラハラ野郎とよりが戻ることがあるなら、
俺とはきちんと距離とってからにしてほしいんだ。
二股とか、無理だし。
埋め合わせ要員にされるの、ほんと、きついしさ」
浩太 「……よりが戻るっていうのは、ないと思うんだけど」
昊良 「頭では違うってわかってるんだ。
浩太が俺にそんなことするわけないって」
浩太 「うん、絶対しないよ」
昊良 「でも、忘れられない相手がいて、そこに俺が入り込んでるんだから
くそでか溜息の横顔に惚れた以上、
たとえそうなったとしても、しょーがないから。
でもやっぱどこか、ちゃんと付き合うまではって意味で、
予防線張って、軽く言っちゃってたんだと思う。ごめん」
浩太 「あの、ちょっと、さ」
昊良 「何?」
浩太 「気になったこと訊いていいかな。
……埋め合わせ要員て、どういうこと?」
昊良 「あー、寂しい時にあたためてくれる相手?
一時しのぎっていうか、空いた穴を埋めるのにはちょうどいいって、
前に言われたことがあったんだよね」
浩太 「は? ……むかつく」
昊良 「え」
浩太 「昊良のこと都合よく使ってんじゃねーよ!」
昊良 「……」
浩太 「あ……なんか、ごめん」
昊良 「いや、ありがとな。
浩太が怒ってくれるなんて思わなかったから嬉しい」
浩太 「へへ……ちょっといらついちゃった」
昊良 「でも俺は大丈夫。
うまくいかなかった恋愛は全部忘れてるからね」
浩太 「……シンプル、だね」
昊良 「うん。俺はいつもシンプル」
浩太 「……シンプルイズベストって言うよね」
昊良 「無難とも言うけどな」
浩太 「……なんかさ。
昊良と、付き合えるかどうかはわからないけど、
一緒にいたいって思ったよ」
昊良 「え?」
浩太 「俺なら、埋め合わせ要員だなんて、そんなこと絶対しないのにって。
悲しい顔させないし、言わせないのにって」
昊良 「待って。……もしかして俺、告られてる?」
浩太 「かもね」
昊良 「でも、付き合えるかどうかはわからないんだ?」
浩太 「だって、キスされて好きになった、っていうのも、おかしくない?」
昊良 「おかしくないんじゃね」
浩太 「そうかなあ」
昊良 「まあいいや。気長にいくよ」
浩太 「そうして。俺もそうする」
昊良 「なんか、浩太とのんびり恋愛するのも悪くないかも」
浩太 「昊良とだったら、あったかい恋愛できそうな気がしてきた」
昊良 「おう任せろ」
浩太 「あー……いい空だねぇ」
昊良 「やめろ照れる」
浩太 「昊良のことじゃないよ。天気の話」
昊良 「明日も晴れるかな」
浩太 「晴れるんじゃない、知らんけど」
昊良 「……浩太」
浩太 「んー?」
昊良 「付き合おう」
浩太 「……気長にいくんじゃなかったっけ?」
昊良 「それはそれ。適度に口説き続けるから」
浩太 「はは、毎日ドキドキだね」
昊良 「浩太も口説いてくれていいんだよ」
浩太 「ハードル高いよ」
昊良 「何事も練習あるのみ」
浩太 「えー、じゃあ、そのうち」
昊良 「待ってる」
浩太 「あ……今の声の響き、好きだな」
昊良 「え?」
浩太 「昊良の声って、なんかいいよね」
昊良 「そうくるか。想定外だ」
浩太 「想定外って?」
昊良 「うん。だめだ。浩太には勝てないね」
浩太 「勝ち負けとかあるの?」
昊良 「そんなこと言われちゃどんな駆け引きも意味ないよ。
はー、俺、この声でよかったー」
浩太 「昊良って面白い」
昊良 「浩太ほどじゃないよ」
浩太 「俺は面白くなんて、」
昊良 「俺がそう思うからいいの」
浩太 「うん、そうだね。
……そろそろ帰ろっか」
昊良 「ん、もういいの?」
浩太 「じゅうぶん元気出たから。ありがとう、昊良」
昊良 「別に、何もしてないよ」
(間)
(昇降口)
浩太 「今日、昊良と話せてよかった」
昊良 「それは俺も」
浩太 「そっか。そういえば、どうして俺のところ来てくれたの?
何か用事とかあった?」
昊良 「いや、そういうわけじゃない」
浩太 「ふぅん」
昊良 「はー……、明日も晴れだな」
浩太 「うん? そうだね、きっと」
昊良 「雨が降ってても、晴れだよ」
浩太 「……そうだね。俺も、そう思う」
昊良 「……浩太」
浩太 「うん?」
昊良 「…………付き合おう」
浩太 「ふははっ」
昊良 「笑うなって」
浩太 「これ俺が頷くまで終わらなそう」
昊良 「……かもね」
浩太 「昊良って自転車だっけ?」
昊良 「ああ、うん。浩太は電車だろ」
浩太 「うん」
昊良 「電車っていいよなあ。俺定期ってちょっと憧れる」
浩太 「へぇ……昊良も可愛いこと言うんだね」
昊良 「は? んなことねーし」
浩太 「ふふ。あ、でも俺は自転車の方が身軽でうらやましいなって思うよ」
昊良 「そんなこともないけどね、雨の日大変だし」
浩太 「ああ確かに。レインコートって大変そうだよね」
昊良 「学校指定のやつはくそだせぇし、
結局濡れるし、いいことないんだ。
まぁ電車も電車で大変なんだろうけどね」
浩太 「お互いないものねだりだ」
昊良 「それな」
浩太 「……じゃあ、また明日ね」
昊良 「おう、気を付けて帰れよ。また、明日」
(浩太、帰りかけて振り返り)
浩太 「……昊良!」
昊良 「ん、なに?」
浩太 「俺たちさ!」
昊良 「うん?」
浩太 「……明日もし晴れたら……付き合ってみようか」
昊良 「……俺にそんなこと言っていいの?」
浩太 「……明日、晴れたら、だから」
昊良 「……そっか。明日、晴れたら、な」
浩太 「じゃあ、明日ね」
昊良 「おう。明日を楽しみにしてるよ」